第7話 明日に手を振って


「そろそろいい時間だな」


 腕時計を確認すると時刻は18時を指している。

 空はすっかりと夕焼け色に染まっており、そろそろ帰宅を考えた方が良いだろう。


「むぅ、もうそんな時間か?」


「あぁ、余り遅くなると親も心配するだろ?」


「そうであるな...。今日の所は休息の地に帰還するとしよう」


 ゲームセンターを出た俺たちは、今日の出来事を話ながら、お互いの帰路を目指す。

 久しぶりにゲームセンターに訪れたが、中々に楽しめる。

 神宮寺と2人で来るのは初めての経験だったが、1人の時とは違った楽しさがあった。


 また彼女を誘って遊びに来るのもいいかもしれないが、それは彼女次第だろうな。

 こうして満足げに今日の話をする彼女を見れば、それは杞憂かもしれないが。


「神宮寺の家はどの辺だ?」


「ここからそう遠くはないぞ」


「家まで送って行こうか?」


「心配無用。我は1人で帰還出きる故、気にせずとも大丈夫だ」


「そうか。俺はその道を右に曲がるから、ここでお別れだな」


 信号を渡った俺たちは、二つに別れた道の門で止まった。


「明人よ。今日は楽しかったぞ!」


「あぁ俺も楽しかった。神宮寺も気をつけて帰れよ。それじゃ、また明日学校でな」


 俺は神宮寺に手を振り、自身の帰路を歩き始める。

 その瞬間、背後から神宮寺の声が聞こえてきた。


「あ、明人!」


 俺は彼女の声に振り返る。


「今日は楽しかった!本当に楽しかったのだ!だから......その......」


 彼女は途中でいい淀んだ。

 何かを言おうとして迷っているような顔だ。

 その表現には少し不安の色が見える。

 数秒空いた後、左手に抱えている黒ペンさんをギュっと握りしめ、言葉の続きをつづり始める。


「また我と一緒に遊んで欲しい!また一緒に出掛けてはくれぬか?」


 それは少女のお願いだった。


 俺だって楽しかった。俺だってまた遊びに行きたいと思った。

 高校で初めて出来た友達と、それも趣味や好みが似ていて、一緒にいて面白いと思える奴と遊んで楽しく無いわけがない。

 遊びに行こうだなんて、俺の方からお願いしたいくらいだ。

 だから答えなんて決まっているだろう。


「あぁ行こう!ゲーセンだけじゃなくて他にも色々遊びに行こう!また一緒に出掛けよう!」


「本当か!?本当だな?」


「あぁ、勿論だ!」


 彼女の不安そうな表情が段々と明るくなる。

 どうやら彼女の悩み事はすぐに解決したようだ。

 そして今日一番の笑顔で俺に向かって声を送った。


「明人!また明日な!」


 少女は夕焼けを背後にこちらに右手を振っている。

 そのサラサラとした髪に茜色の夕陽が透け混んで幻想的だった。

 溌剌とした笑みは暖かいオレンジ色の中で少しも薄れる事なく、キラキラと輝いている。

 こちらを真っ直ぐに捉える青と赤のオッドアイが、淡い夕焼けのコントラストとなって驚くほどに神秘的だ。


 俺は、その姿に目を離さなかった。いや、離せなかった。


 そして、そんな彼女の事を綺麗だと思ったんだ。



 

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