高スペックの自覚あるの腹立つな……

「凄いよカズくん! あんなに点を決めるなんて!」


「ハットトリックだっけ。やるじゃない和真。本気になったアンタがあそこまでやるなんて思わってなかったわよ」


 試合終了後、駆け寄ってきた幼馴染たちはひどく興奮した様子だった。

 頬も赤いし、よほど俺の活躍にあてられたようだ。

 

「正確には六点獲ったからダブルハットトリックだけどな。ま、俺にかかればこんなもんだ」


「ホント凄いよクズっち! 運動が出来るのは知っていたけど、サッカーの才能もあったんだね!」


「流石ご主人様。無駄に才能が溢れていながら、それを容赦なくドブに捨てて有効活用するつもりが一切ないところに痺れますし憧れます。これはやはり、一生かけて尽くさなくては……」


 幼馴染たち以外の女の子たちも俺を囲んではしゃいでおり、まるでハーレム主人公になったような気分である。

 だがそれも当然と言えば当然なのだろう。高スペック男子がモテるのは世の常だ。

 俺ほどの男ともなれば、モテないほうがむしろおかしい。

 試合で大活躍したのもあって、さらに人気が上がるのは自明の理というやつなのだ。


「フゥフゥ、な、なーにがこんなもんだだ。俺たちが相手チームにひたすらプレスかけて潰したおかげじゃねぇか」


「死ぬ……やっぱしんどい。いくら特訓したとはいえ、走りっぱなしは死ぬって……キッツ……」


「おいまだ死ぬな! 死ぬなら俺がコスプレ写真を手に入れてからにしろ! その後ならいくらでも死んでくれていいから!」


 さて、そんなモテモテな男がいる一方で、屍のようになっているやつらがいた。

 言わずがな、俺のチームメイトたちである。俺が活躍するための尊い犠牲と言い換えてもいい。

 試合中ひたすら走りまくって相手にプレスをかけまくるという単純ながら強力な戦術を全力で実行してくれた彼らの健闘は称えられるべきものであったが、早くも疲労した様子を見せている。

 当然と言えば当然か。この戦術のリスクは体力の消耗が激しく、大幅にスタミナが削られるということにあるからな。

 いくら特訓したとはいえ、たかが数週間の頑張りだ。走り回ってもピンピンしてるほど圧倒的な体力なんざ早々身に着くものじゃない。

 天気がいいのもこういう戦術を採用してる際の悪条件のひとつだ。

 気温が高いということは必要以上に体力を消耗してしまう。対策として伊集院財閥特性のスペシャルドリンクが配られているが、果たしてどれだけ効果があるのやら。

 やつらを支えているのは欲望であり、それが尽きるまでは倒れることはないだろうが、この調子では最後まで持つかは五分五分くらいに考えていたほうがいいだろう。

 

(ま、その時はその時だな)


 この球技大会は一日で終わるのだ。優勝まで持ってくれたらそれでいい。

 それに一応切り札も用意しているしな。いざという時はそれでなんとかなるだろう。

 策はいくつかあるし、下準備もやってきている。今更慌てる理由もない。


「ば、馬鹿な。そんな馬鹿な……」


 一方、無策で挑み、グラウンドには真っ白に燃え尽きているやつがいた。上北である。

 結局試合中、上北のところにほぼボール通ることはなかった。

 中盤で俺たちがずっとプレスをかけてやつらのボールを刈り取ったからな。

 いくら前線で待ち、シュートチャンスの機会を伺おうともそもそもボールがこないなら意味がない。

 終盤は上北も守備に回り流れを変えようと検討していたものの時既に遅し。

 今更出来た流れを変えるだけの力はなく、俺が追加点を取ったことでポッキリと折れたようで、結局点を取ることが出来ずに終わった。

 その結果、三年A組は見事に一回戦で敗退。あっさりと脱落した。

 この結果は彼らにとって実に痛かったことだろう。

 球技大会は各種目の総合点により順位が付けられる。

 巻き返すには他の種目で軒並み上位を取る必要があるが、大差を付けられて負けたことで、三年生の士気は明確に落ちていた。

 こういう時こそリーダーの器量が試されるというものだが、上北があの様子なら立て直すのはさぞ厳しいことだろう。叩きのめした側としては同情などしないが、少しだけ哀れに思えてしまう。


「ま、なにはともあれ俺は勝った。お前たちも頑張れよ。バスケの試合ももうすぐだよな」


「うん。カズくんだってあれだけ頑張ったんだもん! 私だって頑張るね!」


「あんなの見せられたら、負けるわけにはいかないわね。任せときなさい、必ず買ってみせるから」


 対し、こちらは絶好調だ。雪菜たちのやる気は目に見えてあがっている。

 この様子なら女子のほうは心配する必要もない、か。

 少なくとも、今の時点で上北のクラスとうちのクラスで明暗はハッキリと別れていた。


(勢いもついたし、このまま優勝に向けて突っ走りたいところだが……)


 チラリともう一方のグラウンドへと目を向ける。

 そこでは別ブロックの試合が行われており、終了間際であったがその点差は5―0と、うちほどではないがかなりの大差がついている。


「1年B組、か。めんどくさそうな相手だな」


 そう簡単にはいかないそうだな。

 なんとなく分かっていたが、やはり報酬が約束されているところはモチベーションが違う。

 出来れば早めに潰しておきたいところだったが、向こうとは決勝になるまで当たることはない。

 おそらくあそこが決勝まで残ってくるだろう。

 どうしたものかと頭の中で戦略を描きながら、俺はグラウンドを後にするのだった。

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