女王様ってなに……?
真白の態度が急変した理由を考え続けた結果、あっという間に放課後の時間が訪れた。
そちらの方に思考を取られ、練習する気にもなれなかった俺は、早々に学校を後にし、現在ファミレスに居たりするのだが、今でも答えは未だ出てない。
昨日のことを思い返してみても、俺の方から変な行動を取った覚えはまるでなかった。
真白だって警戒を抱いていた様子はなかったし、変化を見逃すほど俺は間抜けな男じゃあない。
勿論演技の可能性は捨てきれないが、真白はそこまで器用なタイプには見えなかった。
そもそも真白自体が演技を売りにしているアイドルではない。
人の良さからくるトークと雰囲気、後は『ダメンズ』一ともいえるスタイルを活かしたグラビア等で人気を得ている万能型。容姿はともかく、中身はアイドルとしては正直あまり特徴のないタイプである。
そういう意味では雪菜やアリサ、ルリの方がよほど個性があると言えるだろう。
まぁ濃すぎても関わるこっちとしては困るところがあるんだが、そのことは一旦置いておく。
とにかく俺が言いたいのは、真白に入れ知恵したやつがいるんじゃないかということだ。
真白本人に疑う要素がなくても、彼女が誰かに俺のことを相談した結果、俺に対し改めて不信感を抱いた。その可能性は否定出来ない。
「というのが、今日お前をここに呼び出した理由というわけだ」
ひと通り事の経緯を説明し終え、俺は改めて正面に向き直る。
そこにはひとりの美少女が座っていた。マスクを付けているが、その容姿の良さは一目でわかる。
「はぁ。そうだったんですかぁ」
その美少女――立花瑠璃は頷いてくれたものの、浮かべている表情はなんとも曖昧なものだ。
敢えて言うなら、「そんなことを聞くためにわざわざルリを呼び出したんですか?」という、微妙な抗議の声が聞こえてきそうな顔である。
「なんだ。反応が微妙だな。俺はてっきり、『今度はマシロセンパイにまで手を出すつもりなんですか。おにーさんってホントーにクズですねぇ』くらいは言われるものだと思ってたぞ」
「いや、言うつもりでしたけど。ルリの台詞取らないでくれます? 流石にリーダーにまで手を出すとは思ってなくて、少し反応が遅れただけですよ」
言いながらため息をつくルリだったが、やはり以前よりテンションが低い気がする。
どこか心ここにあらずといった感じだし、何か悩みでもあるかのようだ。
「そっか、ならいいや。それでルリに聞きたいんだが、昨日真白から相談されたりしてないか?」
が、ここは敢えて無視をして、俺はルリに問いかける。
気にならないわけではないが、物事には優先順位というものがある。
せっかく呼び出せたわけだし、今は俺からの話を進める方が得策だ。
「うーん、そういうのはなかったですねぇ。そもそも、ルリはマシロセンパイから相談を受けたことはありませんし」
「そうなのか? じゃあ雪菜やアリサ辺りに……」
「それも多分ないと思います。マシロセンパイって、ルリたち『ダメンズ』のメンバーの前だとお姉さんとして振る舞いたがっていましたからねー。なんていうか、弱い一面を見せないよう気を張ってるところがある人なんですよ」
「へぇ……そうなのか」
それは意外な情報だ。
外から見る限りじゃ、癒し系の天然お姉さんって感じなんだがな。
まぁプライベートではまだ知り合ったばかりだし、あのポンコツっぷりが完全に素ってわけでもないのだろう。
「いやー、実際は全然隠しきれていないんですけどね。本番前の楽屋だといつも顔真っ青にして頭抱えて震えてますし。『逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ……』なんて、どこかの新世紀なアニメの主人公みたいなことをブツブツ呟いては、社長さんに慰められてるんですよ。中々カワイイとこあると思いません?」
と思っていたら、その幻想は秒で破壊された。
身内からの完全な暴露話以外のなにものでもないが、笑顔で言ってる辺り容赦がないというかなんというか。
別に馬鹿にしているわけではなさそうなのが救いっちゃ救いなのかもしれないが、少し真白に同情してしまう俺であった。
「えっと、とりあえず話を戻すぞ。真白は『ダメンズ』の仲間相手にはまず相談をしないってことでいいんだな?」
「ええ。あの人がするとしたら社長さんか、あるいはうちの学校の生徒会長とかじゃないですかね。仲が良いと聞いたことがありますよ」
「生徒会長、か」
「あ、あとはゲーム仲間の人とかも可能性あるかもです。たまに嬉しそうに話してたりしますしね」
「ふむ、ゲーム仲間も追加っと」
ルリが挙げた名前をそれぞれメモる。
事務所の社長に生徒会長、それとゲーム仲間。この三人が、どうやら真白の相談相手の候補のようだ。
「思ったより人数が少なかったのはいいが、接触する手段に欠けるな……」
「うちの社長さんでしたら、案外あっさり会えるかもですよ? セツナセンパイとアリサセンパイ絡みで、いつか会いたいみたい話をこぼしていたことありましたし」
「そうなのか? うーん、でもなぁ」
俺が聞きたいのは真白のことだ。雪菜やアリサの話をしたいわけじゃない。
今の段階で余計なことを口にして、変に不信感を持たれるのは避けたかった。
「とりあえず保留だな。真白のゲーム仲間に関しては情報が少なすぎて本人から引き出さないと分からんし……」
「となると、生徒会長に接触するんですか?」
「ま、そうなるな」
消去法になるが、手近なところから当たるのがベストだろう。
「とりあえず球技大会が終わってからにでも話してみることにするわ」
「それが無難でしょうね。とりま、頑張ってください」
ひらひらと手を振りながら、形だけの応援を口にするルリ。
雑な対応であることはまるわかりだが、ルリらしいっちゃあらしいよな。
これでいいかと苦笑しながら、俺は席から立ち上がる。
「今日は相談に乗ってくれてありがとな。ここは俺が奢るよ。ドリンクバーでなんか飲み物持ってくるけどなにが……」
「そういえばおにーさんって、球技大会の実行委員なんでしたっけ」
俺の問いかけに割り込むように、ルリが聞いてくる。
「おにーさんの性格上、自分から動くなんてまずないですよね? なにか目的があるんじゃないです?」
「まぁな、一応優勝を目標にしている」
ルリ相手に隠す意味もないので素直に答える。
楽しいこと大好きなコイツなら、むしろ話に乗ってくるんじゃないかと考えてのことだったが……。
「そうですか……」
「ん? どうかしたか?」
なんだかルリの様子がおかしい。
急に俯いて、なにか堪えるかのように震えたかと思うと、
「おにーさん、ルリを助けてくだざーい! このままだとルリ、女王様にならないといけないんでずぅー!」
びえーっと目に涙を浮かべながら、そんなことを言ってきたのだった。
「えぇ……」
いや、女王様ってなによ?
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