ライブの直前ってテンション上がるよね
『ディメンション・スターズ!』のミニライブ。
ファンが待ちに待ったそのイベントは、モールの一階にあるメイン広場を貸し切った状態で行われる単独ライブだ。
その後CDを購入した者限定の握手会が行われる運びとなっているが、ライブ前に特設会場は既に閑古鳥が鳴いている状態。つまり完売しているということだ。
その証拠に、会場は開演まで残り数分を切った現在の時点で、既に満席となっていた。
「あれ、今日なんかイベントあんの?」「あー、どっかのアイドルがライブするんだってよ。確かディメンション・スターズだったかな」「マジで!?俺ファンなんだよ。ちょっと聴いてこうぜ。な?」「生で見るセツナちゃん楽しみー!」
ざわつく声がそこかしこで飛び交っている。席に座らずとも足を止める人もいて、今か今かと待ち構える観客の興奮が、ここまで届いてくるようだ。
数百人は詰めかけているだろうその光景を上から眺めながら、隣の聖が関心したような声を漏らした。
「へぇー、アイドルのライブなんて始めて来たが、こりゃすげぇな。めっちゃ人いるじゃねぇか」
「こういう形でライブ観るのは俺も始めてですけど、上からだと尚更よく分かりますね。いい場所確保出来たと思いますよ」
「お、マジか!」
軽く雑談を交わす俺達だったが、事実こうして頭上から見下ろす形でライブに参加するのは始めての経験だ。
通常のライブでは席が埋まればそこで終了。立ち見席などまずないが、それはあくまで普通のライブ会場の話。
このモールは広場を中心にした円形の吹き抜けとなっており、俺たちが現在いる二階からでも、会場を見下ろすことが出来るようになっている。
そのため、俺や聖のように落下防止の手すりに寄りかかりながらライブが始まるのを待っている人は、周りにもチラホラいた。照明も暗くならないし、中々に新鮮な光景に、自分の中でテンションが高まってくるのを感じる。
「休み前の時点で学校でも話題になってましたけど、ここまで集まったのはそれだけダメンズの人気が高まってるってことだと思いますよ」
もちろん一般的なライブ会場よりは手狭であるという前提はあるが、それを差し引いても席を埋めたのは大したものだと俺は思う。
見渡す限りやはり俺たちと同年代が多いようだが、この全てがうちの学校の生徒というわけではないだろう。別の学校、あるいは他県から遠征に来ている人もいるかもしれない。
そう思うと、ダメンズの注目度が増してきていることを実感できるというものだ。
(伊集院に養ってもらう計画は頓挫したが、ダメンズの給料が上がるならそれに越したことはないからな。監禁は断固拒否するけど)
ごく一部を除き、内心満足していると、聖が話を続けてくる。
「はー、やっぱアイドルってすげーんだな。前は手を出すつもりだったが、こうして集まったやつらの多さを見るとさすがにちと気後れするもんがあるぜ」
「まぁ大半が彼女もいたことがないオタクですけどね。モテないし連中の集まりなんですから、聖先輩が気に留めることもないですよ。養ってもらう側の人間になりたいっていうなら、貢ぐ側のやつらなんて気にしたら負けですからね」
「お前、ほんとナチュラルに鬼畜なことを言うよな…てか、さっきからなにしてんだ?」
少し引いたような目でこちらを見てくる聖だったが、ふと視線が下がり、俺の手元へと固定される。どうやら俺がスマホを操作していたことが気になったようだ。
「ちょっと写真送ってたんですよ。俺がいる場所を、あいつら知りたがってたもんで」
席を取っていた伊集院達の誘いを断り、わざわざ二階まで着た理由がそれである。
実際に会場を目にして、こっちのほうが俺のことを分かりやすいだろうという、ちょっとした配慮ってやつだ。着いてこようとした姫乃と体よく離れたかったというのが大半ではあったが、それは言わぬが花ってやつだろう。
あれ以来、姫乃と一緒にいると雪菜は露骨に目からハイライトが消えるようになったからな。トラブルのフラグは事前に取り除くに限るのである。
「それって師匠の幼馴染達か。ライブ前だってのに、スマホ見る余裕あんのかよ」
「意外とあるらしいですよ。リハはもう終わってますし、衣装にも着替えて終わったら後は始まるまで待機ですしね。むしろ直前までドタバタしてるようだったら、そっちのほうが問題ですよ」
「へぇ、そんなもんなのか。なんつーか、プロって感じだなぁ」
「ですね」
適当に返事をしつつ、俺はスマホの画面を注視していた。
雪菜とアリサに送ったメッセージには既読がついており、いつも通り返信がきていたが、もうひとりからは未だ返事が来ていない。
(ライブには行くってこと、伝えてたんだけどなぁ)
もしかしてからかわれていたのか?そんな考えが一瞬浮かぶが、次の瞬間スマホからピコリと音が響く。
(待ってましたよ、クズおにーさん♡ルリの可愛さ、ちゃんと見ていてくださいね♡)
それを見て、俺は軽く息を漏らした。どうやら心配のしすぎだったらしい。
「ま、備えあれば憂いなしって言うしな」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、別に。それより、もうすぐライブ始まりますよ。雪菜達も準備できたようですから」
言いながらポケットにスマホをしまったその直後、会場にアナウンスが響く。
『それでは時間になりましたので、ディメンション・スターズ!のミニライブをこれより始めたいと思います!』
『おおおおー!!!』
ファンの歓声。それに応えるように、ステージにダメンズのメンバーが姿を見せた。
※
新年明けましておめでとうございます!
こちらでのご報告が遅れましたが、オーバーラップ文庫様より本作の書籍化が決定致しました!
これも皆様のおかげです、改めて感謝を
どうしようもないクズ主人公のラブコメですが、2023年も本作をどうかよろしくお願いいたします
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