またロクでもないこと考えてるな……

時計の針は進み、決戦の舞台は午後へと移る。

とっくに脱落したクラスも多かったが、その熱気はまだ冷めていない。

球技大会は、勝ち残ったクラスにより各地で更なる熱戦が繰り広げられていた。


「たまき、ディフェンスそっちいったわよ!」


「っ!」


 特に白熱していたのが女子バスケだ。

 現在行われているのは決勝戦。猫宮が戻ったことで士気が上がったようで、うちのクラスは、無事決勝まで駒を進めていた。

対戦相手は三年生。『ダメンズ』のメンバーがいるとあって、体育館の観客も満員だ。

 見たところ地力は向こうの方が僅かに上だが、多くの視線に晒されているプレッシャーからか、相手チームの動きは微妙に精彩を欠いていた。

一方で他者からの視線に慣れている雪菜やアリサ、マイペースな一之瀬はそんなことを苦にもせず、いつも通りのプレイで着実に点を重ねている。


「負ける、か!」


 猫宮も怪我をしたことである種吹っ切れたのか、あの後プレイにキレが増し、現在チームで最多得点を記録している。

 今も背後から来たディフェンダーを交わし、シュートを決めたところだ。


「やった……!」


「ナイス、たまき!」


「点差も出来たし、いけそうだね」


 会場は拍手喝采。大盛り上がりの様子を呈している。

 点を取った猫宮にメンバーが次々ハイタッチをし、雰囲気もいい。


「コヒュー……コヒュー……ナ、ナイスシュートですわ。わたくしも命のロウソクを燃やしている甲斐があるというもの。ああ、ときが見える……」


 ……まぁ中には守備に全力を尽くして死にかけているやつもいたが。

 それもご愛敬というものだろう。

なんにせよ、雪菜たちは優勢にゲームを進め、終了のブザーまで相手に主導権を渡すことはなかった。


「優勝だー!」


「やったよカズくん!」


「約束守ったわよ和真!」


「ああ、よくやったな皆」


 コートから喜び勇んで駆けてくる雪菜とアリサを出迎える。

 テンションが上がっていたのか、ふたりからは思い切り抱き着かれるが、まぁいいだろう。

 こういう時に注意するのは野暮だしな。

 頑張ったご褒美として、ふたりの頭を軽く撫でる。


「あ……カズくん、気持ちいい……」


「ん、和真。もっと……」


 目を細めるふたりを撫で続けながら、俺は少し違うことを考える。

女子バスケは見事優勝を勝ち取り、俺たち男子サッカーも決勝戦を残すまでとなっていた。

 これはもはや俺たちの優勝は決まったようなもの……と言いたいところだったが、そう上手く話が進まないのがお約束というものだ。


「……ご主人様。お楽しみのところ申し訳ございませんが、ご報告があります」


 背後から一之瀬の声が聞こえた。

一之瀬もかなり走り回っていたはずなのだが、その声はいつも通り平坦。疲れを微塵も感じさせることはないのは、流石完璧メイドといったところだろうか。

雪菜たちに抱き締められている状態のまま、俺は一之瀬と会話する。


「なんだ」


「先ほど別コートで行われていた男子バレーが敗北しました。男子はまだ予選の段階でしたので、そのまま敗退したようです」


「ちっ、そうか」


 決勝どころか三位決定戦に進むことなく敗退か。これではポイントも入らないな。


「まぁ負けちまったもんは仕方ない。男子バレーの優勝候補はどこが残ってる?」


「一年B組ですね。他にめぼしい候補もないので、このままいけば順当に優勝するかと思われます」


「またか。女子のバレーに続いてやられたな……」


 思わず舌打ちする。女子バスケでは予選敗退していたが、女子のバレーで一年B組は二位につけていた。

俺たちは三位で、一位は意地を見せた三年A組に持っていかれた形となっている。

 現在俺たちの総得点数は百十ポイントで一位ではあるが、五十ポイントを獲得している一年B組がバレーで優勝すればそのポイントは百五十となり、俺たちを上回る。


「となると、決着は俺が付けることになるわけか」


 俺たちがサッカーの決勝で戦う対戦相手もまた、一年B組。

 一位になれば100ポイントが入る。二位なら50ポイント。

 つまりおれたちが勝てば二百十ポイントとなり、二位とは十ポイント差で優勝となる。

 負ければ順位が入れ替わることなくそのままだ。この戦いが文字通り球技大会優勝を賭けた最後の決戦になる。


「シンプルっちゃシンプルだな。まぁいいさ。勝てば問題ない」


 そう、結局は勝つか負けるか。それだけでしかない。

 世の中そんなもんだ。そして俺は負けるつもりは一切ない。


「カズくんカッコいい……」


「負けないでね、和真。アンタなら勝つって、アタシ信じてるから」


「ああ、任せろ。俺は絶対勝ってみせる」


 雪菜とアリサが俺を見上げてくるが、力強く頷きを返す。


「ただ、そのためにお前たちにも協力して欲しいんだ」


「え、私たちに」


「協力……?」


「ああ、お前たちにしか出来ないことだ。頼めるか?」


 そう尋ねるが、断られるなんて微塵も思っていない。

 事実、ゆっくりと、だが確実にふたりは頷いてくれたのだから。

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