嵐の前の静けさ的な?
さて、中々の賑わいを見せたホームルームがあったその日の放課後。
早速実行委員の集まりがあるということで、俺は会議室へと向かっていた。
本来ならさっさと家に帰るかソシャゲでもしている時間というのもあって、こうして人気の少ない校舎を闊歩するというのは中々新鮮なことではある。
「あー、会議とかめんどくせー。もう帰りて―な。会議なんてやりたいやつが勝手に決めてりゃそれでいいじゃん」
が、それよりも面倒という気持ちがはるかに勝っているのもまた事実。
幼馴染たちの激励を受けて意気揚々と教室を出たまでは良かったが、早くも帰りたい気持ちで一杯だ。
そもそも俺は元来働きたくない男であり、同じぐらい面倒事を嫌う男である。
将来は幼馴染たちに養ってもらい、怠惰で優雅な生活を満喫する予定の俺が、なんでわざわざこんな社畜になる練習みたいなことをせにゃいかんのだ。
ユキちゃんとの約束に必要なことではあったとはいえ、げんなりしつつある自分がいるのは致し方ないことなのであった。
「アンタ、ホントにクズだよね。ハナからやる気ゼロじゃん。なんでそんなんで実行委員になるなんて言ったのか、ウチには理解不能なんだけど」
そんな俺に、隣を歩く猫宮がジト目で話しかけてくる。
猫宮も俺と一緒に球技大会の実行委員になったので、同じ場所に向かうのは当然のことではあるのだが、こうして隣を歩くというのは少し意外なことだった。
「言ったろ。アリサたちのためにだよ。てか、なんでお前は俺の隣を歩いてるんだよ。てっきり一人で先を行くもんだと思ってたぞ」
「嘘ばっかし。アリサは騙せても、ウチは騙されないからね。アンタはそんなやつじゃないもん。目を離したらどうせサボるんだから、ウチが監視しないといけないのよ。絶対逃がさないからね!」
ふしゃーと肩を怒らせる猫宮。
やっぱりというか、全然信じてもらえてないな。まぁその通りではあるんだが。
俺が今回動いたのは、ユキちゃんをセーフティーネットとして利用するためだ。
幼馴染たちに監禁されるのは御免だし、そうならないために動いているが、タイムリミットである夏休みは確実に迫っている。
実際に監禁されそうになった場合全力で逃げ出すつもりだが、その際どこに隠れるかが課題のひとつだった。
ホテルに泊まるのが一番安牌ではあるが、雪菜は勘が鋭い。俺の思考を読まれてあっさり見つけ出される可能性は普通にある。
知り合いに匿ってもらうのも大いにアリだが、『ダメンズ』の信奉者である伊集院は論外。
伊集院に近しい関係だから一之瀬もアウトだし、友人たちも『ダメンズ』が好きなやつばかりで信用できん。
最近仲良くなった夏純ならいいかもしれんが、アイツは猫宮の友達だし嘘をつくのが下手そうだからな。
そんなわけで、候補が大分絞られていたところに今回のユキちゃんだ。
担任教師なら繋がりは薄いし、あんな人でも大人は大人だ。多少は頼りになるかもしれない、そう考え今回の件を引き受けたのだが……。
(組む相手が猫宮っていうのは、ちょっとミスったかもな。こいつ俺のこと嫌ってるみたいだし)
イチイチ突っかかってこられても面倒くさい。
別に悪いことなんてしてないのに、終始こんな感じだと、今後ちょっとやりにくいかもしれないな……。そう考えた時だった。
「ん?」
ふと感じた違和感。誰かに見られているような感覚に、俺は思わず足を止める。
「なに? どうしたのよ。アンタやっぱりサボる気じゃ……」
「違う。なんか視線を感じたというか……」
キョロキョロと辺りを見回すが、そこに人の姿はない。
「おっかしーな。気のせいだったか……?」
「ホラ、変なこと言ってないでサッサと行くし! 集合時間も迫ってるんだからね!」
首を傾げていると、猫宮に腕を掴まれる。
そのまま引きずるようにズンズンと歩を進め始めるものだから、準備が出来ていなかった俺はたたらを踏む。
「っとと。あっぶね、おいそんな焦んなよ猫宮。コケたらどうするつもりだ。俺の顔に傷が付いたらアリサたちも悲しむんだぞ」
「いいじゃん別に。そんな大した顔でもないでしょ。そもそもアンタは絶対頭を一回打ったほうがいいし。ワンチャンまともになるんじゃないの?」
「ハァ!? 俺ほどのイケメンに向かってなんてことを言うんだ! そもそも俺はまともだ! 伊集院とかのほうがよほどおかしいやつだろうが!」
「それは否定しきれないけど、ウチからすれば割と五十歩百歩だと思うな……」
ああ言えばこう言うやつだ。猫宮と実もない会話をしているうちに、俺は先ほど感じた視線のことをすぐに忘れてしまうのだった。
「あれが葛原くん……うぅ、せ、雪菜ちゃんたち以外の子とも親し気に……やっぱり噂は本当なのかな……?」
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