あっ(察し)
「はぁ……」
ほんの少しだけ肌寒さを感じる22時。人気のない夜道をひとりとぼとぼと歩きながら、俺はため息をついていた。
「なんだよ、プロデュースって。俺は働くつもりなんてないんだぞ……」
口をついて出る愚痴は、ついさっきまであったある出来事に起因するものだ。
俺はファミレスでたまたま出会った同級生である夏純に弱みを握られ、渋々ながら彼女の頼みを聞くことになっていた。
遅い時間というのもあって、詳しい話は明日聞くことになりその場で解散したのだが、解決したわけじゃない。
むしろ本番はこれから。夏純が俺になにも求めているのかはイマイチピンと来ないが、はっきり言って面倒事になる予感しかしない。
「全く。どうしてこんなことになったのやら」
原因は分かってる。俺自身の脇の甘さだ。
もう少し警戒を強くしていれば、防げた事態であったはず。
そりゃルリがバラしたからこうなったのは否定しないが、あのファミレスで会うことを指定したのは俺だし、人が入店してきたことに気付いてもいた。
たまたま相手が見知った相手だったというだけで、金の手渡しの現場を目撃されたのは明確な俺の落ち度だ。
だから逆ギレみたいなみっともない真似はするつもりはないのだが、それでも厄介なことになったのは変わりない。
「今日は徹夜でゲームするつもりだったんだけどなぁ……まったくもって参ったぜ……」
再度ため息をつきながらも、足を止めることはしない。
その場に止まって考え込んだところで落ち込むだけだし、なんの得もありはしないからだ。
頭の中にいる冷静な自分が、そんなことをするくらいなら家に帰って今後のことを考えたほうがいいと判断している。それにはまったくもって同意であるため、俺は一路家へと向かい歩を進めた。
そうしているうちに、俺はやがて自宅付近へとたどり着いていた。
見知った光景を当たり前のように受け止めながら、ポケットを探り、玄関の鍵を取り出そうとしていたのだが。
「遅かったじゃない、和真」
聞こえてきた声に、俺は反射的に足を止めた。
よく見ると、家の前に人影がある。壁に寄りかかるように立っているようだが、街灯に照らされ、ちょうど頭にあたる部分が光を反射しキラキラと輝いていた。
その色は銀色。そんな髪色をしていて、俺のことを和真と呼ぶ人物に、心当たりはひとりしかいない。
「アリサ……? お前、なんでこんな時間に家の前にいるんだよ」
俺からすれば当然の疑問を幼馴染へと投げかけたのだが、アリサは無視した。
何も言わず背を預けていた壁から離れると、こちらに向かって歩いてくるが、まとっている空気がどことなく重い。どうも怒っているようだ。
「おい、アリサ……」
「随分遅かったじゃない、和真」
やがて俺の前で立ち止まると、アリサは顔をあげ、こちらをハッキリ睨んでくる。
「早く帰ってこいって言ったのに、随分のんびりしていたみたいね。どこでなにしてたのよ」
「いや、ファミレスで飯を食ってちょっとのんびりと……お前こそ、なんでここにいるんだよ」
「夕御飯が余ったから、持ってきてあげたのよ。どうせアンタ、明日の朝も適当に済ますつもりだろうと思ってね」
そう言いつつ、アリサは右手をあげた。
その手には袋が握られており、確かに俺へのおすそ分けのつもりで持ってきたのだろうことが分かる。
「それは助かるけど、わざわざこんな時間まで待たなくても……」
「……アンタって、ホントバカよね。バカ和真」
「えぇ……」
なんで遅くなっただけで、そんなことを言われないといかんのだ。
抗議しようとアリサに改めて目を向けたのだが、
「アンタに会いたかったからに決まってるじゃない、そんなことも分からないの」
赤らんだ顔で、アリサはそう言ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます