お、ツンデレかな?

「どうです? いい感じですか?」


「ちょっと待て。まだ確認の途中だ。今再生するわ」


 背後から投げかけられるルリの楽しそうな声に返事をしつつ、録画を解除。

 そして軽く操作すると、再生ボタンをタッチする。


『ふざけんなコラァッ!』


 すると、想定通りというべきか。

 ドアを蹴破り部屋に入ってきたギャルバニーこと夏純紫苑の姿が、ハッキリと映し出されていたのだ。


『なんでボクバニーなんて着てるのさ!』


「おー、バッチリだ。さすが伊集院から貰った高級カメラ。画面写りも綺麗だなぁ」


 音声も入っているし、合成などという言い訳も効かないだろう。

 想定通りに録画出来ていたことに満足し、俺は大きく頷いた。


「上手くいったな。これで材料が手に入った。これから夏純がなにを言ってこようと、この動画があればまぁ問題ないだろうな」


「脅されるのを予想して、あらかじめカメラを設置してバニーガール姿を録画し逆に脅しの材料にする。ふふっ、さすがの悪知恵ですねぇ」


 無邪気な笑みを浮かべるルリだったが、それはこっちのセリフである。

 こちらの意図を理解し、バニー衣装を着ることを言い出したのはこの年下アイドルにほかならない。


「普通の女子高生にとってはバニー衣装なんて派手な格好を撮られるだけで十分恥ずかしいことだからな。俺の家に来た時点でアイツは詰んでたってわけだ」


 ルリたちが恥ずかしげもなくバニー衣装を着ていたことにより、夏純の中では無意識のうちに警戒が緩んだはずだ。

 同じ衣装を着た女の子たちが部屋にいたこともあり、まさか自分が撮影されているなどと思いもしなかったに違いない。

 戦略というのは戦が始まる前の準備が全てというが、まさにその通りだったといえるだろう。

 もう少し夏純に冷静さが残っていれば話は別だったかもしれないが、まぁ結果は同じったに違いない。

 要は相手が悪かったというやつだ。


「クラスメイトに見せるぞというだけで、アイツはなにも言ってこなくなるだろうな」


「これで脅迫の懸念はなくなったということですね」


「そういうことだ」


 向こうは決定的な証拠はないが、こっちは夏純のバニー姿をきっちりと抑えているのだ。

 口で負ける気はしないし、言い含めるだけの材料がある以上、どう転んでも負けはない。

 そのことに深く満足していると、ルリが視線を向けてくる。


「それで、この後おにーさんはどうするんです?」


「ん?」


「このままあの人に協力するんですか。もうその必要もなくなったと思いますし、約束を反故にしても問題ないと思いますよ」


 そう聞いてくるルリの目は猫のように細まっていた。

 まるで品定めをするかのよう。俺がどんな答えを返すのかを試しているかのようだ。

 だがそんな目を向けられても、俺の答えは既に決まっている。


「まぁ、その通りだな。俺が夏純に協力する理由はどこにもない」


「ですよねぇ」


「だいたい、働くとか絶対嫌だしな。やりたいゲームもあるし、余計なことに時間を使いたくもない」


 面白い返事をルリは期待していたのかもしれないが、そもそもの話、俺は働きたくない。

 人のために働くとかまっぴらゴメンだ。

 だからルリの望むようなことは言えなかった。

 俺は俺が遊んで暮らせる未来を確保する。

 それこそが人生の目標であり最優先するべき事項だ。

 そのことは決定事項であり、決して揺らぐことはないだろう。


「そう、俺は働きたくない。絶対にな」


 この気持ちに偽りはない。

 だが――。


「でも、自分に正直なやつは嫌いじゃあないんだよな」


 夏純の言葉を思い出す。

 あいつは働きたくないと言っていた。

 そして、俺を同類だとも。

 そのことは否定しない。

 確かに俺も働きたくないと足掻いたからだ。

 結果、俺は俺を養ってくれると言ってくれる女の子たちに恵まれたわけだが、当然ながら俺と同じ考えをするやつが、皆勝ち組になれるはずもない。


「そうなんですか」


「ついでにいえば、慈善事業も嫌いじゃない。俺は監禁の可能性さえ除けば、勝ち組路線に乗ってるからな。働かなくていい人間が、そうではないやつに手を差し伸べるとか、いかにも人間レベルが上がりそうな、素晴らしい行動だとは思わないか?」


 あるいは、夏純の手助けをすることで、監禁ルートを避ける事ができるなんらかのヒントも得られるかもしれない。

 要するにこれは寄り道だ。本筋からは外れることはないが、ちょっとした人助けで気分を良くするのも悪くない。


「そうかもですねぇ。自分でそんなことを言わなければと付きますけど」


「言ったろ? 俺は自分に正直なやつは嫌いじゃないって。人間素直が一番だし、本音で話すほうが俺は好きだ」


 ま、なんにせよだ。


「とりあえず、やれることはやってみるわ。無理だったら仕方ないし、諦めてもらえる材料もあるからな」


「ふふっ、そうですか」


 ルリが俺の答えに満足したのかは分からない。

 だが、面白そうに微笑むと。


「ねぇ、おにーさん」


「ん?」


「ルリ、面白い人が好きですが、素直じゃない人もそんなに嫌いじゃないですよ」


 そんな言葉を、イタズラっぽく口にしたのだった。

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