空気を読んでたらオタクなんてやれないんですよ

「みなさーん! 今日は私達『ディメンション・スターズ!』に会いに来てくれてありがとうございます!」


 まず最初に挨拶をしたのは雪菜だった。

 顔に笑顔を浮かべ、嬉しそうに喋るその声に震えはない。

 モールの中でのミニライブということもあって、ステージの上からは多くの人が自分たちに視線を向けているということがはっきりと分かるだろうに、なんとも楽しそうなその姿に俺にはちょっとばかり感銘を受けていた。


(もうすっかり慣れた態度だなぁ。流石というかなんというか)


 新人の頃はもう少し緊張が見られたものだったが、今は違う。

 余裕があるというか、緊張すらも楽しんでいるように俺には見えた。

 所謂場馴れしているというやつなんだろう。そういった空気は肌で感じ取れるものだ。

 ガチガチの態度であったら見ている側にも不安が生まれるものだが、ああも堂々としていると人は自然と安心するもの。

 隣にいる聖も俺と同じような感想を抱いたのか、「ヒュウ」と軽く口笛を吹いている。女慣れした彼の目にも、今の『ダメンズ』が魅力的に映っているということなんだろう。


「皆のこと楽しませるから、しっかり聞いていきなさいよ!」


「カワイイルリたちの姿、目に焼き付けていってくださいねー♪」


 続けてアリサが挨拶をし、さらにルリへと続く。彼女たちも雪菜同様、言葉に詰まることなくスムーズに挨拶をこなしていく。


「それでは皆さん、今日は新曲も歌いますので、楽しんでいってくださいね」


『うおおおおおおおおおおおお! 分かったよおおおおおおおおおお!!!』


 そして最後はリーダーのマシロが締めて、ファンが声援で応える。

『ダメンズ』のライブにおける、いつもの始まり方だった。それは言い換えれば、今日のライブも成功に終わると確信させられる流れということでもある。


『うおおおおおおおおおおおお! セツナちゃぁぁぁん! アリサちゃぁぁぁん! 可愛いよおおおおおお! 好きだああああああああああ!』


「うおおおおおおおおおおおおお! 『ダメンズ』最高ですわぁぁぁぁ! うおおおおおおおおおおおお!」


 ……まぁ強いていつもと違う点を挙げるとすれば、最前列に陣取っているクラスメイト達、特に伊集院の絶叫が、やけに響き渡っていることだろうか。

 法被を着て団扇を握り締めている伊集院の顔は既に真っ赤に染まっており、こうして遠目に見ても、明らかにあそこだけテンションが振り切れている。

 視線を移せば引いている猫宮たちの姿も見れるし、文字通り熱意の違いが浮き彫りになっているようである。


「あいつら、恥ずかしくないのか……? ここ、モールだぞ。一般客もいる場所なのに、なんであんなに叫べるんだ?」


「……『ダメンズ』のファンって、濃いの多いようですから。あいつらも地元でやるってことで、テンション上がってるんでしょう」


 聖が引きつっているようなので一応取り繕ってみたが、確かにこうしてみるとキツイものがあるな……。

 いやでも、アイドルオタクって、基本あんなもんではないだろうか。

 場を温めるのがファンとして正しい姿勢ではあるしな。そもそも周りを見れる余裕があるなら、とっくに彼女のひとりくらい作れているだろうし……(※個人の感想です)

 そんなことを思いながら、俺は改めてステージに視線を向けたのだが、


(ん……?)


 ふと、違和感を覚えた。

 ステージの上に立つ『ダメンズ』のメンバーは、全員笑顔のままだ。

 だけど、その中のひとり。四人のなかでも少しだけ背の低いその子だけが、笑顔のままどこか不機嫌そうなオーラを出しているような……。


「気のせいか……?」


「あはは。皆元気いっぱいだね。それじゃ早速始めよっか! それじゃ今日の一曲目いっくよー! 『お金で束縛◇5秒前!』」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 一生縛り上げてくださああああああああああい!!!』


 だが、俺の覚えた違和感は、直後に始まったライブとファン達の熱量によって、あっという間にかき消されていったのだった。




◇◇◇


久しぶりです、また投稿を再開させていただきますのでよろしくお願いします。

今月25日に本作の1巻がオーバーラップ様より発売されます。近況ノートのほうで表紙絵を公開しておりますので、どうか確認していただければ……。

読んで面白かったと思えてもらましたらブクマや↓から星の評価を入れてもらえるととても嬉しかったりしまする(・ω・)ノ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る