正論は誰が言ったかが重要なんですよね、わかります
「ふむ、なるほど、な」
ようやく話が繋がった。
多少脱線はあったものの、夏純の目的を知ることが出来たのは収穫と言えるだろう。
相談したいという内容も、だいたい察する事が可能だ。
「つまりこういうことか。お前はVtuberとして一生遊んで暮らせる分の金を稼ぎたいが、現状再生数もフォロワー数もまるで伸びてない。このままだと働かずに生きていくことなんて無理だから、どうにか現状を改善したい。だから俺に力を貸して欲しい。この認識でいいんだな?」
「うん! さすがクズ原くん! バッチリだよ! ボクの言いたいこと、全部まとめてくれたね!」
よほど俺が理解してくれたことが嬉しかったんだろう。
ウサミミを揺らしながら、キラキラした目で見てくる夏純。
「そうか、それは良かった……じゃあ、俺からも一言言わせてくれ」
「うん! なになに! なんでも言って!」
その視線を正面から受け止めつつ、俺は夏純を目を細めた。
夏純の望み通り、一言告げてやるために。
そして、
「夏純――お前、あまりVtuberを――いや、人生を舐めるな」
最高に素晴らしくカッコいい正論という名の刃を、世の中を舐め切ったギャルバニーに叩きつけた。
叩きつけた、のだが。
「いや、そのセリフはキミにだけは言われたくないから」
まるで効いた様子もなく、あっさりとカウンターを返された。
………………。
………………?。
…………あっれぇー?
おかしくない? 俺、正論言ったよね?
「……あの、夏純さん? おかしくない? 今のは俺がいいこと言う流れだったはずなんだけど」
「説教なんていいよ! ボクが聞きたいのは、ボクに都合がいい言葉だけなの! どのみち働きたくないことには変わりないんだから、いいからさっさとボクが不労所得で生きていける人気Vtubeerになれる方法を考えろ! 幼馴染たちが人気アイドルになる姿を間近で見てたキミならなんかアイデアのひとつくらい浮かぶだろ!!!」
「な……!」
こ、こいつ……! いくらなんでもぶっちゃけすぎだろ! それが本音か!
普通にカスな発言すぎて、さすがの俺でも普通に引くぞ!
「あのなぁ、無茶言うなよ! つまらないものを面白くするのってハードル高いんだぞ! 大人しく宝くじでも買ってお祈りするほうが絶対いいわ!」
「うっさい! ボクはVtuberになるために、お年玉もお小遣いも全部使い果たしたんだ! もう後には引けないんだよ!」
「知らねーよそんなこと! 典型的なコンコルド効果じゃねーか! 博打に負けたんだから、大人しく結果を受け止めてさっさと別の道でも探せ! 伊集院から貰ったバッグも手放して、金作っとけ!」
「嫌だぁっ! まだボクは負けてない! なにも手放したくなんかない! このままじゃ損して終わるじゃないか! 絶対に嫌だぁっ!」
「ワガママ言ったってどうしようもないだろ!? このままじゃどうにもならないって言ってるんだよ! ちゃんと現実を見てだな……」
「現実!? それは働けってことか! そんなの嫌に決まってるだろ! そもそも、クズ原くんはボクに逆らえないってこと分かってるのか? 言うことを聞かなかったら、ルリちゃんにも貢がれていること、雪菜ちゃんたちに報告するからね!」
「な、おまっ」
そこで雪菜の名前を出すのか!? ちょっと卑怯すぎるだろそれは!?
「くっ! 脅すつもりか!」
「ああ、脅すね! ボクが有利な立場になれるのは、このことを知っているからだからさ。これを活用しないとか有り得ないよ。同じ立場なら、キミだってそうするだろ?」
「俺を一緒にするな。そんなことはしない!」
「ふふん。どうだか。まぁなんにせよ、ボクの優位は揺るがないんだ。大人しく言うことを聞いたほうが身のためだと思うよ?」
「お、おのれ……」
なんて卑怯な……! 重ね重ねドン引きだ。
まさか俺よりあくどいことを考えるやつがいるとは……。
こいつには良心というものがないのだろうか。
「お前、それでいいのか? 人に頼って、自分は楽しようなんて、絶対ロクな人間にならないぞ!」
勝ち誇る夏純に言葉をぶつける。
追い詰められているなかで、俺にできるせめてもの足掻きだ。
心が動くとは思わないが、せめてこれくらいのことは言ってやらないと気が済まない。
「あれ、普通にブーメラン発言ですよね」
「ご主人様はそれはそれ。これはこれの精神で生きてますので」
おい、そこ。聞こえてるぞ。
ウサミミ突き合わせてコソコソ話していても無駄だからな。
「別にいいよ。どうせ足掻かないと、なにも変わらないんだ! 将来地獄に落ちようとも、ボクは働かない未来を手に入れてみせる!」
「……お前」
「間違ってもいい! 働かないといけない未来なんて、ボクは絶対認めない! クズ原くんだってそうだろうが!?」
「…………!」
夏純は叫んだ。あらん限りの力を込めて。
それはきっと、夏純の本心であり、魂からの想いであったに違いない。
「ハァ、ハァ……」
「……そうか。お前、本気なんだな」
だから、というわけではないが。
少しだけ。ほんの少しだけ、俺にも思うところができたのも事実だった。
「なら、分かったよ。協力する」
「ハァ、ハァ……って、え?」
「協力するって言ったんだ。何度も言わせるな」
息を切らす夏純に、俺は告げた。
「ホ、ホントに?」
「ああ。まぁ、夏純の気持ちも分からないでもないからな。とりあえず、やれるだけのことはやってみようと思う」
とはいえ、どこまでやれるかは未知数だ。
視聴者がいなければ、再生数やスパチャで稼げない。
趣味程度で留めておくならともかく、今の夏純の再生数では不労所得など夢のまた夢だ。
「ま、とりあえず今日は帰れよ。俺にも考える時間が必要だからな」
「うん! 分かった!」
俺が促すと、満面の笑みで頷き立ち上がる夏純だったが……。
「おっと、さすがにバニーは着替えていけよ。そのまま帰るわけにはいかないだろ?」
「あ、そうだね」
俺が指摘すると、そうだったと照れた様子を見せて頬をかいた。
どうにも抜けてるところがあるな、こいつは……まぁだからこそ、助かるところもあるんだが。
「最初に着替えた時のように、リビングに行ってくれ。姫乃、悪いけどまた案内頼む」
「承知致しました」
姫乃に軽く目配すると、彼女はうやうやしく頭を下げ、夏純を連れて部屋を出ていった。
バタンとドアが閉まるところを目にし、トコトコとふたりぶんの足音が階段を下りて遠ざかっていく音を耳にした後、俺はゆっくり立ち上がる。
「どうやら上手くいったようですねぇ」
「そうみたいだな」
楽しそうに笑うルリの声を背に受けながら、俺は本棚の前に立った。
「さて、後はこいつ次第だ。上手く撮れてるといいんだがな」
そのまま棚の上に手を伸ばし――そこに設置していたデジタルカメラを手に取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます