よくあるけど良くない話
第0話
「…………ありえない」
そう呟きつつも、しかし彼女は心のどこかで思っていた。やつならあるいは、そういうこともあり得るかもしれないと。
コード一の電波反応が日本の、それも九州で確認されたという報告。それを受けた彼女は今黒塗りのヘリで九州南部へ向かっているところだ。九州といえばあの獣の襲来以来、怪獣の出現報告がほとんどない----つまり一番防御が薄い地域。もしあの怪物が蘇ったとすれば、獣の爪痕ごとき、取るに足らない些事であるということなのか。それとも、あの災厄ももはや七年前の出来事。爪痕の効力も落ちつつあると、そういうことなのだろうか。
ヘリは夜空を縫って目的地へと着実に歩を進めている。このまま順調にいけば明日の朝には九州の大地が拝めるだろう。
何も問題はない。
普通であれば。異端でなければ。
通常であれば。異常でなければ。
ただ一つ問題があったとすれば。
「………おっそい。だから私最初に言ったのよね。『一人で』行くって」
そう言っておもむろにシートベルトを外す彼女。立ち上がり、なんの躊躇もなくドアを開け放つ。
目もまともに開けていられないほどの突風が機内に流れ込む。
「ちょ、何やってんですか!? ここ今、上空三千メートルですよ?」
パイロットの必死の悲鳴も、しかし彼女には届かない。
「局員なら私たちのこと、常識で測らないことくらい常識でしょ? 私はあなたとは違う。怪人、なんだから」
バーイ、と言って機体を思いっきり蹴り飛ばす彼女。その体は空中に投げ出され、そのまま急降下することは----なかった。
浮いている。
まるでその空間だけを切り取って、彼女の姿を当てはめたかのように。彼女はそこに起立して留まっていた。
魅力的なウインクを残し、颯爽とその場をさる彼女。
パイロットは放心状態で開け放たれたドアを閉めた。
あれが、怪人。
人類の守護者にして最後の砦。人がその二十万年の歴史の中で獲得したテーゼ。その堂々たる姿は世間一般に言われる異端者ではなく、時代を踏破する英雄を想起させた。
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