なんか皆さんキレてらっしゃる
『は?』
「お、サンキュー!助かるわ!アリサさん、マジ愛してる!」
「ちょ、ちょっと!なに言ってるのよ、皆見てるじゃない!そんなこと、気軽に言われても嬉しくなんかないんだからねっ!」
『え、あ、は?』
「周りのことなんて気にすんなよ。アリサは俺のことを考えて怒ってくれたんだろ?ちゃんと分かってるよ。いつもありがとな。本当に感謝してるよ、アリサ」
「……わかったならいいけど。私だって別に鬼じゃないし、和真がちゃんとしてくれるなら、私は…」
『は???』
「大丈夫だって。反省してるし、感謝してる。このお金は大切に使わせてもらうよ………なるべくだけど。多分」
「そうしてよね。私じゃなく、いつも雪菜ばっかりに泣きつくんだから……バカ和真」
『は??????』
「なんだ、気にしてたのか?そりゃ雪菜も大事だけど…なぁアリサ。お前だって、俺にとっては、すごく大切な幼馴染だよ。お前がいてくれて、本当に良かったと思ってるんだからな?」
「〜~〜~〜!べ、別にそういうわけじゃないわよ!ただ…そう言ってくれるのは、その、嬉しい、かも…」
『は?????????』
「何度だって言うさ。アリサは、俺にとって本当に大切な金…幼馴染だ。これからも、ずっと俺のそばにいてほしい。そして、俺を養ってくれないかな?」
「………もぅ、この馬鹿。雪菜だけだと不安だし、仕方なく。仕方なくなんだからね!誤解してもらったら困るんだから!」
『は????????????』
「…………しちゃ、ダメなのか?」
「え…………」
「アリサ…」
「和真…」
「ちょ、ちょっとタンマァッ!!??」
いい感じの空気を出しつつ見つめ合う俺とアリサの間に割って入ったのは、猫宮だった。
ちっ、邪魔しおってからに。お邪魔虫め。
「な、なによ、たまき。今いいところだったのに…」
「なにやってんのアリサ!?いや、ほんとになにやってんの!?」
あーあ、やっぱ人がいるとこで好感度なんて稼ごうとするもんじゃないな。
それはそれとして、クラスの視線は俺から外れ、女子ふたりへと集中した。
今がチャンスだろう。この間にこっそりと、俺は封筒の中身を確認する。
「え、なにって…言われた通り、ちゃんと和真のことを叱ったじゃない。和真も反省したみたいだし、ご褒美にお小遣いあげただけだけど…」
「叱ったところまでは良かったよ!?確かにそこは頼んだ通りだったしありがとうだけど、でもなんでその後の流れでお小遣いなんてあげるの!!??訳分かんないんだけど!!??」
ひーふーみーっと…おお、結構あるな!
さすがアリサ。雪菜と違って小遣いくれるときに小言を言ってくるのが面倒だが、その分一回に渡してくれる金額は雪菜以上に奮発してくれるから、そこは嬉しいポイントだ。
アリサにも言ったが、減った分大事に扱わないといかんしな。
月末のガチャ代は、それこそ別枠で取っておかねばなるまいて。
「だって、さっきの話聞く限り、和真がお金ないのはほんとみたいだもの。放っておいたらどうせ雪菜に泣きつくんだし、それならちゃんとお説教して悪いことをしてることを分からせてから、私がお金をあげれば全部丸く収まるじゃない」
「収まらないよ!?全然全く収まってないし!?最後の方明らかに言ってることおかしいよ!!?」
こういう時、面倒をみてくれる幼馴染がいてくれて良かったとつくづく思う。
やっぱ俺って勝ち組だわ。ウッヒョーイな人生は、確実に我が手中に収まっていること間違いなし!
そう思っていた時のことだった。
「葛原和馬ァッ!!!!!」
「んあ?」
名前を呼ばれたので顔をあげると、目の前に般若のような形相をした伊集院が立っていた。
「なんだ伊集院。怖い顔をして」
「なんだもなにもありませんわよ!!!それこそなんですか貴方という人は!!!和馬様はセツナ様だけでなく、アリサ様まで誑かしていたというのですか!!??この鬼畜!!!人でなし!!!ドクズ野郎がァッ!!!!!」
とてもお嬢様とは思えぬ粗野な言葉遣いで俺を罵る伊集院。
ただでさえ金髪ドリルという派手な髪型をしてるのに、顔をゆでダコのように真っ赤にしてると威圧感が半端ない。
「どぅどぅどぅ、落ち着け落ち着け伊集院」
「これが落ち着いていられますか!!??ダメンズ崩壊の危機を目の当たりにしているんですわよ!!!大抵のスキャンダルなら伊集院家の力で揉み消すつもりでしたが、もうセツナ様とアリサ様の両名に既に手を出していたなどと…!悔やんでも、悔やみ切れません…!この伊集院麗華、痛恨の極みですわ!!!」
「は?いや、俺は別に雪菜達に手なんて出してないんだが…」
「黙らっしゃい!クズは皆そう言って、自分の罪状を誤魔化そうとするんですの!!!我が最推しにして運命のアイドルが、男に食い物にされるところを黙ってみているなど、伊集院家の名が廃ります!!!」
「私としてはアイドルのために伊集院家を私物化してる時点で、とっくに廃れまくってると思うんですけどね」
「ええい、黙らっしゃい!!!それはそれ、これはこれですのよ!!!」
メイドさんのキツいツッコミが入るも、伊集院は露骨に開き直っていた。
即座に割り切れる姿勢は見習いたいところがあるが…ん?
「…………」
なんだ。今一瞬、メイドさんが俺のことをチラリと見てきたような。気のせいか?
「アリサ!目を覚まして!幼馴染だからって、お金なんてあげる必要ないんだよ!?それじゃ貢ぐ女じゃん!クズ原くんに言いように利用されて、食いモノにされるのがオチなんだから!」
「でも、私がいないと、和馬は絶対ダメ人間になっちゃうのよ?雪菜は雪菜でアイドルになって和真を養うお金を稼ぐって、言うことを聞いてくれないし。なら、せめて雪菜の負担を減らしてあげるよう、私からも和真にお金をあげるのは、当たり前じゃない?」
「当たり前じゃないよ!それ完全に共依存の考え方だよ!?最終的にアリサも含めて全員ダメになるヤツじゃん!?」
「そんなことないわよ。私がしっかりしていればいいだけの話なんだから。雪菜はともかく、私の目が黒いうちは、和真をダメになんてしないんだからね!」
「なんで!?会話出来てるのに、話がまるで通じない!?」
俺が気を取られているうちに、向こうは向こうでなにやら盛り上がっているようだ。
アリサと話していた猫宮の顔が、まるで幽霊でも見たかのように青白く染まっているのは気にかかるが、もう予鈴がなるし、それでこの場もひとまず収まるはず…
「クズ原ァッ!アンタ、アリサになにしたのさぁっ!?」
げっ。飛び火してきやがった。
仕方ない。ここは一旦教室の外に退避を…
ガラリ
「み、皆ー。こっちに見たことない子来てない?今日も転校生が来るって朝いきなり言われて、先生準備でてんてこ舞いだったんだけど、職員室で待ってても全然来ないのぉ。なんで私こんな目にばっかり会うのよぉ~」
ぐっ!前のドアからユキちゃんが!
あれじゃ強行突破は無理だ。ユキちゃんは涙目だし、昨日の今日でまたドアに顔面強打させるのは、いくら俺でもさすがにできん。
「待ちなさい葛原和馬ァッ!!!どこに行くつもりですの!?」
げ。伊集院まできやがった。仕方ない。後ろのドアから脱出だ!強行突破あるのみよ!
俺は教室を横切るように駆け抜ける。その時。
ガラリ
「いやー、参った参った。ダメンズのライブが良すぎてドカ食いしたら、お腹壊しちゃってずっと寝てたよ。まだちょっとお腹痛いけど、皆おはよ…」
「すまん、後藤くん!」
タイミング悪く教室に顔をのぞかせた後藤くんの体を強引に横へと押し出して、俺は外へと脱出した。その際、手がとても柔らかいところを押したような気がしたが、それに構っている余裕はない。
『逃げるなああああああああ!!!!!』
「ほ、ほおおおおおおおおおお!!!ぼ、僕のお腹があああああああ!!!!ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ご、後藤!?」「大丈夫か、しっかりしろ!?」「漏らすんじゃねーぞ!ふんばれ!」「いや、それは出るだろ!?我慢だ我慢!」「くそっ、あのクズ野郎!許さねぇぞクズ原ぁっ!」「うわぁカオスだぁ…ボク、ドンビッキ…」「あ、先生ですか。本日より転校してきました一之瀬姫乃です。どうぞよろしくお願いいたします」「え、え、ええ?メイドさんがなんでここに!?ダメンズのふたりといい伊集院さんといい、うちのクラスどうなってるのよぅ!私もう教師やめたーい!」
「俺は自由だあああああああああああああああああ!!!!!」
背後から聞こえてくる様々な声を無視し、俺は自由を求めて朝の廊下を駆け抜けるのだった。
「こら、廊下を走らないの。遅刻扱いになるし、教室に戻るわよ」
「あい…」
なおあっさりアリサに捕まって、引きずられながら教室に戻ることになった模様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます