第4話 変容
いつの間に背後にいたのか。
件の日本刀の持ち主。
青みがかった長髪を後ろで一つに束ね、黒いジャケットを半端に羽織り、紺の袴を身につけている。美少年じみた顔つきと、それに似合わない鈴の音のような高い声も相まって、どこかアンバランスな印象だ。
「恨むなら恨め。私は好きでこの所業を成している。個人の趣味趣向で殺されるお前の怒りは正しい。して、そこの女------」
結果として、彼女(?)がその言葉を最後まで紡ぐことはなかった。
「セリフの途中で蹴り飛ばすとは、無粋」
数メートル先のコンクリート壁にヒビが入るほど叩きつけられた彼女は、たち上がろうと膝を立てる。
「彼は私が救った命一号。ここでその命を取り落とすわけにはいかない」
引金御伽は、彼女を蹴り飛ばした張本人は、額から血を流すアンバランスなそれを睥睨する。
「……そうか。私の名前は
「最初からそのつもりだけど? 人間」
それは、人並「外れた」死闘の合図。
最初に仕掛けたのは剣柄。
数メートルある引金との距離を体を大きく屈めて、縮める。
一気に彼女の懐まで。
そして未だ血に濡れた日本刀を、振り抜く。
「---------!」
化け物じみた縮地。
体の重心を傾け、それを利用して一気に彼我の距離を縮める技術。彼女はもはやそれを伝説に語られる仙術の如きクオリティで再現している。
引金は当然反応できない----訳がない。
人間離れした反応速度で体をわずかに逸らし、その大振りを最低限の労力で避ける。剣柄の正面は完全なノーガード状態。そんな彼女に引金は容赦なくアッパーを打ち込む。周囲の空気が波状に震える。一体その細腕のどこからそこまでの膂力が生み出されるのだろう。
これが人間と怪人の差。
そもそも生物としての規格が違うのだ。
凄まじい速度で繰り出されたアッパーは剣柄の顎にクリーンヒット。脳がこれでもかと言うほどにシェイクされ、即昏倒のはずだ。普通であれば。
「………っつ。流石は怪人。お得意の異能に頼っているからと言って、フィジカルで劣っていると言うわけではないのか」
「普通の怪人だったらそうだと思う。実際怪人と人間のフィジカルの差なんてちょっと人間より丈夫、くらいだし。でも私は違う。諸事情で能力は怪獣以外に使えない。だから、鍛えた」
「そうか。ならば私は運がいい。久々に長く戦えそうだ」
「長くは戦わない。速攻倒して彼を病院に連れて行く」
------ちなみにこの間、十数秒。
つまり先ほどまでの攻防はほんの数秒のうちに、一瞬のうちに、常人であれば目で追うことすら許されないほどの速度で行われた。しかし俺は今、それを追うことができている。
なぜ?
そんな立派な動体視力は生まれてこの方持ち合わせていた覚えがない。
それに、先ほど貫かれた胸の傷も、すでに何事もなかったかのように消え去っている。
急速再生。
あれほど強大な怪獣を一撃で消滅させた引金の一撃。
その渦中にいてなお無傷。
もはや人間の所業ではない。
『人の形をした怪獣とは、地球も随分人が悪い』
剣柄の言葉がフラッシュバックした。
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