ゴールデンウイーク明けの会話劇


 その日、ボクこと夏純紫苑はひどく上機嫌だった。

 ゴールデンウィークは昨日で終わり、今日は登校日であったけど、それでもだ。


「クズ原くん、改善案が見つかったって言ってくれたし、これはもう勝ち確だよね!」


 そう、ボクが上機嫌である理由。

 それは昨日の夜にクズ原くんから送られてきた、一通のメッセージによるものにほかならない。


――ひとつ手が見つかった。明日はいつも通りに学校に来てくれ。


「いやだなぁ、もうクズ原くん! こんなこと言われたら行くに決まってるじゃん!」

 まぁ元々休むつもりなんてなかったけどね。

 ただ、単純に楽しみが増えたのは凄く大きい。

 学校までの道すがら、通り過ぎる会社やお店。

 すれ違う死んだ目をしたサラリーマン。

 それらが全て違って見える。

 ボクはかつて、彼らと同じような人生を送ることになるんじゃないかと怯えていたけど、そんな不安が吹き飛ぶくらい、今は世界が輝いて見えていた。

 ああ、世界って、こんなにも美しかったんだなぁ……。

これが人生の勝ち組から見る世界の視点ってやつなのかな……うん、悪くない。

 いや、凄くいい! というか、気持ちいい!


(ごめんね、皆。人生一抜けしちゃって。たくさん買い物して経済に貢献するから許してね)

 

 見下すつもりは全然ないけど、勝手に同情心まで湧いてくる。

 これが慈愛の精神ってやつなのかも……そんなことを考えながら歩いていると、ボクはいつの間にか、学校までたどり着いていた。


「皆、おっはよーう!

 そして何事もなく教室にも到着したボクは、勢いよくドアを開けて挨拶する。


「おはよう、紫苑」


「おはー」


「おはよう、今日はちょっと遅かったわね」


 まず挨拶を返してくれたのは、ボクの所属しているグループのリーダーであるたまきちゃん。続いて永見詩亜(ながみしあ)ちゃんとクラスの委員長を久方恵(ひさかためぐみ)ことメグちゃんだ。

 個性派揃いのうちのクラスでも、割と常識人なメンバーが集まっているグループだと思う。


「学校だるいわ。ちょっとくらい勉強しなくても私の頭脳は健在だし、もう帰っていいかしら」


「あはー、私も帰りたーい。休みなんていくらあってもいいよねー。私、良い男の子捕まえて一生遊んで暮らすのが夢なんだー」


「良くない良くない。ウチの目が黒いうちはそういうの許さないからね!」


「じゃあカラコン付けてあげるよー、そうすれば黒くなくなるからいいよねー?」


「駄目に決まってるでしょ! なに屁理屈言ってんの! 怒るよ!」


「もう怒ってるじゃない。怒りは余計なパワーを使うから身体に良くないわよ。柔らかいベッドで寝て英気を養うことをオススメするわ」


「それ、遠回しにウチにも帰れって言ってんじゃん! 巻き込み禁止ー!」


 常識……常識的、だよね?

 なんだか自分の中の常識が疑わしくなってきたけど、とりあえず今は荷物を置こう。

 そう思い、自分の席へと向かおうとしたボクを、疲れた顔をしたたまきちゃんが呼び止める。


「紫苑。荷物置いたら移動するよ?」


「へ?」


 いきなりそんなことを言われてビックリした。

 移動ってどこへ?

 そんな疑問が顔に出ていたのか、たまきちゃんは黒板を指さした。

 釣られるように、ボクの視線は黒板へと向かう。


「えっと、『今日のホームルームは、視聴覚室で行います』?」


 見ると、黒板にはそんな言葉が、デカデカと書かれてた。

 ホームルームもまだなのに、なんでだろう。そんな疑問が頭に浮かぶ。


「そういうこと」


「なんでわざわざ? なんかあったっけ? 球技大会の振り分けとかは、もうちょい先だよね」


 確か球技大会は来月にやるはずだし、なにより休み明けの最初にする話じゃない。

 だからこそ分からないんだけど、答えは出てこなかった。それはたまきちゃんたちも同じだったらしく、ゆるゆると首を横に振っている。さっぱり、ということらしい。


「さぁ。分かんないけど、とりあえず行くしかないでしょ。アリサたちは仕事で遅れるみたいだし、ウチらはあとは紫苑が来るのを待ってたんだよ」


「あ、そうだったんだ」


 うーん。でも、なんで視聴覚室に?

……まぁいっか。行けばきっと分かるだろうし。


「分かった。じゃあ行こっか」


 深く考えることなく荷物を置くと、ボクはたまきちゃんたちと歩き出した



♢♢♢


投稿設定ミスりました……大変申し訳ございません

おさドル2巻は1月25日発売となります。表紙絵は近況ノートに張ってますが、大変素晴らしいです

書き下ろしもありますので、どうかよろしくお願いいたしますー



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