原罪孤児

プロローグ!!

京都府某所-----怪滅局本部。


 寺の講堂を無理やり改装して造られた局長室は、その用途に反して不自然な程にだだっ広い。伽藍堂の空間の中にぽつんと局長室があるその様は、滑稽にさえ映る。


「----まったく、センスの欠片も感じられない場所ね。いくら機能的とは言え、もう少しなんとかならなかったの? 針見」


 その局長席に相対するようにして立っている女性----唯一はまるで友人に話しかけるかのような気さくさで言葉を投げかける。この国を守る約一万名の怪人たちを束ねる、そのトップに向けて。


「まあなんとかしようと思えばなんとかなるんでしょうが、なんにせよ時間は有限です。部屋の模様替えをしている暇など私にはないのですよ。第九位。暇なあなたとは違ってね。もっともあなたは暇なのでは無く、ただ奔放なだけだと言えばそれまでなんですが」


 先ほどまで読み込んでいた資料から顔を上げて、その落ち窪んだ目の下にクレーターのようなクマを作っている男-----針見は挑発するように答えを返す。


「言うじゃない中間管理職。なんならここでスクラップにしてあげてもいいわよ? あなたとっても潰しやすそうだし」


「いっそのことそうして欲しいくらいですけどね----そうなると『アレ』の管理をする者がいなくなってしまいますので。----ああそう。先ほどの面会で報告を受けたんでした。何でもコード一と人間の融合体が生まれたとか。眉唾物の与太話で済ませられる代物じゃありません。あなたがここにきた動機も、その件に関係があるんじゃないですか?」


「……第十位ね。『何でもお見通し』なんてのは御伽話の中だけにして欲しいわ。これほど業腹なこともない。でもまあそうよ。融合体関連の事情でここにきたの。単刀直入に言うわ。『補完庫』の鍵を渡しなさい」


「貴女なら鍵なんかなくてもこじ開けられそうな物ですが----意外とそういうこと気にするんですね」


「まあね。これでも一応怪『人』だから。最低限の体裁は守るつもりよ」


 澄ました顔で言う彼女を見て、嘆息する針見。心底疲れた様子でポケットから鍵を取り出すと、唯に向かって放った。

 鍵を受け取った彼女は特に礼を言う事もなく針見に背を向ける。早速例の『補完庫』へと向かうつもりらしい。


「一つ、聞かせてください」


 針見の言葉に、唯の足が止まる。


「『補完庫』から何を取り出すつもりですか? ……いえ、これは単純に私個人の興味ですよ。別に何を持ち出そうと貴女の勝手だ。我々にそれを止める手立てはないんだから。どうですか? 鍵を素直に渡した礼として、教えてはくれませんか」


 唯一は振り返る。

 ブロンドヘアが靡く。

 漆黒の軍服が翻る。

 その口唇を歪めて、彼女は言う。


「取り出すのは私の親友。唯一無二の、友人よ」

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