エピローグ① チッ、ハーレムかよ
無事1年B組を打ち倒し、球技大会優勝を果たしたその日の夜。
かねてからの公約通り、伊集院はナイトクルージングを開催し、俺たち二年D組の生徒は海の上にいた。
クラスメイトたちの顔には一様に笑顔が浮かんでいる。それも当然だろう。
高校生ではまず手に入ることのない報酬を貰えることに加え、豪華客船で一夜を過ごせるんだからな。
衣装も無料で貸し付けられており、学校の制服そのままの生徒もいれば、豪華なドレスに身を包んだ生徒の姿も見ることができる。
ちなみに祝勝会が始まるまでは少し時間があるため、今は自由時間である。
大きな船内には様々な店舗も見受けられ、記念に何か買おうと友人と一緒にはしゃぐやつもいれば、船内の様子をSNSにアップし、バズりを狙うようなしたたかなやつもいた。
一夜限りの夢ではあるが、ひとまずこの場を楽しむことが正解であるに違いない。
なかには豪華なお酒に目がくらみ、早くも酔い潰れている担任教師の姿もあったが……まぁ所謂、勝利の美酒というやつだったんだろう。
タダで美味い酒が飲めたんだし、仮に二日酔いになったとしても、それは自己責任というやつだ。
なにはともあれ、各々が思い思いの時間を満喫していることには違いなかった。
そんな中、俺はというとクラスメイトたちとはちょっと違う場所にいたりする。
「カズくん、気持ちいいね」
「ナイトプールなんて機会がないと思っていたけど、案外悪くないわね」
そこは客船の屋上にあるナイトプール。
約束をきっちり守り、俺はふたりを連れてここまで来たのだ。
しかも完全貸し切り。ライトアップされたプールは煌びやかな光を放っており、雰囲気に合わせたBGMも流れている。なんともブルジョワジー溢れる仕様だ。
俺としても大満足であり、優勝してよかったと心から思う。
「豪華客船から水着配信……これはバズる、間違いなくバズる……!」
「紫苑、パソコンは使用禁止。てか水に濡れたらどうすんの。危ないことしちゃ駄目だし」
雪菜やアリサは勿論のこと、ふたりと仲のいい猫宮たちも一緒だ。
当然ながら全員が水着姿だ。男子は俺ひとりのみである。
季節的にはまだ泳ぐには多少早いが、そこは温水プールになってることもあって肌寒さを感じることはない。
東京の夜景も堪能出来て、中々に贅沢な時間を満喫していると言えるだろう。
「いやあ、伊集院に感謝だな。誰にいない貸し切りのナイトプールとか、最高に贅沢だもんな」
「お気に召して頂けたようでなによりです、次はこちらのアイスなどはいかがでしょうか?」
「お、サンキュー。一之瀬、丁度甘いもの食べたかったんだよね」
時折プールサイドに跪く競泳水着姿の一之瀬に給仕してもらい、食事を楽しむことも忘れない。
水着の美少女たちに囲まれてるとか、まるでこの世の王様になった気分になるな。
あ、ちなみに必要ない情報かもしれないが、ここに伊集院はいない。控え室でぶっ倒れているからだ。
伊集院にとって推しのアイドルと一緒に着替えるというのは、少々ハードルが高かったようである。
盛大に鼻血を垂れ流していたようだが、恍惚の笑みを浮かべていたようなので、本人的には満足のいく死に方だったに違いない。別に死んではいないけども、多分後悔はないだろうな。
一之瀬は嘆いていたが、あれはもう治らないだろうし諦めも肝心だと俺は思う。
「もぐもぐ……うん、美味いなこれ。気に入ったぞ」
「ご主人様、こちらのケーキもオススメですよ。はい、あーん」
「あーん」
「あっ! ちょっとズルいよ一之瀬さん! 私もカズくんにあーんさせてあげたいのに!」
「ていうか、プールに入りながらなにやってんのよアンタは……」
大きく口を開け、一之瀬からケーキを食べさせて貰おうとしたところに文句を挟んでくる幼馴染たち。
「なにって、水着メイドさんにデザートを食べさせて貰っているだけだが?」
平然としながら、俺は答える。
メイドさんがあれこれ世話をしてくれるというなら、健全な男子高校生であれば身を任せるのは当然のことだろう。俺はなにも間違ってない。
「カズくんカズくん! 現役人気水着アイドルにお世話されるのも凄くレアなことだと思うよ! だから私にもお世話させて? ね? ね?」
「生憎ですが小鳥遊様。ご主人様のお世話はわたしの仕事です。主人に尽くすのはメイドの本職ですので、アイドルである小鳥遊様はご主人様の目の保養に全力を尽くすのが道理というものではないでしょうか」
「私はアイドルの前にカズくんの幼馴染だもん! 幼馴染だったらカズくんに尽くすのは当たり前のことなんだよ! そうだよね、アリサちゃん?」
「え、そこでアタシに振るの? ま、まぁそれは否定しないけど……」
「二対一でくるとは。流石アイドル汚い、数の暴力でくるのは感心しませんよ?」
「数だけじゃないもん! おっぱいだって勝ってるし! ほら、アリサちゃんとか凄いんだよ。なんたって、今も成長中なんだから!」
「きゃっ! ちょっ、やめてよ雪菜! いきなり後ろから持ち上げないでってば!」
「くっ、大きさを見せつけてくるとは。わたしだっていずれ必ず……!」
俺を巡ってじゃれ合う、水着姿の美少女たち。
目の前で行われているので、パシャパシャと水しぶきが飛んでくるのはちょっと嫌だが、それはそれとしてたわわな胸が揺れているのを見るのは中々にオツなものがある。
「フッ、モテる男はつらいものだな。大会のMVPでもあるし当然だが。酒でもあれば、ここで一杯煽って悦に浸りたいところだぜ」
まあ高校生なんでそれは無理なんだが。
代わりにプールサイドに置かれたジュース入りのグラスを取ろうと手を伸ばす。
「未成年者飲酒はダメですよ、おにーさん」
が、すんでのところで伸ばした腕は空を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます