すっごいうぬぼれですね!

「こうして話すのも随分久しぶりだよな。元気だったか?って聞くのもなんか変か。もう同じクラスになって一ヶ月経ってるもんな」


 話しかけたのは俺からだった。

 まぁ俺が話したいと思ったから、当たり前ではあるんだが。


「あ、そうだね。うん、ボクは元気だよ。友達も出来てるしね」


「そりゃ良かった。高一の時はクラスが別だったから分からなかったが、夏純もちゃんと馴染んでるんだな」


 無視されるとは考えていなかったが、夏純は存外あっさり口を開いた。

 そのことに少し安心しながらそう返したのだが、何故か俺の言葉に夏純は不満そうに顔を変化させ、頬を膨らませる。


「それ、どういう意味?まるでボクがコミュ障みたいな言い方じゃんか」


「俺の中じゃお前はそういうイメージだったってこった。実際中学の時は、もうちょいおとなしめのグループ入ってたろ?今みたく、クラスの中心グループにいるのが少し引っかかるってだけさ」


 念の為に言っておくが、別に俺は夏純に対して偏見を抱いていたわけじゃない。

 過去の事実と現在のギャップからくる純粋な感想を口にしただけだ。

 中学時代の夏純はあまり積極的に人付き合いをしていなかったと記憶しているし、入っていた女子のグループも今のクラスみたいに学校外で一緒に遊ぶような所謂リア充のそれじゃなかった。

 髪だって染めてなかったし、高校の入学式で見かけた時は別人かと少し驚いたくらいである。


「だからってわけでもないが、無理とかしてるんじゃないかって、ちょっと気になってな。もししんどいようなら、他人に合わせなくたっていいんだぞ」


 高校デビューなんてよくあることであるのは百も承知だが、知り合いがそれを行ったことにどんな心境の変化によるものか。

 それが少し気になった。それだけだ。そして無理しているようなら、やめとけと言いたかっただけである。


「人に合わせて疲れるようなら、それはそいつらと自分の波長が合ってないってことだからな。無理はするもんじゃない。自分の生き方は、自分で決めとけ」


 合わないことをして自分を誤魔化したところで、変われるとは限らないからな。

 俺の言葉に、夏純は何度か目をパチクリさせると、


「…………うわ、意外。葛原くんって、お金持ってない人のこと気にかけるんだね」


「どういう意味だ」


 めちゃくちゃ失礼なことをのたまいやがる。

 その言い方だと、俺がまるで金を持たないやつには目もくれない冷血漢みたいじゃねーか。


「ごめんごめん。でも、ボクからのイメージだと、葛原くんはそういう人だって思ってたってだけだよ。言葉を返すみたいだけどね」


「お前も存外偏見に満ち溢れたやつだな…」


 夏純もうちのクラスに染まったとしたら、それは嘆かわしい限りである。

 最近はクズ原以外にも、やれ金の亡者だの幼馴染を落とした鬼畜野郎だのと、とても高校生とは思えないあだ名が広がりつつあるらしいが、ハッキリいって冤罪もいいとこだ。

 俺は幼馴染達から金こそ貢いでもらってるが、具体的な金額を提示したことはないんだぞ。

 あくまで向こうが大金を差し出してくれるだけで、俺はそれをただ受け取ってるだけに過ぎないというのに。

 出るところに出れば勝てると思うが、まぁそれは一度置いておこう。証拠を集めるなんて、いくらでもできるからな。

 学校が阿鼻叫喚となる様は後の楽しみにとっておくとして、今は目の前の誤解を解くことのほうが優先だ。


「あのな。俺はこう見えて、めちゃくちゃ優しい人間だぞ?金のないやつには恵んでやることだって時たまするし、なにより一生働かず遊んで暮らせることを約束された、究極無敵の勝ち組にして、顔よし頭よし運動神経も抜群という、運命に愛されたアルティメットパーフェクトヒューマン!それが俺だ!!!そんな俺が他人に優しくせずに、誰が出来るっていうんだ?できっこないだろ。だって俺こそが、最高の人間なんだからな!」


 うーん、言っててなんだが、やっぱ俺ってすげーな。

 アイドルに惚れられるほどの超スーパーハイパーイケメンなのに、他人にも慈悲をかけられるとか、人間があまりにも出来すぎている。

 そりゃ働かずに遊んで暮らせるのも道理だわ。あまりにも自分が完璧すぎて、惚れ惚れするくらいだぜ。

 自分のあまりの素晴らしさに、ひとり満足して頷いていたせいか、「えぇ…そこまで自画自賛するの?自惚れが凄すぎない…?」とかいう、夏純の戦慄混じりの呟きは、俺の耳に届くことはなかったのであった。

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