話が動くフラグ?そうだよ(断言)
トングで掴んだいくつかの氷をグラスに入れて、ドリンクバーに置いてスイッチを押す。
そうすると、機械が作動して適量まで飲料を注いでくれる。特に頭を使うこともなく、誰にでも出来る簡単な作業だ。
普段意識したことはなかったが、そういえばドリンクバーの前に店員が立っている光景を見たことがないなとふと思う。
それは説明の必要がないからなのだろうが、そういった手間暇を省いて直感的に利用出来るというのは、思えばとても素晴らしいことなのではないだろうか。
「頑張って色んな便利なもの作ってくれてる世の中の人には感謝しないとってやつだな」
ま、働くつもりの一切ない俺にとっては、本当にただ感謝するだけなんだが。
せいぜいこっちを便利で楽しく暮らせるものをたくさん生み出してくれるとありがたいことこの上ない。
そんな益体もないことを思い浮かべているうちに、コポコポと僅かな音をたてながら、茶色い液体が少しづつせり上がっていく。
それを目にしながら、俺は頭の中でルリについての情報を改めて整理することにした。
立花瑠璃は、『ディメンション・スターズ!』のメンバーのひとりだ。
愛称はルリで、年齢は15歳。俺のひとつ下であり、『ディメンション・スターズ!』においては最年少。俺や雪菜たち同様、私立鳴上高校に通う一年生でもある。
身長153cmでバストのサイズは83。好きなものはカワイイ自分と面白いこと。嫌いなものはつまらないもの。
『ダメンズ』内では一番運動神経が良いらしく、ファンクラブの広報にもダンスが得意であると記載されていた。
事実、今日のミニライブでも動きのキレが特に優れていたのはルリである。
電話口で聞いたアリサの声が疲れ気味だったのに対し、ルリはピンピンしているようだったし、体力も一番あるのかもしれない。
オシャレには自信があるらしく、ファッション誌の仕事を希望しているが、現在主に回される仕事はもっぱらテレビのバラエティ。
深夜帯のものからゴールデンと受ける仕事は幅広く、毎回割とひどい目に遭う割に常に笑顔で自分のカワイさをひたすらアピールすることから、ファンの間ではもっぱら広報担当、ギャグ兼オチ要員のような扱われ方をしている子だ。
ルリをきっかけに『ダメンズ』に興味を持った層も、雪菜やアリサのファンに落ち着くことが多いと聞く。
ある意味損な役割だが、その常に明るく自信に満ちた振る舞いに惹かれ、そのままルリの固定ファンとなる人間もまた多い。
俺の場合は幼馴染ということもあり、雪菜とアリサを主に推していたわけだが、別に他の『ダメンズ』のメンバーに全く興味がなかったわけじゃない。
おそらく俺以外では雪菜たちと一番一緒に過ごしている仲間たちだ。ファンではなく幼馴染として、出来ればお礼を言いたかったし、知り合いになりたいくらいには思っていたが、まさかこんな形で巡り合い、しかも貢いでもらうことになるとは。人生分からないものである。
「とはいえ、気になることがないわけじゃないんだよな」
ルリには色々と聞きたいことがある。
ゴールデンウィーク初日に知り合って、直接会うのは今日が二回目。
聞いたことを全て話してもらえるなどとは思っていないが、聞かないことには分からない。
そのためにも、なるべくルリの機嫌を損ねないようにするべきだ。
考えがまとまるのと、自分の分のドリンクが入れ終わったのはほぼ同時だった。
そうなると、長居は無用。さっさと席に戻るべく、ドリンクバーへと背を向ける。
カランコロン
「ん? 誰か来たのか」
タイミングがいいのか悪いのか、丁度誰かが店に入ってきたらしい。
一瞬どの席に座るのは把握しといたほうがいいだろうかと迷ったが、結局俺はそのまま席に戻ることにした。
寂れているとはいえ、ファミレスに客が入るのは当然のこと。怪しい動きをして逆に向こうに不信に思われるほうが良くない
むしろ、ルリが騒いだ時ではなくて良かったとプラスに考えるべきだろう。
帰りの会計にだけ注意しておけば問題ない。そう頭で結論づけると、俺は足早にルリのもとへと向かうのだった。
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