理不尽ですよこんなの!
ニッコリと笑いながら微笑みかけてくる永見だったが、その目は笑っていない。
本気だということがアリアリと伝わってくるかのようだ。
「うげっ、マジかよ。お前まで俺を脅そうっていうのか」
「人聞きが悪いなー。世の中ギブアンドテイクだよー? あと、お前までってことは、誰かに先に脅迫とかされてたのー?」
永見に質問され、俺は近くにいるボクっ娘ギャルをチラリと見る。
案の定夏純はわざとらしく目をそらした。おまけに下手くそな口笛まで吹いているが、そんなことで俺は誤魔化されないし罪だって消えるわけもない。
「そこにいるお前の友達についさっきな。お前ら友達付き合いに関して、もうちょい考え直したほうがいいぞ」
「ちょっ、こういう時は言わない約束じゃんクズっち! まだしてなかったし、別に問題なかったでしょ!」
「んなわけあるか! 大アリだわい! 後々脅迫されても困るんだよ! あと言っておくが金はないぞ! あってもビタ一文誰にもやらん! 俺の金は俺だけのものだ!」
金を恵んでやるのは構わないが、それは俺の自尊心を満たすためであり、脅されて渡すなんてことは絶対にしたくない。
「別にクズっちからお金なんて貰おうなんて思ってないよ、クズっちの意地汚さは知ってるしね」
「じゃあ一体なにをさせようってんだよ。また面倒事はゴメンだぞ」
「ちなみにわたしのオススメは頭を撫でてもらうことですね」
唐突に会話に割り込んできたのは一之瀬だ。
さっきまで俺を陥れようとしていたとは思えない、見事なまでの身の代わりようである。
「頭? 一之瀬さん、クズっちに頭を撫でてもらったの?」
「ええ。先ほど抱き締められる前に。強すぎず弱すぎず、それでいてとても気持ちよくてそれはまさに天にも昇るかのよう。実に見事な撫で具合でした。あれは最高の体験でしたね」
「そ、そんなに良かったんだ」
「ええ。並大抵の女性ではあれをやられたらコロッといってしまうことでしょう。アイドルですら気持ちよさそうに目を細めるわけですからね。主人様、恐ろしい子……」
「言われてみれば、前にアリサちゃんたち教室でクズ原くんに撫でられてたねー。確かにすごく気持ちよさそうではあったかもー。ねー、たまきちゃん?」
「なんでウチに話を振るし。ま、まぁ確かにそうは思ったけどさ」
俺の撫で方について盛り上がりを見せる女子陣。
一方、張本人である俺自身は蚊帳の外になっていた。
(本人がいる前であんまこういう話はして欲しくないなぁ……なんかバツが悪い気分になるし)
男子は得てしてこういう時、女子の話に入っていきにくいものだ。
聖のようなチャラ男なら問題ないのだろうが、生憎と俺はそういったキャラじゃないので空気を読まないような行動は出来ない。
つまりただ成り行きを見守ることしか出来ないわけだが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、女子たちの話は着実に進行している。
「先ほども言いましたが、わたしとしては是非一度体験することを薦めたいところです」
「た、体験……うん、体験ならセーフかな? ボクはそんな軽い女の子じゃないけど、クズっちなら別にいいし……」
「お金は貰えないみたいだし、気持ちいい体験するのは対価としてアリかもねー」
「クズ原に撫でられたら偏差値が下がりそうだけど、運気は上がりそうだから一応撫でられてみることにするわ。学力とはお金を稼ぐためにあるもの。逆説的に、先にお金が貰えるなら偏差値は必要ないことになるもの。あれ、私ってやおっぱり天才なんじゃ……?」
「ウチは別に興味ないけど、撫でられて変なことにならないか確認する必要はあるし……アリサがああなったのはクズ原に撫でられたからかもだし……うん、仕方ない。これは仕方ないことだから……」
顔を赤くしているやつ、笑っているやつ、何故かドヤ顔しているやつにブツブツ呟いているやつと、四者四様の反応を見せていた猫宮グループの面々だったが、どうやら話がまとまったらしい。
「ご主人様、どうやらこの方たちはご主人様に頭を撫でられたいそうです。それを対価に黙ていて下さるようですので、ご要望に沿って頂けるとよろしいかと」
「……なんでそうなったのか色々ツッコミたいところだが、それで済むっていうならまぁいいや」
なんか考えるのも疲れたしな。
誰が最初に俺に頭を撫でてもらうかを賭けたじゃんけん大会を始めた猫宮グループを見つめながら、俺は右手をワキワキと動かして疲れないことを願うのだった。
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