さり気なくクズな発言するのはどうかと思うな


「カズくんカズくん、試合で疲れたんじゃない? ちょっとお休みしようよ。空き教室なんてどうかな?」


「別にそれはいいが、ホントに休むだけなんだろうな?」


「それは和真次第じゃない? アタシたちが出るバスケの試合ももうすぐだし……」


「すみません、葛原先輩。ちょっとよろしいでしょうか」


 試合を終え、雪菜たちと一緒に適当に校内の見回りをしていた俺に、ひとりの男が話しかけてきた。

 

「お前は……」


「一年の三下です。球技大会実行委員として、何度か顔合わせをさせていただいてますね」


「ああ、そういえばそうだったな」


 確かに見覚えのある顔だ。俺は養ってくれない相手には基本的に興味はないが、現状では優勝を争うライバルとしてある程度意識はしている。


「まずは一回戦突破おめでとう。圧勝してたじゃないか。やるな」


「ありがとうございました。ま、先輩のクラスほどではないですけどね」


 言いながら、軽くメガネを治す三下。どうやらお世辞だと思われたようだな、無理もないが。


「で、何の用だ。試合が終えたばかりなのに来たということは、急ぎのようでもあるのか?」


「えぇ。少しお話したいことがありまして。今、時間よろしいでしょうか」


 チラリと雪菜たちを見ながら三下は言う。

 ……どうやらあまり他人には聞かれたくない話のようだな。

 別に気を利かせる理由もないが、三下の話とやらが気にならないわけでもない。


「悪い。ちょっと話があるみたいだから行ってくるわ」


「それはいいけど……大丈夫? 私、着いていったほうがいい?」


「問題ない。実行委員の後輩だし、そっち絡みの話みたいだからな。終わったらすぐにバスケの応援に行くよ」


「ならいいけど……早めに戻ってきなさいよ。待ってるからね」


「ああ」


 雪菜たちに軽く手を振りながら、俺は三下の横に並ぶ。


「んじゃ行くか」


「ええ。しかし、随分仲が良さそうですね。アイドルを幼馴染に持つというのは羨ましい限りですよ。もしかして、どちらかに手を出してたり……」


「違う。あいつらは幼馴染ってだけだ。幼馴染の権利として、俺は金を貰ってるだけだし、至って健全な関係なんだよ。お前が詮索するようなもんじゃない」


「そ、そうですか。やっぱり先輩は噂通りの人なんですね……」


 何故か若干引き気味の三下だったが、それ以上言葉を続けることはしなかった。

 しばし互いに無言のまま歩き続けていたが、やがて三下はある教室の前で足を止める。


「どうぞ、こちらへ。今は使われていない空き教室です。ここでなら誰かに聞かれる恐れもないでしょう」


「ってことは、聞かれたらまずい話をするつもりなのか?」


 三下は答えなかった。

 ただ何も言わず部屋に入り、俺もそれに続く。室内は机や椅子が積み重ねられており、人の気配もない。使われていないというのは本当のようだ。

 やがて部屋の中央へとたどり着くと、三下はゆっくり振り返った。


「先輩。先の一回戦、お見事でした。優勝候補だった三年A組をあっさりと倒したその手腕。いくらコスプレ写真で釣ったところで、そう簡単には出来る事ではないでしょう。このまま大会が進めば、決勝戦の相手は先輩のクラスで間違いないでしょうね」


 そんなことまで知ってるのか。俺は頭の中で、三下に対する警戒レベルをひとつ上げた。


「そりゃどうも。てか、もったいぶらなくていい。前置きなんざいらんから、さっさと要件だけを話せ。こっちは忙しいんだよ」


「ふふ、そうですか。では早速ですが……先輩、僕と取り引きしませんか?」


「取り引き?」


「ええ。ズバリ先輩には決勝で僕たちに負けて欲しいんですよ。わざとね。勿論タダでなんて言いません。僕の権限でルリ様に仕え、そして踏まれる権利を先輩にも与えます」


 メガネをクイッと直しながら、そう告げてくる三下の顔は高慢さに満ちていた。

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