働かずに食う飯ってメチャ美味いよね。奢られると更に美味いよね。これ常識よね
働かざる者食うべからずという言葉が、この世にはあるらしい。
働かずに自由な生活を謳歌している勝ち組に、「お前は働かないでタダ飯食ってるが、いい身分だなオイ。お前が遊んでいる間に、俺は働いていたんだぞ。俺が稼いだ金で食う飯は美味いか?ん?」という、遠まわしな嫌味。ある種の皮肉だ。
なにを考えてこんなことを言ったのか分からないが、最初に言ったやつの性格が悪いことは間違いない。
皮肉と悪意しかない発言を、わざわざ後世まで残しているわけだからな。
どんだけ働かない人間を嫌っていたんだか知らんが、この際ハッキリ言わせてもらう。
働かずに食う飯?そんなの―――めちゃくちゃ美味いに決まってんだろ!
そもそも飯に罪はないのだ。というより、料理が出来上がってた時点で飯の味は今更変動なんてしない。当たり前のことだ。
まずい料理は最初からまずいし、美味い料理は最初から美味い。
実際の味はそりゃ口にしてみないと分からないが、食ってる最中にわざわざまずいもんを食ってると思わせようとするなど、食に対する冒涜としか思えん行為だ。
俺からすればそっちのほうが軽蔑もんだし、嫌味しか言えない関係を築いてきた当人にも非がある。
文句を言わずに大人しく黙々と食ってりゃいいのだと、少なくとも俺はそう思うね。
一生働かず、いつでもどこでもどんな時でも、好きなタイミングで好きな飯を食いまくるつもりの俺にとって、飯とは常に美味いものであらなくてはならないのだから。
ついでに言えば、それが他人の金で奢ってもらった飯ならなおいい。
他人の金で食う飯ほど、美味いものは存在しないのだ。
そんなことを俺、葛原和真は、ゴールデンウィークで賑わうモールのフードパークで、奢ってもらったパスタを頬張りながら思っていた。
「先輩、このクリームパスタ美味いっすね」
「だろ?前のセフレと来た時に適当に頼んだ店だったんだが、結構イケるんだわ。1000円ちょいの飯で機嫌良くするんだから、チョロくて助かったんで覚えてたんだよなー」
専門店というわけではないし、値段も手頃なのに普通に美味いというのが、率直な感想だった。
それを受けて、対面に座るチャラ男としかいいようのない浅黒イケメン。聖先輩が、ゲスな発言とは裏腹に白い歯を輝かせて爽やかな笑みを見せる。
「あはは。最低っスね。そこは彼女じゃないんスか」
「本命だったらちゃんとした店行くっつーの。ただ、適当な扱いで喜ぶ女っているんだよなー。そういうやつって楽なんだが、別れるとき大抵めんどくさいからそこはしんどいんだわ。そこはこっちの気持ち察して、さっさと割り切れって話だよなぁ」
クルクルとフォークでパスタを絡めとりながら、どうでもよさそうに愚痴を口にする聖に、俺は適当に相槌を打つことにした。
「そこは先輩の力量不足ですよ。本気にさせたほうが悪いですし、遊び相手は選ぶべきだったと思いますけどね」
「言うじゃねぇか。ま、師匠に言われちゃ言い返せねぇけどな。俺もさっさと貢いでくれる女を見つけたいもんだぜ」
「俺だって楽に見つけたわけじゃないんですけどね。それになんだかんだ、やること多くて大変なんスよ。今日だって、ライブを見に来て欲しいて言われたから、わざわざモールにまで来たわけですしね」
肩をすくめる聖ををぼんやりと眺めながら、俺はこれまでのことをふと思い出していた。
『明日はダメンズのライブがモールであるから、観に来て欲しいの』
ゴールデンウィークも半ばを過ぎ、あと数日で終わろうとしていたある日のこと。
いつも通り家のパソコンで配信を見ながら適当にスパチャを飛ばそうとしていたとき、機種変したばかりのスマホに、雪菜からのメッセージが届いたのだ。
『明日?』
『うん。市内のモールで、私達がアルバム発売記念のミニライブをすることは知ってるよね?クラスの皆も来るみたいだから、せっかくだしカズくんにも来て欲しいなって。ダメ?』
ふむ。明日ねぇ…メッセージを見ながら、少し考える。
予定はなかったが、正直あまり気は進まなかった。
ゴールデンウィークの初日にあった予期せぬ出会いにより、俺のモチベーションはかなり持ち直していたものの、雪菜達に会うのは躊躇している自分がいる。
なにがきっかけで、また監禁と言い始めるか分からないし、出来れば対抗手段を確立するまでは、雪菜にこっちの動きを悟らせたくないというのが本音である。
それ以外にも確実に伊集院とか面倒なやつも来るだろうしなぁ。
休日まで会いたくないし、別にライブは今回限りってわけでもない。
近くとあって学校のダメンズファンも大勢押しかけるだろうし、俺が行かなくても問題はないはずだ。
『あー、悪い。雪菜。俺、ちょっと用事が…』
そんなわけで、今回は断ることにしたのだが。
『監禁』
『え』
『来ないと監禁するから。ライブでカズくんの姿がなかったら、私とアリサちゃんで、カズくんを一生私達のものにするからね』
『え』
なにその脅し。
なんでミニライブに行かなかったくらいで、そんな脅迫文が出てくるの。
『カズくんは私が養ってあげるんだもん。そのために私がアイドルをしている姿を、カズくんに近くで見ていて欲しいんだ。そしたら、私もっともっと頑張れるから』
『でも、見ていてくれないと、私ちょっと嫉妬しちゃうかも。カズくんに私だけを見ていて欲しいって気持ち、抑えられなくなっちゃうよ』
『今すぐ監禁して、私だけを見て欲しいって、つい考えちゃうの。これって仕方ないよね。だって私、カズくんのためだけに生きてるんだもん。カズくんが私を必要としていてくれるから頑張れるんだよ』
『でも、もし私がカズくんにとって必要じゃなくなっちゃったら…フフッ、どうなっちゃうんだろ。もしかしたら、カズくんと無理心中して、ふたりで今度こそ天国で幸せに…なーんて、冗談だよ!カズくんが、私を必要としていないはずないもんね?よね?』
……………。
いやいや。
いやいやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいや。
冗談に聞こえないッス雪菜さん。
お前、そういう冗談で済ますキャラしてねぇだろ。何年の付き合いだと思ってんだ。
雪菜はやる。確実にやる。容赦なくやる。
間違いなく俺を監禁したり、無理心中してくるという確信がある。
『私より他の子を優先するなんてこと、カズくんはしないよね?よね?』
『…………はい』
だから俺には頷く以外の選択肢はなかったわけで。
(監禁は嫌じゃ…無理心中はもっと嫌じゃ。nice bo○tは絶対嫌じゃあ…)
のじゃロリ神様の気分を味わいながらも、もうしょうがないから、こうして暇そうな聖先輩を道連れ…もとい、同行してもらって、モールまでライブを見に来たというのがここまでのあらましだった。
(監禁は嫌だったし仕方ないが…ま、悪い方ばっか考えててもあれだしな)
ここまで来たら、今更クヨクヨしても仕方ない。
そもそも、悩むのは俺らしくないからな。こうなったら監禁は別のことと割り切って、素直にライブを楽しむつもりだ。
それに、ダメンズのライブとなればメンバーが揃ってるし、あの子もいるだろうから、な。
「フー、食い終わったが、これからどうする?まだライブまで時間あるんだろ?」
考え事をしているうちに昼飯を食べ終わった聖が、そんなことを聞いてくる。
「そうですね。ライブの始まる時間は15時ですから、まだ二時間近くは暇があります」
「ちっと早く来すぎたな。映画観るにも中途半端だし、ナンパでもして時間潰すか?」
楽しげに言ってくる聖だったが、その提案は素直にノーだ。
街中ならまだしも、今はタイミングが悪すぎる。
見渡せば明らかに俺達と同じくらいの年の男女がそこら中にいるし、学校の連中にナンパしているところを見られたらなにを言われるか分かったもんじゃない。
ただでさえ最近はクズ原とか言われて、風評被害を受けているからな。
これ以上悪評が広まるのは御免被りたい。
「いや、それはちょっと…」
というわけで断ろうとした時。
「げ。クズ原じゃん」
近くで嫌そうな声が聞こえてきた。
咄嗟に首をそっちへ向けると、
「ありゃ、猫宮じゃん。お前らも来てたの?」
そこには俺のクラスメイトである猫宮たまきと、数名のクラスメイト達の姿があった。
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