まるで修学旅行の前夜




 あのお風呂場事件から数日。

 世間でいう花金と呼ばれるであろう時間帯。俺は机に向かい、とある雑誌に目を通していた。


 なるほど、熱を感じてる時は冷やすのが一番。硬さを感じるなら温めるか。

 その内容は、ケガに対する対処方法。読み始めの部分は、余りにも初歩的だとは思うけど、予習も兼ねて読み飛ばそうとは思わない。ましてや、予防を第一にテニスを再び始めた俺にとっては、その全てが大事な知識の1部だ。


 さすが専門家が持ってる本だ。図もあって、非常に分かりやすい。今日、何気なく話して良かったな。


『あの詩乃先生? 俺も今後のケアの仕方とか学びたいんで、何か良い本とかないですかね?』

『怪我……ちょっと待って? そっち方面なら希乃姉の方が詳しいから、漁ってくる』


 居ない所を漁るのはどうかと思うけど……まぁ結果オーライだと思いたい。それにいつもと違う金曜日に、詩乃先生が居た事が奇跡だけどな。


 そう、いつも合法ロリ巨乳シスターズの所へ診察に行くのは土曜日。ただ、明日明後日と用事が出来た為、急遽連絡をしたんだ。そんな時、運良く詩乃先生が居てくれたって訳。


 診察の結果も問題なし。

 これで心置きなく、1週間を……


「お兄ちゃん~! ちょっといい?」


 なんて安堵に包まれていた時だった、ドアの方から聞こえる声。

 ん? この声美世ちゃんか? てっきり明日の準備してると思ってたけど。


「いいぞー」

「失礼します!」


 部屋に入ってきた美世ちゃん。するとその手には2つの服。


「ねぇ! 明日の服装、どっちがいいかな? フレアスカートとギャザースカート」


 いやいや、女の服装を俺に聞くのが間違ってるだろ? 美由に聞いた方が確かじゃないか?」


「それを俺に聞くのか?」

「うん。そだよー!」


「いや、まったく自分の感性に自信がないのだが?」

「良いって! 直感直感」


 ……はぁ。明日楽しみだからって、そんな決め方で良いのか? 俺は知らないぞ?


「じゃあ、左のフレアスカート」

「フレアね? 了解!」


 バタン


 ……はぁ。そりゃ俺も楽しみだけどさ。

 いつも以上にテンションが高い美世ちゃん。もちろんそれには、お友達の家にお泊りという理由があった。

 しかも、その家というのが……


「まぁ、テンション高くなるのも無理ないか。しかも烏真さんの家だもんな」


 そう、烏真さんの家。巷の噂と、その風貌からお嬢様の異名を持つ烏真さん。しかし、実際にそのお家へ行った人は居ないらしい。

 そんなお家へ招待されたとなると、自然とあぁなるもんだろう。


 かくいう俺も、なぜかお誘いを受けた選ばれし者の一員だ。美世ちゃんと美由は分かるけど、なぜ俺も? なんて思ったよ。最初は女子会楽しめよ~なんて格好つけたさ。


 でも、烏真さんが是非って言うもんだから……仕方なく俺も行く事になった。

 正直、めちゃくちゃ嬉しいけど!


「あの~空? 顔気持ち悪いよ?」

「って! うおっ! なんだ美由か!」


 なんて考えていると、目の前にはいつの間にか美由が立っていた。どうやら色々な感情が顔に出ていたらしいけど……俺はなんとか誤魔化す事にした。


 こっ、ここは誤魔化せ。そうだ、その両手に持った服っ!


「えっと、まさか美由も服どっちが良いとか聞きに来たのか?」

「えっ!? 分かる? てか、美由もって……」


「さっき、美世ちゃんがスカート持って来たんだ」

「なんだ。美世も考える事一緒か。て事は、話が早い。この上着なんだけど、ジャケットとカーディガンどっちがいいかな? ちなみに中にはカットソーの予定なんだけど」


「あぁ~だからさ? 俺にファッションセンスあると思うか? しかも女子の」

「良いの! 直感直感」


 ……マジで美世ちゃんと一緒か。流石姉妹だけど……知らないぞ?


「じゃあ、カーディガンだな」

「カーディガンね? 了解!」


 バタン


 帰る速度も一緒かよっ!

 ったく……美由も美由でテンション高いな。まぁ単純に女子会が楽しみなんだろうな。俺の邪な感情とは違うだろう。


 ガチャ


「お兄ちゃん~!」


 って、ノックもなしかよ!

 さっきの声掛けはどこへやら。ノックもなしにドアを開け、部屋に入ってきたのはまたもや美世ちゃんだった。


「うおっ! みっ、美世ちゃん!? って!」


 しかも、それだけならまだマシだった。またしても両手に持つそのシロモノが目に入るまでは!


「どっちのブラ良いかなぁ~?」


 その手には、青と黄色のブラジャー。しかも、ごく当たり前の様に聞いてくる美世ちゃんに水着か何かと見間違えたかと思った。けど、それは紛れもなく……ブラジャーで間違いない。


「なっ! 何見せてんのっ!」


 思わず手で目を隠す俺。けど、当の美世ちゃんはなんて事ない雰囲気で、


「えぇ? 良いじゃん。それともブラジャー興味ないの~? ひどーいっ!」


 本心かわざとか分からない言葉を口にする。


「興味ない訳じゃないけど、下着を俺に聞くのは確実におかしいだろ?」

「そう? お兄ちゃんの好みに合わせたいって思ったのに?」


「なっ、なんで俺の好みなんだよ」

「いつ見られても良いようにっ!」


 なっ、なぁ美世ちゃん? その発言、一般的な男子高校生なら発狂物だぞ? けど……やっぱなんか違うでしょ?


「なっ! てか、今見てるし!」

「今はちゃんと付けてないでしょ~? ほらぁ、どっちの色とデザインが好み?」


 あぁ……こうなったら、俺が選ぶまで籠城する気だ。ここはさっさと選んだ方が良いな。


「右手の黄色! それが良い!」

「黄色ね? 了解!」


 バタン


 ……はぁ、びっくりした。まさかブラジャー持ってくるとは。にしても。やっぱブラの大きさ自体デカかったな……って、何感心してるんだよ俺。

 てか、そろそろ俺も準備……


 ガチャ


「空~!」


 って、またノックもなしか! 

 さっきから程なく、またもやいきなりドアが開かれる。俺は焦りながらも視線を向けると、部屋に入ってきたのは美由だった。


「うおっ! みっ、美由!? って!」


 しかも、それだけならまだマシだった。デジャブの様な、両手に持つそのシロモノが目に入るまでは!


「どっちのパンツ良いかなぁ~?」


 その手には、ピンクと水色のパンツ。しかも、ごく当たり前の様に聞いてくる美由に水着か何かかと見間違えたかと思った。けど、それは紛れもなく……パンツで間違いない。


「なっ! 何普通に持って来てるんだよっ!」


 またもや思わず手で目を隠す俺。けど、当の美由はなんて事ない雰囲気で、


「えぇ? 良いじゃん。それともパンツ興味ない? やっぱり裸の方が……」


 本心かわざとか分からない言葉を口にする。


「なっ、何言ってんだよ! 興味ない訳じゃないけど、やっぱり下着を俺に聞くのは確実におかしいだろ?」

「そう? てかやっぱりって……」


「さっき美世ちゃんも来たんだよ! ブラジャー持ってな!」

「なるほど。やるなぁ美世!」


 なんで? そこは変だって思う場面じゃね? いや、自分も同じ事してるもんな。本心で思ってる? ……有り得る! この姉妹なら有り得る!


「なっ、大体、なんで俺の好みなんだよ」

「いつ見られても……脱がされても良いようにっ! きゃっ」


 なっ、なぁ美由? その発言、一般的な男子高校生ならリミッターが外れる発言だぞ? けど……やっぱなんか違うでしょ?


「なっ! てか、今見てるし!」

「ちゃんと穿いてないでしょ~? ほらぁ、どっちの色とデザインが興奮する?」


 ぐっ、あの妹にこの姉ありか。あぁ……こうなったら、俺が選ぶまで絶対籠城する気だ。なら、ここはさっきと同様、さっさと選んだ方が良いな。


「左手のピンク! それが良い!」

「ピンクね? 了解!」


 バタン


「ふぅ」


 あぁ、なんだろう。一気に疲れたんだけど。いくら何でも、下着を俺に選ばせるのは……


 ガチャ


「お兄ちゃん~」

「空~」


 こっ、今度はなんだ……っ!!!


「選んでくれた下着着てみたけど……」

「どう? 似合うかな?」

「なっ、何してんだよ! 2人共~!」


 2人揃って、下着姿で……平然と部屋にないって来るなよぉ!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る