そうはならんやろ
「えっと、これどういう状況なの?」
誰もが困惑した状況の中、疑問を口にしたのはアリサだった。
「転校生がメイド服着てることにもまずツッコミたいんだけど、他にも知らない子がいるし。私が仕事で休んでいる間に、一体なにが…」「それは私が説明致しますわ!」
現状を把握しきれておらず戸惑うアリサの前にサッと割り込んできたのは、何を隠そう伊集院だ。
混乱の元凶であるというのに憧れのアイドルと話せる好機と見て、すかさず動ける行動力は素直に凄いと思う。
「私の名は伊集院麗華!『ディメンション・スターズ!』ファンクラブNo.007にして「ダメンズのストーカーだ。特に雪菜にご執心らしくて、個人情報調べて昨日転校してきたんだとさ。財閥パワーがなければただの犯罪者だな」って貴方!アリサ様の前で、なに言ってますの!?」
が、さすがにややこしくなりそうなんで、俺も話に割り込ませてもらった。アリサに変なこと吹き込まれても困るからな。
伊集院は驚愕の眼で俺を見るが、言ってることは事実で間違いないのだ。
アリサとメイドさんを除くここにいる全員が、俺の発言が正しいと証明してくれるだろう。理は完全にこちらにある。
「え、ストーカー?それは困るんだけど…てか派手ねこの子。これでストーカとか出来るの?」
「アリサ様!信じないで下さいませ!私は純粋に貴女方をお慕いしてここに来たのです!決してやましい気持ちなど一切ございません!ええ、ありませんとも!」
「あ、お嬢様が言ってることはウソですから。仲良くなって修学旅行あたりで同衾出来れば最高ですわねウヒヒヒと、この前寝言で言っていました。普通にやましい気持ちは多々あると思いますので、警戒していたほうがよろしいかと」
「姫乃!?なんでそれを今言いますの!?」
「いや、さすがに雇い主がガチの犯罪者になられると私も困りますし。ぶっちゃけ自分のための忠告なので、お嬢様はお気になさらず」
「貴女は私のことをなんだと思ってますの!!??」
メイドさんは大人しそうな容姿に見合わず辛辣だった。
てか伊集院さん。メイドさんにも普通に裏切られてますやん。
さてはコイツ、人望はあまりないな?まぁ言動からして、なんとなく分かるけどさ。
従者に食って掛かってる隙に、金髪ドリルお嬢様から距離を取ると、隣で同じ行動を取っていたアリサと目が合った。
「はぁ…なんかこう、凄いことになってるわね…」
「それには全くもって同意する」
呆れるアリサに頷きを返し、俺は改めて教室を見回した。
皆完全に固まってるし、中には上の空で天井を見上げているやつまでいる始末だ。
おそらく思考を放棄しているんだろう。気持ちがわかるためなにも言わんが、そんなんでこれから先やっていけるんだろうかと、余計な気を回しそうになる。
「あ、あの、アリサ。ちょっといい?」
そんな中、猫宮がアリサの腕を遠慮がちにつついていた。
「ん?どうしたのたまき?」
「さっきの話の続きなんだけど、葛原くんに言ってあげてよ。雪菜からお金を貰ったりするなって。このままだと有耶無耶になっちゃいそうだし、今のうちにアリサからビシッと言って欲しいんだけど…」
そう言って俺を見てくる猫宮。どうやらさっきのことを忘れてなかったらしい。
未だ転校生コンビが言い争いをしているなかで話を蒸し返してくるとは、中々に肝が太いようだ。
アリサは一瞬ハッとしたような顔をすると、改めて俺へと顔を向けてくる。
「そうね。私からも言いたいことあったし…ねぇ和真、アンタ雪菜からお金貰ってるけど、なにに使ってるの?」
「なにって…わざわざ言う必要あるのか?そんなの個人の自由だろ。そもそもが同意の上で貰ってるんだからさ」
「いいから答えなさい。私の言うことが聞けないの?」
キッと俺を睨んでくるアリサ。
…むぅ、参った。俺はこの目に弱い。
親に怒られても大して気にしないのだが、アリサに怒られることに関してはどうにも苦手だった。
仕方なく、言われた通りに白状するが、内容的にはそんな大したもんでもない。
「いや、そう言われても。ソシャゲに課金したりガチャ回したり、Vtuberにスパチャ投げたり、ゲーム買い漁ったりとかしてるだけなんだが。後は適当に高いホテルに泊まってみたり、美味いもん食いまくってるくらいだな。この前は回らない寿司屋とか行ってみたが、なかなか悪くなかったぞ。将来的には1日貸し切りでコスプレバニー喫茶とかやってみたさはあるな」
「うわあ…」
おい、やめろ猫宮。俺をそんな目で見るな。
別に高級外車買ったり女の子と遊び回ってるわけでもないんだし、一般的な男子高校生としてはかなり健全な使い方をしてる方だと思うぞ。
なんであからさまにドン引きして、後ずさりまでしてるんだ。
「やっぱりロクな使い方してないじゃない。どうせ貰ったそばから全部使っちゃってるんでしょ?」
「あ、分かるか?昨日は新作ゲーム買って徹夜してたんだが、推しのVtuberが配信もしててさ。適当にスパチャぶん投げてたら、金結構トンでたんだわ」
「クズじゃん。やってること、めっちゃクズじゃん。お金貰ってやることがそれとか、ヒモ以下のガチクズじゃん」
失敬な。
俺は人気のないVtuberに金を恵んでやってる聖人だぞ。
クズとか言われる筋合いはないし、むしろ褒められて然るべきだと思うんだが。
「まぁそんなわけで、もう金あんまないんだよな」
「ハァ…アンタって、ほんとどうしようもないやつね…その様子じゃ、どうせ雪菜にお金の催促するつもりだったんでしょ」
「あ、わかる?」
「分かるわよ。何年の付き合いだと思ってるの。バカ和真」
俺の説明を聞き、ため息をつくアリサ。
なにやってんだコイツとでも言いたげだ。
「アンタね、そんなんじゃダメでしょ。おばさん達も嘆いてたわよ。育て方間違ったって。雪菜がいい子なのをいいことに、お金貰って散財しまくるとか、少しは反省しなさい!」
「そう!その通り!いいよ、アリサ!もっと言ってあげて!」
アリサの言い分に賛同する猫宮。いや、猫宮だけじゃなく、教室のあちこちから「そうだそうだ」という声が聞こえてくる。
「流石ですわアリサ様!私達が言えないことを平然と言ってのけるその姿!そこにシビれますし憧れますわ!あぁ、やはりアリサ様も推せる!!!」
「お嬢様、ほんと節操ありませんね」
さっきまで会話劇を繰り広げていた転校生主従も、いつの間にか大きく頷きながらこっちを見ている始末だ。雪菜がいればまた別だったのだろうが、現在この教室には、俺の味方をする者は誰も存在なかった。
「むぅ…」
「全く、本当にしょうがないやつなんだから…」
針のむしろの気分になってしゅんと落ち込む俺に、アリサは呆れた目を向ける。
そんな俺に厳しい幼馴染は、制服のポケットに手を入れると、
「ほら、私からもお小遣い。もうこれ以上雪菜に迷惑かけたり、無駄遣いなんてしちゃダメなんだからね!」
顔を赤らめながら、厚みのある封筒を手渡してくれるのだった。
やったぜ!
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