そうだ、買収しよう
「そういや、来るの遅くなった原因なんだけどさ、実は朝っぱらから変なやつに絡まれたんだよ」
「変な人?」
「あの伊集院って子じゃなくて?」
雪菜とアリサの視線が、同時に伊集院へと向けられる。
「ほ、ほおおおおおおおおおおおお!!!???セ、セツナ様とアリサ様が、私を見て下さっていますわぁっ!!!???これは夢!?幻!?ひ、姫乃!今すぐこの光景を、写真に撮ってくださいませ!!!姫乃ぉっ!!!」
途端、伊集院は顔を真っ赤に染めて騒ぎ出した。
さっきまでは俺のことを呪うかのように睨みつけていたというのに、現金なやつである。
実際は雪菜とアリサの中では伊集院は変な人として見られているというのに、そんなことは露知らず嬉しそうにはしゃげるというのだから、真実を知らないというのは、時として幸せなことなのかもしれない。
「まったく、あんなにはしゃいでみっともない。お嬢様のダメンズ好きには困ったものです」
「ほんと、全くもってその通り…って、うん?」
そんなことを考えていた中、背後から聞こえてきた声につい頷くも、それが幼馴染達の声ではないことにすぐに気付く。
じゃあ誰だ?そう思い、声がした方へと目を向けると、そこにはヘッドドレスを付けた黒髪の女の子が、無表情で静かに佇んでいた。
「えっと…」
「一之瀬姫乃です、葛原様。麗華お嬢様の付き人兼メイドとして、先日転校してきた者です」
名乗られてようやくピンと来た。
言われてみれば、確かに伊集院といつも一緒にいるメイドさんだ。
「ああっ!伊集院のメイドさんか。悪い、気付くの遅れちまった」
一緒にいる伊集院のキャラが濃すぎて、そっちばかりに気を取られていたが、彼女も転校してきたばかりのクラスメイトだ。
今は普通にうちの学校の制服を着ているが、初見のメイド服の印象が強すぎたのもあるかもしれない。
慌てて謝ると、一之瀬はゆっくりと首を振り、
「いいえ、お気遣いなく。それより、いつも麗華お嬢様がご迷惑をおかけしてしてまい、申し訳ございません」
「いや、そんなことは…まぁ、ありまくるけど」
謝罪されて否定しようとしたのだが、さすがにそれは出来なかった。
毎朝毎朝絡まれて、うっとおしいのは事実だからな。
こればっかりはどうしようもない。
「ちょっと姫乃!なんで葛原和真に話しかけているんですか!今すぐ離れなさい!クズが移ります!それと、ダメンズの方々にそんなに近づいているとかずるいですわよ!私だって、授業中以外はお側にいることをはばかっているというのにぃっ!」
現に今もこっちに向かって叫んでるし。
外見だけでなく言動もうるさいとか、とことん面倒くさい相手だった。
「一之瀬さん、伊集院さんがああ言ってるけど、行かなくていいの?」
「はい。ぶっちゃけお嬢様の近くにいると、色々頼まれて色々面倒なんで、学校いるときくらいは解放されたいんですよ。ダメンズの皆様や葛原様の近くにいると、お嬢様も近寄ってこないんで、私もこの場に混ぜさせてもらってよろしいでしょうか?」
雪菜の問いかけに、メイドの一之瀬は答えるも、身も蓋もないぶっちゃけぶりだった。
その意見には激しく同意するしかないが、ここまで主人に対する忠誠心が見られないのはメイドとしてどうなんだろう。
「お、おう。まぁ俺はいいけど、ふたりもいいか?」
「いいよー」
「別に人が近くにいることは慣れてるしね。構わないわよ」
若干動揺しながらも、幼馴染達に向けて聞いてみるも、すぐにふたりは頷いた。
まぁ普段からアイドルをしているだけあって、ふたりとも人見知りする質でもないからな。
そんなわけで、現役アイドル×2にメイド、そしてイケメンという、なんとも豪華絢爛な集まりがこの場に出来上がっていた。
「ありがとうございます。助かりました」
「気にしなくていいよ。困ったときはお互い様だしね」
「ええ。それより和真、手が止まってるわよ。もっと頭を撫でなさい」
「はいはい」
「あっ、私もー」
「わかったわかった」
アリサが催促し、雪菜が乗る形で頭をまた撫でることになったのだが、そんな俺達のことを一之瀬は興味深そうに眺めてくる。
「皆さん、仲がよろしいのですね」
「まぁ幼馴染だしな…そういやさっきの話の続きなんだが、朝先輩に絡まれたんだよ。なんかチャラ男で、ふたり以外のダメンズのメンバー狙ってるって言ってたわ。結構なイケメンだったし、念のため気をつけるように言っておいてくれ」
「へー、そうなんだ。分かったよ」
「ん、了解」
朝あったことを報告すると、ふたりは頷いてくれた。
まぁ大丈夫だと思うが、変な男に引っかかっても困るからな。
金を貢がせようとしてくるクズが、いないとも限らんし。
(さて、後はやっぱ、伊集院達のことだよなぁ)
チャラ男先輩のことはアリサ達に任せるとして、当面の問題はこっちだ。
伊集院を始めとしたファンクラブの勢力と俺への風当たりは日増しに強くなってるし、早めに対処しておくに越したことはないだろう。
だが、生半可なことでは納得してくれるとも思わない。
なんせ、アイツ等は全員、ダメンズの大ファンなのだ。
アイドルオタクの執念は、決して侮れるものではない。
「なにか悩み事ですか、葛原様?」
考え事をしていると、一之瀬が話しかけてくる。
どうやら顔に出ていたらしい。悩みの種はこの子のご主人様にあるのだが、それを話したところで、一之瀬が困るだけだろうからな。
「いや、別になんでも…」
ないと言いかけたところで、言葉が止まる。
ふと向けた視線の先。相変わらず氷のような無表情で佇む一之瀬の頭の上にあるヘッドドレスを見て、俺の頭にある考えが浮かんだのだ。
「…………メイド、か」
続けて、幼馴染達に視線を向ける。
現役アイドル。突出した美貌のふたりがそこにいる。
今は制服姿だが、アイドルだけあって色んな衣装を着る機会も多く、グラビアの仕事もきていると聞いたことがある。
「カズくん?」
「和真?」
手が止まり、どうしたことかと俺を見上げてくるふたり。
そんな幼馴染達に、「ちょっと用が出来た」と言い残し、俺は伊集院のもとへと向かった。
「葛原和真…!貴方、姫乃まで手篭めにして取り込もうとしているのですか!このクズ!絶対にそうはさせませ…」
「なぁ伊集院、ちょっと話があるんだが」
そして、激昂している伊集院に話しかける。
「雪菜達のコスプレ写真、欲しくないか?それも、決して市場に出回ることのない、超レアものの撮りたてのやつを」
俺の発した言葉を聞いた瞬間、伊集院は驚きに目を見開いた。
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