女王ルリ様ばんざあああああああああああああい!!!
それから約数十分後。
仕込みを終わらせた俺は、決勝の舞台であるグラウンドまで来ていた。
俺以外の選手は既に全員揃っているようなので軽く顔色を窺ってみたのだが、対戦相手の一年生たちの方にはまだ余裕がありそうなのに対し、うちのクラス連中は全体的に覇気がない。
というか、単純に体力が尽きかけている、もしくは既に限界を迎えているやつが多いようだ。
決勝に至るまでずっと走りっぱなしだったし、当然と言えば当然なのだが、これはあまり良くない。
疲労困憊であることを顔に出してしまっては、向こうに「これはイケる」と思われてしまう。
始まる前から精神的イニシアチブを握られているようなものだ。案の定、相手の中にはニヤニヤしている選手もチラホラいる。
(こりゃやることやっといて正解だったな)
自分の判断が間違っていなかったことを確信しつつ、歩を進めていくと審判が手を挙げた。
「両チーム、整列!」
合図に従い素直に並ぶ。
後は試合開始の笛を待つのみだったが、その前に対面に立った三下が話しかけてきた。
「遅かったですね葛原先輩。待ちくたびれましたよ」
「そうか。そりゃ悪かった。時間通りに来たつもりなんだがな」
「そういう意味ではありませんよ。意外と察しが悪いんですかね? 宣言通り叩きのめしてあげる時がやっと来たと、そう言っているんです」
いつぞやのようにメガネを怪しく輝かながら、、くつくつと笑う三下。
その姿はまさに
もっとも、そのことに本人は気付いていないらしい。それがいいのか悪いのか俺には判断が付かないが、本人はえらく楽しそうである。
「僕は今日貴方を倒し、ルリ様の真なる下僕となる! ルリ様に聖なるおみ足で踏んで頂き、豚としての新たな人生を享受するのです! 今日が僕の新たな生誕祭だああああああああああああああああああ!!! 我が偉大なる女王ルリ様ばんざあああああああああああああい!!!」
クイクイクイッと、凄まじい速さでメガネの位置を直しまくる三下。
速度が明らかに上がっている。ついでにテンションも上がってる。あと皆は引いていて、さり気なく距離を取り始めてる。
傍から見れば、いやそうでなくとも今の三下は完全にヤバいやつとしか言いようがない。
「――言いたいことはそれだけか」
だが俺はそんな三下に、敢えて真っすぐ言葉をぶつけた。
「なんだと……?」
「言いたいことはそれだけかと言っているんだ。自分勝手なことばかり言って、お前からすればさぞ満足なんだろうけどな」
「なにを言っている! 僕は勝手なことなんて……!」
「だってそうだろ。お前の言葉からは、『ダメンズ』への想いがまるで感じられないんだからな」
俺の言葉を受け、三下は一瞬怪訝そうな表情を浮かべるが、すぐにそれは嘲笑へと変わる。
「想い? はっ、なにを言うかと思えば……僕はルリ様に誰よりも忠誠を誓っているんだ! この気持ちは間違っているとでも言うのか!? 貴方にそんなことを言われる覚えはない!」
自分の気持ちが馬鹿にされた。そう思っているのかもしれない。
「ルリへの想いは俺だって否定しないさ。だが、お前は一番大事なことを忘れている」
「大事なこと? なんだ、それは!?」
完全に激昂している三下に、俺は一度息をつく。
そして、
「決まっているだろう。それは『ダメンズ』が、単独のアイドルじゃないこと。アイドルユニットであるということだ」
そう告げた瞬間、三下の目が大きく見開かれた。
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