ドルオタはそういう生き物だからね……
「はぁ。つまり、ルリのクラスが優勝を目指しているのはお前の発言のせいだと」
えぐえぐとしゃくり上げながら涙を流すルリから事情を聴くこと小一時間。
ひと通りの話を聞き終わり、俺の中で浮かんできた感想はなにやってんだこいつ……という、ひどくシンプルな呆れだった。
「最初はただの冗談のつもりだったんですよぅ」
「とはいえ、優勝したら下僕はないだろ。下僕は。しかも踏むとか……流石の俺でもちょっと引くぞ…」
どうやらルリは球技大会の種目決めの際、クラスメイトたちに優勝したら全員を下僕にすることを宣言したらしい。
おまけに「特に頑張ってくれた人はこのルリが直接足で踏んであげます♪」なんてことまで言ったらしく、それを聞いたクラスメイトたちのやる気は天元突破。
大いに気合の入った彼らは、ルリの下僕になるべく大張り切りで球技大会に臨み、日々特訓に励んでいるのだそうだ。
どっかで聞いた話な気もするが、道理で三下がやる気に満ちていたはずである。
おそらくルリのクラスの連中は皆似たようなものだろうし、思った以上に厄介な相手になりそうだな……。
「だってだって! 普通本気にするとは普通思わないじゃないですかぁ! ルリだったら嫌ですよぉ!」
「生粋のドルオタを舐めすぎたな。あいつらは推しと握手するために全財産を使うなんて朝飯前の連中だぞ。踏んでもらえるとなれば、そりゃ本気くらいいくらでも出すだろ」
「本気だからってあんなやる気出すなんて、ルリは聞いてないです! 怖かったですよ、クラスの人たちの目、なんか光ってましたもん! 明らかに正気じゃなかったです!」
「ドルオタだぞ? 目くらい光らすこと出来るに決まってるだろ」
「それがおかしいんですって! 普通光りませんよ!」
「そりゃドルオタは普通じゃないからな。てかいいだろ、光るくらい。ルリからしたら、そういうやつらはむしろ面白いんじゃないのか?」
「ルリは面白いことは大好きですけど、カワイクないことは嫌なんです! 目が光ってる人たちも女王様も、どっちもカワイサの欠片もないじゃないですか! ルリは基本内面を重視するタイプですが、外見がまるでカワイクないとか流石に無理です! 絶対むーりぃ―!」
ブンブン頭を振って全力で拒絶をアピールしてくるルリ。
どうも女王様になるのがよほど嫌なようだ。見ているだけでこっちにもその気持ちは伝わってくるのだから相当である。
「まぁ気持ちは分かった。要は1年A組の優勝を阻止すればいいんだな」
「そうです! 絶対勝ってください! おにーさんだけが頼りなんです!」
こっちとしては最初から勝つつもりだが、こうも懇願されると負けてはいけない気持ちになってくるな。
……まぁいい。どのみち勝つ以外の選択肢は俺の中にはない。
「いいだろう。その頼み、引き受けようじゃあないか」
安請け合いでもなく、しっかりと吟味したうえで俺は頷いた。
相手がやる気に満ちていようが、それはこっちとて同じことだ。
負けるつもりは一切ない。
「おお……カッコイイです、おにーさん! おにーさんって、こんな頼りになる一面があったんですね!」
「フフフ、まぁな」
「ルリはこれまでおにーさんは単なるクズで、お金絡みがピンチの時くらいしか頭が回らない人だと思ってました! 今は最高に輝いて見えますよ、おにーさん!」
「おい待て。サラッと人のことをディスってないかお前」
こいつは本当に人にものを頼む気があるんだろうか。
「気のせいです! ルリはいつでも本音しか言いません! 本気でおにーさんのことを好きになっちゃいそうなくらい、現在好感度急上昇中なんですよー」
「ホントか? すっごい怪しいんだが……」
「まぁまぁ。勝ったら報酬は弾みますって。ちょっとしたオマケだって付けてあげますから、どうか頑張ってくださいね」
報酬、ねぇ。金なら喜んで受け取るが……。
「ちなみに一応聞くけど、オマケってなに?」
「ふふっ、それはその時になってからのお楽しみってことで。期待してもらってもいいですよ、おにーさん♪」
ある意味予想通りの答えを口にしながら、ルリはにんまりと小悪魔のように微笑むのだった。
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