どっちが虎の威を借りてるんですかね…
まぁなんだかんだ面倒臭くはあったものの、最終的に気分良く教室まで来たのだが、ドアを開けた俺を待ち受けていたのは、仁王立ちした伊集院だった。
「来ましたわね、葛原和真!」
その言葉、今週だけでいったい何度聞いたことやら。
腕を組んでふんぞり返るのは構わんが、金髪ドリルが無駄に窓の外の光を反射していて目が痛い。
「はいはい、おはようおはよう。ドリルお嬢は今日も元気でなによりですな。テンション高くて羨ましいッス」
「ちょっと、なに素通りしようとしてるんですの!?」
朝っぱらから見るもんじゃないなと思いつつ、適当にスルーして席へと向かうことにしたのだが、何故か呼び止められてしまった。
「いや、登校してきたばっかだし、普通に机に荷物を置きたいんだが…」
「そういって逃げるつもりでしょう!?そうはいきませんわよ!!!」
そう言って、俺の前に立ちふさがる伊集院。
机に荷物を置くことすら許してくれないとは、どこの秘密警察だ。両手を上げてサレンダーでもしろってのか。
どうやら伊集院の中では、俺はよほど信用できない男の扱いなようだ。
初日は様付けしてくれてたのに今は呼び捨てだし、どうしてこうなったのやら。
「そうだぞ、クズ原!伊集院さんの言うことを聞け!」
「ダメンズをめちゃくちゃにしようとするクズ原を、僕らは絶対に許さないぞ!」
そんな中、伊集院を取り巻くようにして、佐山と後藤くんを始めとした何人かの男子が、賛同の声を挙げてくる。
この数日ですっかり伊集院の取り巻きというか腰巾着と化した彼らは、伊集院を中心とした学校内での非正規ダメンズファンクラブを結成し、俺への反抗心を顕にしているところだった。
「お前らなぁ…」
思わずこめかみを押さえてしまう。
金髪ドリルにそれだけカリスマ性があるのか、単純に佐山達がチョロいのか、あるいは両方か。
いずれにせよ、かつての友人達の転落ぶりを目の当たりにし、俺は完全に頭が痛くなっていた。
伊集院の相手だけでもしんどいのに、周りの男連中が完全に敵に回ってしまった現状は、色んな意味で物哀しいものがある。
「一応聞くけど、プライドないのか?転校してきたばっかの伊集院に頼ってるとか、傍から見りゃお前らは完全に虎の威を借る狐だぞ」
「うるさい!お前に俺達の気持ちが分かるか!この前のコンサートじゃ、俺はアリーナ席を死に物狂いでゲットしたんだぞ!?」
「そうだ!僕らはアリサちゃん達を応援して、彼女達のためにグッズもたくさん買い漁ってたんだ!ダメンズに貢献しているつもりだったのに、そのお金が君みたいなクズに渡っていたと知った時の僕の悲しみを、クズ原君は理解出来るってのか!?脳が弾けそうになったよ!脳破壊だよあれは!!!」
いや、そんなキレられても。
佐山達は憤慨しているけど、社会なんてそんなもんだろ…。
グッズを買って貢献するのは個人の勝手だし、そもそもが自己責任だ。
雪菜達に小遣いを貰えることになるから俺にとっちゃ有難いことではあるが、別に俺がファンがダメンズに貢いだ金を総取りしてるってわけでもない。
グッズなんて色々利権も絡むし、コンサートのチケット代だって大半が会場の使用料に消えるというのは良く聞く話だ。
彼らが『ディメンション・スターズ!』に貢いだ金は雪菜達の所属しているプロダクションを始めとした色んな会社に分散されるし、最終的にアイドル本人に渡される給料は、その中のほんの一部に過ぎなくなる。
アイドルは商品という言葉に難色を示すファンは多いと聞くが、そういった心理的なフィルターをとっぱらって考えた場合、それはひどく正しい考えなのだ。
『ディメンション・スターズ!』という商品に、客は価値を見出し買い求めた結果、需要が高まり更に多くの派生品が生まれ、それをまた客は買い求める。
そういったプロセスを経て資金は循環し、景気が良くなり人気へと繋がっていくのである。
まぁなにが言いたいかというと、ダメンズで得をして稼いでいる人間は、俺以外にも数多く存在しているってことだ。
彼らは表立って目立たないだけで、人には言えないあくどい事だって数え切れないほどこなしているはずだ。
俺がしていることなんて、ただ雪菜達から金を貰っているだけだし、働く予定もないから犯罪行為だってするつもりはない。
あれ?俺ってこれ以上ないほどクリーンじゃね?むしろ俺以上に清い人間など、存在しないんじゃないかってくらい、真っ当な金の受け取り方をしていると思うんだが。俺って全然悪くなくね???
「そんなわけないでしょう!?論点をすり替えないでくださいな!?貴方がやってるのは、世間一般的に考えてクズでしかありませんわよ!!!」
ちっ、ダメか。いけると思ったんだが。
自分の正しさを力説してみたものの、伊集院には通じなかったようだ。
他のやつらならともかく、やはり財閥令嬢を説き伏せるのは難しいな。
さてどうしたものかと考えていると、救いの声が聞こえてくる。
「カズくーん!もういいかなー!こっちきてお話しようよー!アリサちゃんもいるよー!」
そう言って笑みを浮かべて手を振るのは、我が幼馴染雪菜だった。
アリサも自分の机に頬杖しながらこっちを見てるし、幼馴染ふたりが久しぶりに揃っているようだ。
「おっ、雪菜!おう、待ってろ、すぐ行くわ!」
なんとも有難い助け舟に、俺は遠慮なく乗っかることにした。
さすがに伊集院やファンクラブのやつらも、雪菜達になにも言うことはできないのか、「ぐぬぬ」という顔で俺を睨むだけで、止めてくることはしてこない。
「フッ…悪いな伊集院、雪菜が呼んでいるンだわ。またなー。いやー、必要とされてちゃしょうがないよなー。アイドル本人が俺を呼んでるんだもんなー。つれぇわー。お前らは俺のことクズ呼ばわりしてくるけど、雪菜達はそんな俺と話したいみたいだからなー!いやー、俺みたいなドクズでも笑顔で呼ばれるくらい必要とされてるってマジつれぇわー!アッハッハー!」
「葛原、和真ァッ…!」
フッ、そんな血走った目で見られても怖くないぜ伊集院。
なんせ俺には、アイドル様がついてるんだからな。財閥令嬢からの殺気なんて、むしろ心地いいくらいだ。
上流階級に上り詰めた感があるからな。気分はちょっとした成り上がりだ。
アイドルである幼馴染達に求められる俺とは違い、単なるファンでしかないクラスメイト達の嫉妬にまみれた視線を浴びながら、意気揚々と彼女達のもとへ向かうのだった。
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