好きなんだ、バニーガールが…

 迎えた休日。

 ゴールデンウィークを間近に控えたこの日、時計の針がまだ午前中を示している中で、我が家のリビングにはすでに数人の人影があった。


「カズくんどう?私可愛くなれてるかな?」


「完璧だ。今の雪菜はめちゃくちゃ可愛いぞ。俺が保証してやろう」


「えへへ、やった♪嬉しいな♪」


 俺が頷くと、雪菜は満面の笑みで飛び跳ねる。

 同時に頭の上の白いウサミミがぴょこりと揺れて、お尻のしっぽもふわりと動く。

 それを見て、俺も思わず笑みを浮かべてしまう。


「うむ。実に素晴らしい。どこに出しても恥ずかしくない、完璧なバニーガールだな」


 今雪菜が着ているのは、黒のバニースーツである。

 肩を出したハイレグタイプの革衣装に、白いウサミミとカフス、蝶ネクタイに網タイツという、誰もが思い描く正統派バニーガールそのものだ。

 黒髪に黒バニーという定番の組み合わせだが、だからこそ素晴らしい。

 黒のバニースーツが雪菜の白い肌と相まって映えており、絶妙なコントラストを醸し出している。

 身体のラインがハッキリと出る衣装ではあるが、雪菜のスタイルは抜群で、腰のくびれもハッキリと見て取れるため、ことさら魅力を引き出しているのがいっそ卑怯ですらあった。

 首元の蝶ネクタイもアクセントとしてこの上なく効力を発揮しており、なだらかな肩のラインを強調している。

 健康的でありながら間違いなくセクシーであり、胸の深い谷間がなんとも扇情的だ。

 どうでもいいが、俺は巨乳好きだった。


「いや、バニーガールは普通に恥ずかしいでしょ…」


 幼馴染の成長ぶりに感慨深く頷いていると、後ろから声が飛んでくる。

 振り向くと、そこにはもうひとりの幼馴染が、青いバニー姿で呆れたように腕を組んで佇んでいた。


「おっ、アリサも着替え終わったのか」


「うん。バニーガールの衣装なんて初めて着たけど、思ったより露出多いわね、これ。肩とかなんだかスースーするし」


 どことなく嫌そうに、ヘアバンド状の青いウサミミを指で軽く弾くアリサ。

 シルバーブロンドの髪をツインテールにしたいつものヘアスタイルだったが、ウサミミがあるだけで普段と違う色気のようなものを感じるのは何故だろう。

 衣装も合わせるように青のバニースーツだが、雪菜と違い足元はニーハイで包まれており、外国の血の混じったアリサのスタイルの良さをよく引き立てている。

 ただ立っているだけでも抜群の存在感があり、モデルとして十分通用するに違いない。

 胸も何気に雪菜以上に大きく育っているのは俺にとっても朗報だった。


「マーベラス。最高だ。パーフェクト言っていい。やはり俺の目に狂いはなかったな…」


 銀の髪と青いバニーガール衣装は相性抜群だと思っていたが、これほどとは。

 自分の見立てが間違っていなかったことに満足し、何度も深く頷く俺に、アリサは頬を赤らめながら、憮然とした顔で聞いてくる。


「……和真が気に入ったなら、別にいいけど。てか、これも写真撮るの?さすがにバニーガール衣装を同級生に見せるのは、ちょっと恥ずかしいんだけど…」


「?いや、バニーは俺の趣味だ。ただ着て欲しかったから、欲しい衣装にねじ込んだんだわ。クラスのやつらに見せる予定はないから、そこは安心しといてくれ」


 バニーっていいよね。ついでに言えば競泳水着も好きなんで、後でこっちも着てもらおうと密かに思っていたりする。


「アンタの趣味かい!」


「そうなんだ!じゃあ私、バニー一式用意しておくね!カズくんなら、私いつでもウェルカムだよ!」


 俺の発言にツッコむアリサと、喜々として俺の趣味を受け入れてくる雪菜。

 対照的なふたりの対応に、なんだか昔を思い出してつい懐かしい気持ちになってしまう。思えば、俺が養ってほしいと言った時も、ふたりの反応はこんな感じだったなと、微笑ましく思ってしまう。


「ははは。まぁいいじゃないか。好きなもんは好きなンだわ。あと雪菜、バニー衣装は買わなくて大丈夫だぞ。伊集院が全色サービスでくれたからな。なんならオプションも頼めば、後で追加でよこしてくれるらしいし」


 クラスメイト達の要望をまとめたリストを渡した際、俺が追加したバニーガールに目ざとく反応した伊集院が、「あ、あんな破廉恥な衣装をセツナ様とアリサ様に着させるつもりなのですか!?なんと最高…いえ、やはり最低のクズですわ貴方は!許すことは出来ませんが、仕方なく!仕方なく用意して差し上げます!なにも言わなくて結構!貴方のような男のことですもの、どうせあらゆるカラーとバリエーションをよこせというのでしょう!?分かってます、分かってますから、私が全て準備致しますわ!くっ、あのお二方がバニーガールになるなどと…!は、鼻血が…うっ!」などという、やたら長いセリフを一気にまくし立てた後、他の衣装と一緒に送ってきたのだ。

 やたらカラバリやオプションアイテムも充実している上、スーツ自体全て本革仕様の高級品という、お前どんだけ力を入れたんだという充実っぷりである。

 ふたりもそれを感じていたのか、バニー姿で並びながら、俺の話にどこか関心したように頷いていた。


「へー、さすが伊集院財閥令嬢のお嬢様ってところかしら」


「そういえば他の衣装も肌触り良かったし、素材もちゃんとしてたよね。さっき着たウェイトレスの衣装とか、全部シルク製だったよ」


「装飾もやたら凝ってたわよね。あれ、多分万は軽くするはずよ。どこから手に入れてきたのかしら…」


 貰っておいてなんだが、それはもはやウェイトレス衣装と言っていいのか分からんな。

 別に紙面を飾るわけでもないんだし、安いコスプレ専門店で売ってるようなポリエステル製でも十分だと思っていたんだが。あのお嬢様は、どうやら思っていた以上にガチ勢らしい。

 ダメンズに着せる衣装に粗相があってはならないとばかりに、全て高級素材であつらえたオーダーメイドと言える一品ものだったし、この短期間で手に入れるとか、どんなコネを使ったのやら。


「お二方、準備はよろしいでしょうか?」


 力の入れ具合に庶民との違いを感じながら、伊集院の財力と情熱について語り合う俺達の間に、唐突に割り込む小さな声。

 それに釣られるように振り向くと、そこにはヘッドドレスにウサミミを差し込み、白いバニー衣装に身を包んだ、無表情の女の子の姿があった。




出したかったんだ、ラブコメでバニーガールを…

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