この世はモテるやつがモテるように出来ているんだよ

「聞き方、ちょっとミスったかもしれん……」


 告白を受けてから十分後。自分のクラスに戻った俺は昼飯を食いながら、これまた自分の席で少し悩んでいるところだった。


「ミスったってなにをだよ」


 そんな俺の嘆きにツッコミを入れてくるのは、対面に座る佐山だった。

 昼休みが始まってそれなりに時間が経っているというのに、飯を食う俺の席にまでわざわざやってきたのである。

 コイツ、実は俺以外にロクに友達がいないのか……? ぼっち疑惑が浮かんできた佐山を少しだけ哀れに思いながら、俺は告げる。


「告白の対応。泣かしちゃってさ。少し反省しているところなんだ」


「…………は?」


 ため息交じりにそう話すと、何故かポカンとした顔する佐山。


「あの、告白って誰が、誰に?」


「俺以外にいないだろ。呼び出されて告白されてきたんだよ。ついさっきな」


 この流れで他にいないだろうに。なにを言ってるんだと呆れていると、佐山は大きく目を見開き、


「はああああああああああああああああ!!?? お前が!? なんで!?」


 これまたデカい声でそんなことを言ってくる。


「そりゃ俺のことを好きになったからだろ。告白してくる以上、それ以外ないだろうが」


「いや、それがおかしいんだって!? なんでお前みたいなガチクズが告白されるんだよ!? そんなの絶対おかしいだろ!!」


 失礼なやつだな。人をクズ呼ばわりするとか。人をクズとか言うやつのほうがよほどクズだと思うんだが。


「あのなぁ。俺はクズじゃないし、なによりイケメンだぞ? この前の球技大会でも大活躍したし、惚れる女子がいたとしても何の不思議もないだろうが」


「不思議しかねーよ! 大体、その活躍とやらは俺らの犠牲があってのことだろ! あの後、俺を含めてクラスの数人は筋肉痛と疲労で寝込んだんだぞ! ネコミミメイドやチアガールの写真がなかったら、今も生死の境を彷徨ってたわ!」


「生きてたなら別にいいだろ。つーか、コスプレ写真があるんだから問題ないじゃないか」


「それとこれとは別だ! 大体、俺はまだ納得してねーからな! なんでお前みたいなクズが雪菜ちゃんたちの幼馴染なんだよ! 俺みたいに真っ当に生きてるやつが、本来はお前のポジションにつくべきだろ! あまりにも理不尽すぎるわ畜生!」


 冷静にそう諭してみるが、納得がいかないと更に声を荒げてくる佐山。

 ちゃんと論理立てて話してやってというのに、この態度はどうかと思う。

 これがモテない男のひがみというやつだろうか。実際に目の当たりにしてみると、見苦しいことこの上ないな……。こうはなりたくないと切に思う。


「ふむ……じゃあちょっと聞くが、佐山。お前、告白されたことはあるか?」


 とはいえ、あまり怒りが続いても面倒だ。

 佐山は一応友人であるし、この世の理というものを教授してやることにしよう。


「え、なんだよいきなり……そんなの、一度もないけど……」


「そうか、俺は今週だけでも三回されたな。ちなみにどの子も『お金稼いで出直してきますぅっ!』と言ってくれたぞ。あの感じだと、そのうちまた来るだろうな」


 特に今日告白してきた子は泣きながら「夏休み明けまでに読モで稼ぐし、ギャンブルで増やしてくるので待っててください!」と言い残し走り去っていったくらい、大変ガッツのある子だった。

 具体的な計画を即座に立てて伝えてくるあたり、将来有望と言っていいだろう。

 いくら貢いでくれるか楽しみである。それまでに俺が幼馴染たちの手によって監禁されていなければの話ではあるんだが……。

 まぁ、これについては今は置いておこう。まだ時間があるからな。目の前のことに集中するのが先決だ。


「……………」


「さて、次の質問だが、佐山は自分のことをイケメンだと思うか?」


 押し黙り、俺のことを親の仇のような目で睨んでくる佐山に質問を続けた。


「いや、さすがにイケメンとは……中の中か、中の上くらいだとは思うけど……」


「そうか。俺は自分のことをイケメンだと思ってるぞ。上の上、もしくはSSクラスの顔面偏差値はあるだろう。雪菜も日頃から俺のことをカッコいいと言ってるし、まず間違いないだろうな。おまけにイケボまで備えているし、天から愛されていると言っても過言ではないぜ」


 俺としては別に相手の顔を気にはしないが、養われたい身としてはイケメンであるに越したことはない。


「イヤミか、貴様……」


「じゃあ最後の質問だが、お前は自分に自信があるか? もしくは自信を持っていることでもいい。なにかあるなら、言ってみてくれ」


 殺意のこもった眼差しで見てくる佐山を無視して問いかける。

 しばし迷いを見せた佐山だったが、やがてゆっくり首を振り、


「いや、特には……『ダメンズ』への愛なら間違いなくあるけど、それ以外は……」


「そうか。俺は自分に自信しかない。アイドルをやっている幼馴染たちに貢がれてるし、将来働かずに遊んで暮らせるビジョンも明確になってきてるからな。これだけでも勝ち組確定なのに、抜群の運動神経や優れた頭脳まで併せ持っていると来たもんだからな。我ながらあまりにハイスペックすぎて、お前らに憐れみすら覚えるよ。ごめんな、全部持っていて。本当にごめん!」


 如何にも自信なさげに呟く佐山に申し訳なくなりながらも、俺は自分の素晴らしさを語ってみせる。

 言い終えた途端、「テメェー!」などと叫びながら、何故か殴りかかってきたが、生憎と遅かったので避けるのは簡単だ。ちょっと首を傾けてひょいっと躱す。


「おいおい。教室で暴力は感心しないぞ」


「うるせー、避けんな! さっきから自慢ばかりしやがって! なにが言いたいんだお前はよぉっ!」


「分からないのか? 簡単だ。俺がモテるのには、れっきとした理由がちゃんとあるって言いたいんだよ」


 まだ怒りが収まらないらしい佐山を手で制しながら、俺は言う。


「いいか、佐山。この世はな、イケメンや陽キャがモテるんじゃない――モテるやつがモテるように出来ているんだよ」

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