あれ? なんとかなった……?
「あ、紫苑ちゃん見つけたー……って、あれー?」
「クズ原と一之瀬さんが抱き合っている……ですって……」
「うわああああああああ! ちょっと待てこれは違うんだああああああああああ!!!」
現れた三人にバッチリ目撃され、俺は慌てた。
というか、慌てないはずがない。これを雪菜たちに報告されてしまっては人生が終わる、終わってしまう!
「おお、クズしてるとは思ってたけど、これはすごいねー。超クズしてるねー。貢いでくれてるアイドルの幼馴染がいながら白昼堂々女の子と抱き合うとか、クズオブクズだねー。ドラマとか漫画みたいでそういうの好きだよー。応援するねー」
「私の計算では葛原が浮気している確率は九十%と出たわこの偏差値七十の頭脳が間違えるはずがないから実質百%と言えるわね。ちなみに葛原がクズである確率は百二十%なのでこっちは二百%間違いないわ。この私が言うのだから確実よ」
「ありがとうございます皆さん。私はこのドクズなご主人様と幸せになるので、その旨をどうか皆さんにもお知らせください。こんな人格終わっている人を救うことなくハッピーを享受出来るのは、メイドであるわたしくらいですので」
「えっと、ボクも一応クズっちのことは嫌いではないんだけど……別に独占したいとかはないから、たまに貸してくれない? ホラ、クズっちも結構気が多いっていうか、ボクのことをあ、あ、愛してるみたいっていうか」
「おい待て! お前ら好き勝手なこと言うんじゃない! 大体俺はクズなんかじゃねーんだっつーの!」
思ったよりマイルドな反応だったが、言ってることが失礼すぎる。
だがそれはそれとしてまだ安心は出来ない。この場には一番俺に対して厳しい奴がいるのだ。
「……クズ原」
「あっ、猫宮! これはだな……」
「アンタ、否定したいときはハッキリ否定しなさいよね。堂々としてないと、勘違いする人も出てくるでしょ」
俺を嫌っている筆頭である猫宮がようやく口を開いたかと思えば、その内容は意外なものだった。
「……へ?」
「なに? その反応。実は一之瀬さんのことが好きで、アリサたちはどうでもいいとか言いたいわけ?」
「いや、そんなことはない。俺が好きなのは金だけだし」
「どさくさ紛れに凄いこと言うねクズっち」
「それでこそご主人様です。邪険にされようと仕える価値があるというもの。これを機に独占したかった気持ちもほんのちょっぴりありましたが、これはこれでアリですね」
「一之瀬さんもどさくさ紛れに凄いこと言うね。てか変人しかいないねここ」
「ウチは変人じゃないしまともだし!」
フシャーと威嚇するように叫ぶ猫宮だったが、俺はまだ戸惑いを隠せずにいた。
あの猫宮が、俺のことを信じてくれたとは……そのことが意外に思えたからだ。
そんな俺の反応を不思議に思ったのか、猫宮が勘繰るような目を俺に向けてくる。
「あによ? ウチの顔になにかついてんの?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ意外だったというか。てっきりなに一之瀬さんと抱き着いてるのこのクズくらい言われるものかと思ったからさ」
「まぁ何も知らなかったらそう言ったかもだけど、この前モールで抱き合ってるのもう見てたし。思い返してみたら、あの時も一之瀬さんのほうから抱き着いていたしどうせ今回もそうなんでしょ」
「あ、うん。そうだけど」
素直に頷く。猫宮の言う通りだったからだ。
その際、後ろから「ちっ、見られてましたか。迂闊でした」なんて残念そうな声が聞こえた気がするか、それは聞かなかったことにした。
「やっぱり。ただでさえクズ原はクズなんだから誤解されやすいし、気を付けたほういいっよ。気にしないっていうなら別にいいけど、アリサたちに知られても困るでしょ」
「それは勿論。知られたら監禁されるし」
こんなことがアリサたちの耳に入ったら即バッドエンド直行になることは間違いない。
俺が誰と仲良くしようと自由だと思うが、あいつらの愛はちょっと重いところがあるからな。
幼馴染同士以外のハーレムエンドを許してくれるかというとかなり疑問だ。
「うはー、前から思ってたけど監禁て物騒だよねー。お金持ちになれそうなのは羨ましいけど、監禁は嫌だなー。そこは同情するよクズ原くーん」
「そう思ってるなら金をくれ。あと、ついでに養ってくれると助かるぞ」
「あはー、それはちょっとゴメンかなー。私も養ってもらいたい側だしー」
ポンポンと俺の肩を叩きながら、にこやかな顔で首を振る永見。
くそぅ、失敗か。やはりそう簡単に貢いでもらう人間というのは見つからないようだ。
「それよりさー。むしろ私はクズ原くんから貰いたいかなー。ほら、口止め料ってやつー?」
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