うーん、この
「でね、今日ようやく話すことが出来たんだけど、思ってたより凄くいい人だったの!」
新たな出会いのあったその日の夜。
意気揚々と帰宅し、ゲームを満喫しようとしていた丁度その時、ハルカゼさんから連絡がきた。
相談を持ち掛けられてからしばらくの間音沙汰がなく、やっぱりハルカゼさんには無理だったかと思っていただけに、今回連絡がきたことに安心したのは確かではある。
「やっぱり噂なんて信じたら駄目だよね! クズマくんもありがとう。これでもう大丈夫……」
「あの、ハルカゼさん」
「なに? クズマくん」
ハルカゼさんが例のクズ男に接触出来たこと自体は朗報といえば朗報なのだろうが、それを素直に祝福するほど俺は単純な人間ではない。
そもそも、警戒していたはずなのにここまで上機嫌になってる時点でおかしいのだ。ハルカゼさんには悪いけど、言わなければならないことが俺にはあった。
「多分ですけど。ハルカゼさん、そいつに騙されてますよ」
そう指摘すると、ヘッドホンの向こうから「へ?」という短い声が聞こえてくる。
それだけでも、ハルカゼさんが件の男に心を許していることが察せられて、思わず頭が痛くなる。
「えっとですね、順を追って聞きますけど。ハルカゼさんさんは尾行を見つかって、そいつに目的から何までそいつにゲロっちゃったんでしょ?」
「え、うん。そうだけど……」
「そんな相手に、自分がやってることを素直に白状なんかしませんよ。俺だったら油断させて、相手から情報を引き出しますね。今頃噂の対策でも考えてるんじゃないですか」
「え、で、でも。いい人だったよ? 話してみたらそんな感じはしないし、聞き上手だっていうか」
「詐欺師は皆人当たりがいいもんですよ。あと聞き上手とも耳にしますね。だって信用されないと、相手を騙せないんですから」
そう告げると、ハルカゼさんは沈黙した。頭の中で整理がつかないのかもしれない。
例の男のことを信頼し始めていた矢先に、こんなことを言われたら無理もないだろう。
しばしの間、俺も黙ってハルカゼさんが話し出すのをただ待った。
「……えっと、私、騙されたの? ほんとに?」
「まぁ、おそらくは……」
「嘘……だって、明るくて私の話もちゃんと聞いてくれて。後ろ暗いことをしている感じなんて全くしなかったのに……声だってクズマくんに似てて安心するっていうか……」
「裏で悪いことをしているやつほど、表ではいい顔をしようとするものなんですよ。あと、声は性格に関係ないんで除外したほうがいいです。俺としても女に貢がせてるやつと一緒にしてもらったら困るんで」
念のために釘を刺しておく。俺は互いの同意を持ってお金を貰ってるので何の問題もないが、流石に貢がせているクズと一緒にしてもらっては困るからな。
こうして相談に乗るくらいに優れた人格の持ち主でもあるし、そんなやつとは人間としてのレベルが違うのだ。
「あ、う、うん。ごめんね? そうだよね、クズマくんはクズなんかじゃないものね。いつも私の相手をしてくれるし、優しい人だってこと、ちゃんと知ってるから……」
ハルカゼさんの声に若干熱がこもっている気がした。
もしや風邪でも引いているんだろうか。違う意味でも少し心配になる。
「ハルカゼさん、あまり夜更かししちゃダメですよ。最近暖かくなってきてますが、体調には気を付けないといけませんから」
「? うん、気を付けるね。クズマくんはやっぱり優しいなぁ……すき……」
やっぱりなんか浮かれてる気がするが、まぁいい。今はそのことを置いておく。
話を聞いてみて分かったが、やはり相手の男は、一筋縄ではいかないことが分かったからだ。
ハルカゼさんはちょっと人が良すぎるところがあるし、ずる賢いやつなら手玉に取るのなんて朝飯前だろう。
その証拠に、ハルカゼさんはその男のことをすっかり信じ切っているようだしなぁ……てか、待てよ? ここまで警戒が薄いってことはもしかして……。
「あの、ハルカゼさん。まさかそいつと連絡先を交換とかしてたりしませんよね?」
「え、してるけど。それもまずかったかな?」
俺は思わず天を仰いだ。
うわ、嫌な予感的中しちまったぞ、おい。
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