アイドルは身体が資本だからね、仕方ないね

運動着に身を包んではいるものの、顔はいつも通り楽しそうな小悪魔系アイドルのそれだ。アイドルとしての輝きを損ねることが一切ないのは流石だが、今はあまりにもタイミングが悪すぎる。


「クズ原? どうしたの?」


「悪い! ちょっと用事出来た! すぐ戻る!」


 幸いルリの身体は俺の影に隠れていたため、猫宮には勘づかれなかったようだ。

 今このタイミングで俺とルリが知り合いだとバレるとややこしいことになるからな。

 そのことを察した俺は、ルリを連れてその場を離れた。猫宮と話を続けられなかったことは誤算だが、仕方ない。


「もー、おにーさん。そんなにルリと一緒にいたかったんですか? それならそうと言ってくれればいいのにぃ」


「お前がいると色々ややこしくなるんだよ! もうちょいタイミング考えろ!」


 やがて人気のない場所にたどり着くと、改めてルリと対峙する。

 久方ぶりの再会ではあったものの、こいつは色々と予想外の行動を取ってくるので全くもって油断ならない。


「ルリは気まぐれなんです。タイミングとかそういうの、プライベートではあまり考えないようにしてるんですよね。だってそのほうがカワイイので!」


 いや、別に気まぐれと可愛さは関係ないだろ。ツッコミたいが、こいつがそんなことで効くタマでないことは承知済みだ。


「はぁ。もういい。とりあえず、一体何の用があって来たんだよ。てか、お前は競技に参加しなくていいのか?」


「ルリはアイドル意識高いので、今回は見学です。万が一にも怪我したくないですからね。おにーさんに会いに来たのはルリとの約束忘れてないかなーっと思って。念のための確認ってやつです」


 思ったより真っ当な理由だった。

 いち学生としては競技に参加しないのは頂けないところだが、ルリは『ダメンズ』でもトップの運動神経を誇ると言っていい。

 大会に参加していれば確実に脅威になる存在だったので、優勝を目指す身としては朗報ではある……真白に関しては本人の名誉のためにも、あまり触れないでおこう、うん。


「ふーん、流石だな。ま、優勝に関しては心配しなくていい。三下にも言ったが、勝つのは俺だ。優勝を譲る気は全くない」


「おお! やっぱり頼もしいですおにーさん!」


 嬉しそうにパチパチと手を叩いて喜ぶルリ。

 これだけを見ると、素直に可愛いんだがなぁ。余計なことをしなければ、と注釈を付けないといけない現状が、なんとももどかしい。


「三下くん、張り切り過ぎて困ってるんですよねぇ。ルリ様に勝利を捧げるなんて言っちゃってましたし。おかげでクラスにも居づらくて、ぶらぶらしてるのが楽しくなくて最悪ですよー」


「お前でもやっぱりあいつは持て余してるのか……」


「ええ。そりゃあもう。ルリとしては実力で『ダメンズ』のセンターになるつもりですし、余計なことはしないで欲しいんですよねぇ。対立する気満々で、もう困っちゃいますよぅ」


 大きくため息をつくルリだったが、ここで俺にある閃きが生まれる。


(対立、か)


 話を聞く限り、ルリに踏まれたいのは勿論だろうが、ルリが所属するクラスである自分たちこそが優勝し、ルリが一番であることを証明したいというのが、三下たちの原動力のように思う。

 だとすれば、その原動力そのものを奪ってしまうのが手っ取り早いのではないか。

 そのためには……。


「ルリ、ちょっといいか。協力して欲しいことが出来た」


「へ? ルリにですか」


「ああ、お前の力が必要なんだ」


 なんのことが分かっていないルリに、俺は先ほど思い付いた作戦を告げるのだった。

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