同調圧力って大変だよね
意外、というべきなんだろうか。
クラスの女子陣はほぼ全員が俺のことを白い目で見ていると思っていただけに、夏純から擁護されたのは驚きだった。
「ちょっと紫苑。なに言ってんのよ。クズ原はただのクズよ!肯定なんかしちゃダメじゃないの!」
「そうだよ!アリサ達からお金をふんだくってるんだよコイツ!ダメ人間もいいとこじゃん!褒められるとこなんて顔しかないし!」
「え、あ、う、うん…そ、そうだよね」
だが、それは俺だけでなく猫宮達にとってもそうだったらしい。
多数のツッコミが飛んでくるのを受けて、夏純は曖昧な顔で頷いていた。
「葛原くんのしてることってやっぱりクズだよね。普通に考えてイケナイことしてるし…ごめん、ボク変なこと言っちゃった」
「もう、しっかりしてよね」
「変なこと言うからビックリしちゃったじゃない。クズ原の味方するなんてありえないよー」
「そうそう。これ以上騙される子なんて出すわけにはいかないんだから!」
夏純の謝罪に嘆息しつつ、俺への批難が強まっていく。
本人を前にしてここまでボロクソに言えるのは大したもんだが、俺としちゃ別に気にはしない。
慣れてるしな。それより、気になるのは夏純の方だ。
(あっさり周囲の意見に流されるってのもなぁ…まぁそういうもんかもしれんが…)
うちのクラスの女子は元々性格的に穏やかな生徒が多かったが、それに加え、今は俺という共通の敵がいることである意味一致団結状態にある。
そのため、他のクラスと比べても仲が良い方だと思うが…そういう団結の仕方をされてるという事実は、俺としては限りなく不本意だ。
まぁ、仲がいいこと自体は悪いことじゃないからな。寛大な精神をもって目を瞑ろう。俺の存在は必要悪ってやつだろうからな。
いじめとかも聞いたことがないし、今だってただ咎めているだけで、悪意があるわけじゃないのは見てて分かるし。
(女子の同調圧力ってのも、色々としんどそうだな)
それでも、ちょっと口にしただけの意見があっという間に多数派によって訂正される光景は、見ていてあまり面白いものではない。
俺自身、働きたくないという確固たる意志をもっているが、咎められることが多いからな。
少数派の意見が多数に封殺されるのはよくあることではあるし、それが民主主義ってやつなんだろうが…ま、いいか。今はそのことに触れるのは良くないだろう。
さすがに俺も空気は読めるし、なによりこの場では味方が少なすぎるからな。
多勢に無勢というやつだ。それもあって、一度話題を変えることにした。
「そういや、昼飯を注文しに行かなくていいのか?座ってるだけじゃ腹は膨れないだろ」
俺の指摘に、猫宮達は今気付いたとばかりにそれぞれ顔を見合わせると、
「あ…!」
「そういえばそうだった!すっかり忘れちゃってたよ!」
慌てて立ち上がるクラスメイト達。
やはりおしゃべりに夢中になって忘れていたようだ。これでさっきまでの流れも、一度途切れることだろう。
「あ、私も…」
「ちょい待て。お前は座っとけ。席確保しとくやつは必要だろ」
遅れて立ち上がろうとする夏純を制し、聖へと顔を向ける。
「聖先輩、席は俺が見ておきますから、あいつらの買い物手伝ってあげてくれませんか?ついでに夏純の分も買ってきてもらえると助かります」
「ん?ああ、そうだな。分かった。なに注文しとけばいい?」
「え、あ、と。じゃあ、カルボナーラで」
「おう。分かった。飯代はいらないからな。そんくらいは奢るわ」
夏純の返事を聞きながら、聖は席を立ち上がると、猫宮達の後を追う。
「俺も手伝うわ。その代わり、俺のこと養ってくンね?もしくはセフレでも可だ。俺はどっちでも歓迎するぜ」
「先輩、死んでくれません?」
「やっぱクズ原くんとつるんでるだけあってこの人も大概クズね…」
わんやわんやしながら昼食を買いに向かう一同。
クラスメイト達の背中を見送りながら、俺は隣に腰掛けているメイドへと目を向ける。
「姫乃、悪いけどお前もちょっと席を外してくれないか?ちょっと話したいやつがいるんだわ」
「かしこまりました」
俺の言葉に従うように、姫乃が立ち上がる。
なにも聞いてこないのは、メイドの矜持からだろうか。ま、そっちのほうがありがたいから助かるけどな。
そうして姫乃もいなくなり、席に残ったのは、俺と夏純だけだった。
「さて、これでこの場は俺達だけになったな」
「えと…」
「ちょっと話そうぜ。ま、少しの時間だけだろうけどな」
別に狙ったわけでもないが、いい機会だ。
久しぶりに中学の頃の同級生と、俺は少し話してみることにした。
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