節穴、最高!!!

「雪菜」


「え、カズくん…きゃっ!」


 雪菜が振り向くと同時に、俺は彼女を抱きしめた。


「ごめんな、雪菜」


 そしてすぐに謝る。これが大事だ。

 考える時間を与えないことが、イニシアチブを握るに置いて必要不可欠な要素だからだ。


「最近、あまり構ってやれていなかったよな。アイドルの仕事が忙しいってのもあったけど…いや、こんなの、ただの言い訳だよな」


「カズ、くん…?」


「俺、雪菜のこと、ちゃんと見てやれてなかったかもしれない。雪菜がいいやつだから、安心してたとこあったんだ。改めて謝らせてくれ。本当にごめんな、雪菜」


 すると案の定、雪菜はさっきまで放っていたダークなオーラを霧散させ、反論にしてくる。


「そんなことないよ!カズくんは私のこといつも見てくれてるもん!カズくんの気持ち、私にはちゃんと伝わってるんだよ!」


 いい反応だった。思考がまとまっていないんだろう。目先の謝罪に食いついてきた。

 これが狙いだったのだ。先に謝罪の言葉を口にすることで、相手に罪悪感を植え付けることが出来るからだ。

 そうすれば、主導権を自然に握れる。後は上手く思考を上手く誘導出来るかだが、ここまでくればそんなの、俺にとっては造作もないことだ。

 上手く流れを掴めていることに内心ほくそ笑みながら、俺は首を横に振った。


「違うさ。雪菜が俺を監禁したいんだなんて言ったのは、俺がそばにいないことが不安だったからなんだ」


 実際は不安もクソもなく、ただ純粋に俺を監禁したいだけな可能性が9割以上を占めていると思うが、今重要なのはそこじゃない。

 俺が雪菜の発言にどう思ったか。それを明確に口にすることが、この場では最も重要なのである。


「そのことに、もっと早く気付いてやれなかったのは、俺のミスだよ。これじゃ、幼馴染失格だ」


「カズくん…」


 こちらから謝ることで、雪菜には迷いが生まれる。

 あれ?もしかして、自分は間違ったことを言ってしまったんじゃないだろうか?

 そんな考えを、雪菜の中へと植え付けることが、俺に課せられたミッションだ。


「本当にごめん。謝って許されることじゃないってことは分かってる。だけど俺、これからはもっと雪菜のことを大切にするって誓うよ」


 より強く、雪菜の細い身体を抱きしめた。

 ムギュっという、最高に気持ちいい感触が胸元から伝わって来るが、今はニヤけてはいけない。真面目な顔を取り繕わないと、全てご破産になってしまう。

 だから耐えろ。耐えるんだ葛原和真。ここが正念場だぞ!

 そう自分に言い聞かせながら、俺は聞いた。


「もう、遅いかな…?」


「ううん…そんなことないよ…カズくんのこと、私信じてるから…」


「ありがとう、雪菜。でも、言葉だけじゃ、きっと足りないだろ?」


 おっぱいの感触を名残惜しく思いながら、少しだけ身体を離すと、雪菜の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「俺の目を見てくれ。これが、嘘を付いている人間の目に見えるか?」


 そして問いかけた。

 実際は嘘100%の、曇りありまくりの眼だったが、大事なのは自信を持って言い切ることだ。

 俺の言ってることは本心ですよと、勝手に相手が受け取ってくれたなら、それはもうこっちの勝ちなのだ。

 後は雪菜の目が節穴であることを祈るしかない。


「カズ、くん…」


「どうかな。やっぱり、信用してもらえないか?」


「………ううん」


 しばしの間、視線を交錯させていた俺達だったが、やがて雪菜はゆっくりと首を振ると、目尻に涙を貯めて、感謝の気持ちを伝えてきた。


「カズくんの気持ち、伝わったよ。ありがとうカズくん。私のこと、こんなに想ってくれていたんだね」


「雪菜…!」


 それを見て、俺は内心ガッツポーズを決める。


 ッシャア!!!節穴、最高!!!!!


 やっぱ人生ってチョロいわ!俺、最高!

 だがまだだ。ここで一気に畳み掛け、確実な勝利を決めてやる!

 俺は雪菜の耳元に顔を近づけ、低音ボイスで囁いた。


「じゃあ早速だけど、今度デートでもしようか。それが監禁の代わりってことで、構わないよな?」


 姫乃の時と同等の、かなりのイケボ。

 雪菜は一瞬身体を震わせると、熱に浮かされるような顔で、頷いてくる。


「ぁ…うん、いいよ…」


「その時のデート代は、もちろん雪菜が持ってくれるよな?あと、ふたりともデートしてあげようと思ってるんだが、雪菜は許してくれるだろ?」


「うん…カズくんが一番大事なのは私だって分かったから、別にいいよ…」


 これはイケると思い、ドサクサ紛れにいくつか要求をしてみたが、雪菜はそれらを全てに頷いてくれる。

 実にチョロ…都合のいい幼馴染を持ったものだ。

 そのことに感謝しながら、俺は今日一番のイケボを繰り出した。


「こんな俺だけど、これからも俺のことを養ってくれないかな―――雪菜」


 俺の必殺の一撃を受け、雪菜はすぐにポーッと頬を赤らめると、


「ぁ…………うん♡」


 ハートマークの浮かんだ瞳で、頷いてくれたのだった。



 ※



「ぴょんぴょん♪ぴょんぴょん♪」


 その後、我が家のリビングでは幾度ものシャッター音が響いていた。


「いいぞ雪菜!もっと媚びた感じで頼む!」


「うん、分かったよ♪ぴょんぴょんぴょーん♪」


 俺のリクエストに、バニーガール姿で笑顔で応えてくれる雪菜。


「なに写真なんて撮ってるのよ!恥ずかしくないのご主人様のくせに!……えっと、これでいいのかしら?」


「んー、もっとキツい感じでもいいかもな。伊集院からのリクエストにも、そう書いてたし」


「あのお嬢様、もしかしてマゾなの…?」


 困惑しながらも、メイド姿で罵声を浴びせる演技を一生懸命こなすアリサ。


「ご主人様。このまま画像を使いますか?」


「いや、敢えて画質を落とす。承認欲求こじらせて、SNSにあげるやつとかいるかもしれんしな。写真サイズで荒けりゃ、投稿しても食いつき悪いだろうし本人じゃないと誤魔化せる」


「なるほど。さすがですね…」


「ただ、高画質版は後で裏で高値で売りつけるつもりだ。オークション形式なら、金を出すやつはいるからな。そうだろ?」


「ふふっ、本当に、さすがですね…♪」


 そして、競泳水着に着替えて貰った姫乃と画像編集をしているうちに、休日の時間はあっという間に過ぎていった。


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