面白おかしい人生のほうが絶対いいに決まってますよねそうですよね
「フッ…まぁ俺が凄すぎることはさておきだ。夏純は本当に問題ないんだよな?」
一通り己のハイスペックさを再認識した俺は、とりあえず一度話を戻すことにした。
自分を称えることはいつでも出来るが、他人と話す機会というのは案外限られているからな。
「あ、うん…ていうかさ、葛原くんは、なんでそんなに自分に自信があるの?」
「ん?」
「アイドルとして頑張ってるの、結局雪菜ちゃん達じゃん。葛原くんは貰うだけで、自分で稼いでるわけじゃないのに…」
「なに言ってんだ。俺は将来働かなくていいんだぞ。そんな勝ち組なら、自信持たないほうが失礼ってもんだろ」
「いや、普通の人はそこで自信持てないよ…だって罪悪感とかあるじゃん。あと男の子としてのプライドとかさ」
目を伏せて問いかけてくる夏純。
しかし、なに言ってんだコイツは。俺は一度ため息をつく。
「そんな何の役も立たんもん、とっくの昔に投げ捨ててるわ。そのせいで人生の大半を働いて生きなきゃいけないとか、なんの罰ゲームだよ。ありえんわい」
大体、普通に生きてたら働かないといけないんだぞ。仮に大学を卒業して就職しても、定年退職まで40年以上。しかも現在そのラインは後退していく一方という、絶望的な状況が現在の社会の在り方である。
人生の半分以上を誰かに頭下げたり怒られたりしながら、安い給料でやりくりしながらたまの娯楽で自分を慰める日々が待っているのだ。
それって楽しいか?俺は楽しくないと断言できるね。俺は自分を誤魔化したくない。
「そんな人生、俺はゴメンだ。俺は俺のために、面白おかしく最高の人生を送ってやる。クズだろうがなんだがろうが、誰がなんと言おうと、絶対にこの生き方を改めるつもりはない。胸を張って言い切ってやる。俺は絶対に働かないってな」
周りにとやかく言われた程度でぐらつくくらいの意志しかないなら、ソイツは所詮それまでってことだ。
いずれ社会の歯車となることを受け入れ、恨みつらみながら愚痴を吐く日々を過ごすことになるだろう。
だが、俺は違う。親だろうが友人だろうがなんがろうが、なにを言われたって考えを曲げるつもりはない。
…………まぁ監禁だけはゴメンだが、それに対しての対策も考えてるところだしなんとかなるだろう、うんきっと。多分。
ふと嫌なことを思い出し、内心苦虫を噛み潰していると、
「……葛原くんは、凄いね」
夏純はそう言って、小さく笑った。合わせるように、シュシュでまとめた彼女の長いポニーテールが少し揺れる。
「昔から、君は変わらないや。いつでも自分に自信があって、真っ直ぐで、それで…」
「いや、俺は変わったぞ?昔と比べて、間違いなくイケメンっぷりはグレードアップしているからな。昔の俺が絶世の美少年だったら、今の俺は傾国の美男子といっても過言ではないはずだからな」
「…………ますます自己評価の過大さに磨きがかかったね。あと、傲慢っぷりも凄いし。空気の読めなさとか悪いとこも、色々グレードアップしまくってるよ…」
間違っていたところがあったので訂正してやると、何故か夏純は冷めた目を向けてきた。
何故そんな呆れたように俺を見てくるんだろうか。ひょっとして惚れたか?
まぁ至近距離で俺の顔を直視したなら無理もないが。やっぱ俺って罪な男ですわ、ヒャッホイ!
「はぁ…でも、羨ましいな。ボクも、葛原くんみたいに胸を張って働きたくないって言えたら…」
「戻ったよー!」「結構混んでたね」「やっぱりダメンズ目当ての人、かなり来てるみたいだね」
がやがやと周りが騒がしさを取り戻したのは、夏純がなにか呟いた直後だった。
食事を買いに行っていた女子のメンツが、席へと戻ってきたのだ。
「あぁ、戻ったのか。時間切れだな」
「……そうだね」
それを確認し、俺は夏純から少し距離を取る。
向こうも同様の動きを見せた。これでお互いに、学校での本来のクラスメイトとしての距離感を取り戻した形になる。
別に深い意味があるわけでじゃない。ただでさえ最近は色々なことがあったため、余計な詮索をされるのが面倒なだけだ。
「席確保しててくれてありがとう、クズ原。一応お礼は言っておくね」
「紫苑とふたりきりだったみたいだけど、この子に変なことしてないでしょうね」
「言っとくけど、紫苑はお金ないわよ。遊ぶと同じ服を微妙に組み合わせ変えて、ローテーションで着てくる子なんだから。そんな子が、クズ原を養えるはずないんだからね!」
だってほら、最近の女子は、何故か俺に対して当たりが強いし。
この辛辣っぷりは、女なら見境なく手を出す危険人物として認識されている気がしてならん。そういうのは聖先輩の役割だろ。俺は至って清い身だっつーの。
「一応はいらんだろ、一応は。普通にちょっと話しただけだ。あと、その一言は多分余計だと思うぞ」
夏純のやつ、明らかにショック受けた顔してるし。「え?それってダメなことだったの!?」みたいな。いや、学生なんだし小遣いの関係上、着回すのは仕方ないだろ。ちょっと容赦がなさすぎる。
「とりあえず皆様、食事を済ませたら、会場まで向かいましょう。お嬢様がファンクラブの方々と、席を確保しているはずですので」
そんなことを考えていると、いつの間にか戻っていた姫乃が場を収めるように言葉を放った。
ちゃっかり俺の隣に座っているあたり、相変わらず抜け目がないやつだが、ここに至ってはその一言は有り難い。
(ライブにはいかないと後が怖いからな…それに、一応確認しときたいこともあるし)
姫乃の意見に納得した女子陣がそれぞれ賛成の声を挙げるのを横目で見ながら、俺は考えを巡らせつつ、残っていたジュースを一気にすすったのだった。
※
次回、ライブ回でありダメンズ回
普通のアイドルものの展開は期待しないでくださいマジで
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