学校一の美少女なんて他人からの評価によるものだよね

「なん……だと……」


 俺の言葉に大きく目を見開く佐山。

 おれの言っていることを信じられない。そういう顔をしているのが見て取れる。


「ど、どういうことだクズ原! モテるやつがモテるなんて、お前なにを……」


「落ち着け。お前にも分かるように例え話をしてやろう。ラノベや漫画なんかで、学校一の美少女が出てきたりするだろ? いろんな男に告白されまくっても主人公以外にはなびかないようなさ」


 困惑する佐山を宥めつつ、諭すように俺は話す。


「あ、あぁ。確かに出てくるが……」


「じゃあ何故その子はどうして学校一の美少女と呼ばれてると思う?」

 

「え、そりゃ……学校で一番可愛いからじゃないのか? だから告白されるわけだし」


「違うな。間違っているぞ佐山。逆だ。可愛いからじゃない。いろんな男から告白されるから、その子は学校一の美少女として扱われるんだ」


「なに……?」


「考えてもみろ。いくら可愛かろうと、誰かと付き合っていたらその時点でその子はただの彼氏持ちの美少女だ。噂になったとしても、彼氏がいるからで終わるに違いない」


 ここで一旦、言葉を区切る。続く内容を強調するためだ。


「だが、仮に誰とも付き合っておらず、告白をことごとく断っているとしたらどうだ? 中にはイケメンや有名なやつもいるのに、告白を断り続けてるなんて噂を聞いたら、お前だって気になるんじゃないか?」


「それは……確かにそうかもだが」


「だろ? そうして興味を持たれていくうちに尾ひれが付いて、やがて学校一の美少女ととして扱われるようになるわけだ。振られたやつにとってはそんな話を流すことで、相手のほうが上だから自分が告白を断られるのも仕方ないと自分に言い聞かせる意味合いもあるかもしれんがな」


 相手を持ち上げることで振られた自分を慰められる。まさに一石二鳥と言えるだろう。

 ちょっと情けないと思うかもしれないが、それで気持ちを切り替えることが出来る人間も世の中には確かにいるのだ。


「なんか生々しいな、おい」


「人間そんなもんだろ。まぁ要するに、そうやって付加価値が生まれていくんだよ。モテてる人間が更にモテるようになる理由付けってやつがな」


 俺の場合は幼馴染たちに貢がれていることで興味を持たれていたのだろうが、そこに球技大会での活躍が加わったことにより、運動も出来るイケメンとして認識され、アイドルに貢がれるほど魅力的な男であると思われるようになったのだろう。

 当然のことではあるが、悪い気はしない。

 

「分かるか、佐山。噂が噂を呼び、価値を増していくんだ。人間は人気があるものが好きという本能がある。『ダメンズ』が人気アイドルグループになったのも同じ理屈だ。イチイチ嫉妬してたらキリがないぜ」


「いや、ちょっと待てよ。その理屈が正しいなら、モテないやつは永遠にモテないってことじゃないか!」


「ん? そうだよ?」


 佐山が憤りもあらわにつっかかってくるが、俺から言わせればなに当たり前のことを言ってるんだとしか言いようがない。

 

「常識的に考えろよ。顔も成績も普通で別に部活を頑張ってるわけでもない、それまで平々凡々に生きてるやつなんかモテるはずがないだろ。むしろ目立つ要素がないのにモテるほうがよほど不平等だと俺は思うがな」


「ぐぐぐ……」


 歯ぎしりする佐山だったが、反論出来る材料がないのだろう。

 押し黙るしかなく、悔しそうな顔で俯くだけだった。


(さて、これでようやく静かになったな)


 そんな佐山に満足しつつ、俺は食事を再開することにした。

 今日は幼馴染たちが仕事で休みだし、佐山との会話は丁度いい暇潰しにはなった。

 後は昼休みが終わるまで、適当に『ダメンズ』のブログでも眺めて更新でもするか……そんなことを思いつつ、手に持ってたパンを頬張ったのだが、


「ねぇクズっちクズっち」


「んぁ?」

 

 不意に呼びかけられ、そちらを見る。

 そこにはクラスメイトである夏純紫苑が立っていた。


「何だ、夏純。なんか用か」


「いや、実はね。クズっちに話があるっていう人がいるみたいなんだけど……」


「はぇ?」


 我ながらなんとも間抜けな声をあげてしまうも、見ると教室の扉の近くに、見慣れない女子生徒の姿がある。


「ありゃ、マジか」


 どうやら、まだ騒がしい昼休みの用事は続くようだった。

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