第10話 テンプレート•サーチレイト

「………………すご」


 つい昨夜までエナジードリンクの空き缶やら携帯食の包装紙やらが散乱し、カオス状態だった応接間。しかし一晩明けて見てみれば----なんと言う事だろう。

 床にはゴミ一つなく、新築同然の輝きを放っている。辺りを見渡せばこの部屋のあらゆる家具が、設備が、見違えるほど綺麗になっている。一体、誰が。


「おはよう冬枝くん。あの後はよく眠れた?」


 俺の心を読んだかのようなタイミングで、そんな言葉を投げかけて来たのはエプロン姿の少女------引金御伽だった。



「体の方はどう? なんか変わったところとかある?」


 ソファに寝そべりつつ、超家庭的少女・引金が聞いてくる。俺はさっき彼女が焼いてくれたトーストを食みながら答える。


「今のところはないな。……まだ何とも言えないけど」


「それは何より。力の発動条件があったりするのかな。だとしたら早いとこ見つけた方がいいと思うけど……ところで冬枝くん、学校行かなくていいの? 今日平日だし、もう11時だけど」


「依頼が解決するまでは行かないんだ。学校。社長は依頼は二の次でいいから行けって言うけどね。あの様子見てたらそう言うわけにも行かなそうだし」


「そっか。……ま、確かにめちゃくちゃ大変そうだよね。今朝も私が起きた時にはもういなかった。エナジードリンクの量も病的だし」


「でしょ」


「うん。でもそれじゃ、全然勉強できてないって事だよね。それはいただけないな。こんな時代とは言え、学歴はあったに越したことはないよ」


「そ、そうかな」


 何だか雲行きが怪しくなって来た。「そうだよ」と彼女が言う。そして。


「だから空いた時間は私と勉強しよう。これでも『スクール』ではトップの成績だったんだから」


 誇らしげに胸を張る引金。

 やっぱりこうきたか。正直な話、勉強は死ぬほど苦手だ。単に性に合っていないのか何なのか。唯一の得意科目は数学だが、それも普通より少し上程度。

 忘れていた夏休みの課題を、お盆の時期に突然突きつけられたような気分だ。内心げんなりしつつ、朝食の食器を下げていると。


「あ」


 引金が突然何かを思い出したように声を上げた。


「今ので思い出した。冬枝くん、今すぐ九十三地区に行こう」


「え、なんで?」


「子どもたちに勉強を教えに行かなくちゃ。冬枝くん、暇なら一緒に行こうよ」


「………はあ?」


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