想像通り? いや、ある意味違う!
晴れ渡る空。
自然豊かな木々の数。
そんな中俺達は、電車から1歩踏み出した先で立ち尽くしていた。
≪皆様、本日は烏山忍者村へようこそ。にんにん≫
「うおっ、何あの建物?」
「VR体験悪代官の悪事を暴けZ! だってよ!」
交差する大勢の人の声。
「お父さん早く行こうよー」
「はいはい」
「宵谷観光ツアーの皆さーん。付いて来て下さいねー」
その全てが、想像とは違っていた。
……あれ? 俺達、烏真さんの家に向かってたんだよな?
恵まれた天候の中、確かに俺達は烏真さんの家に向かっていた。
車じゃないなら、バスより電車の方が断然速いという烏真さんの話を受け、電車に乗り込んだ3人。烏真さんの家に行けるとあって、2人のテンションは高い。俺だって、結構ノリノリだったよ。
以前、車で烏真さんを送った美由、美世ちゃんの話だと、結構な山の付近まで乗せて行ったという話で……ちょっと山間に家があるんだと思っていたよ。
そんな2人の話通り、徐々に周りの景色は自然豊かなものに変わりつつあった。
だが……不思議と、乗客の数は減る様子を見せず、むしろ多くなっている気がしたんだ。
まぁ、だからと言って特に気になった訳じゃない。話の話題は尽きず、あっという間に、烏真さんの言っていた家の最寄り駅、
しかし、電車から出た瞬間……その異変は一気に押し寄せた。
駅に施された内装。
大きな看板。
音楽にアナウンス。
目の前に広がるのは、それこそどこかのテーマパークへ来たかの様な光景だった。
「なっ、なぁ……美世ちゃん。本当にここで良いんだよな?」
「うっ、うん。一華ちゃんが言ってた。烏山って駅で降りると良いよって」
「なっ、なぁ……美由。前に車で送った時もここで下ろしたんだよな?」
「えっと、周りが暗いから結構山の方だとは思ってた。でも、下ろした場所はこんなに賑わってなかったよ……」
とはいえ……これじゃあ俺達も遊びに来た感じになって無いか?
烏山忍者村。
東京の奥豊にある体験型テーマパークで、リアル過ぎるアトラクションと日本古来の忍者に焦点を当てた園内は、完成から数十年経つ今でも人気に陰りが見られない。
いや、何となく忍者村に行く方向だとは思っていたよ? けど、過去に来た時は車だったし、忍者村着の電車が止まる駅なんて分からなかった。
まさかだとは思ったけど……まさかこの烏山駅だとは。
それに、2人が共謀して俺を騙そうとしているのかとも思ったけど、隣の様子を見る限り、知らなかったという表情を浮かべてる。
とすれば、3人共同じ心境か?
「なぁ……本当にここで良いんだよな? ここって一般的に、烏山忍者村へ行く人の為の駅だよな」
「私も電車で来た事無かったから、分からなかった」
「みっ、美世も一華ちゃんに言われたから降りただけで……って、一華ちゃんからメッセージ来た」
正直驚いた。けど、駅出たら一般道もあって……その先に家があるのかもしれないな?
「駅まで迎えに来てくれたって! とりあえず出よっ」
一華ちゃんのメッセージをみた美世ちゃんはそう言うと、駅の出口を指差す。
とりあえず、駅から出ない事には何も始まらない。俺と美由も、美世ちゃんに続く形で……駅の出口へと歩いて行った。
……っと、目の前に忍者村じゃねぇか!
こうして、烏山駅から外に出た俺達。すると目の前には、でかでかと烏山忍者村が姿を現す。
人の多さと、その大きさは……やはり圧巻で、その存在感に圧倒されて居る時だった。
「みなさ~ん」
徐々に大きくなる、聞き覚えのある声。
俺達3人が一斉に視線を向けると、
「お待ちしてました~」
手を振りながら、烏真さんが走って来る。
私服だろうか。ロングスカートにTシャツという新鮮な姿。ただ、それでも何処かお嬢様な雰囲気は健在だ。
「一華ちゃ~ん!」
「こんにちわ。招待してくれてありがとうね?」
「全然です! トラブル等もなさそうで、安心しました」
トラブル以前に、色々と聞きたい事があるんだよなぁ。
「ささっ、立ち話もあれですし……さっそくご案内しますね?」
「ご案内って、ここ烏山忍者村の最寄り駅だよね? 一華ちゃんの家って近くなの?」
「はい。すぐ近くです! 付いて来て下さいね?」
烏真さんはそう言うと、くるりと体の向きを変えて歩き出す。
俺達も、とりあえずその後について行くことにした。
近いって……徒歩で行ける距離なら、忍者村行き放題じゃないか? それに、ここから京南駅まで電車で30分だし……通学もそれほど苦になる距離じゃないもんな。
「こっちでーす」
なんて、若干の羨ましさを感じながら歩いていると……流石の俺達も違和感を覚える。てっきり駅と忍者村に間を通る、道路を歩いて行くものだと思っていたのに……烏真さんの行く方向は忍者村の入り口だ。
それも真っすぐ、迷いも無く。
「あれ? 烏真さん? こっちは忍者村じゃ……」
「まぁまぁ。こっちの方が早いんですよ」
早い? その言葉を不審に思ったのは俺だけではない様だ。何気なく2人の顔を見て見ると、まさしく俺と同じような表情をしている。
ん? てっきり遊んでから行くのかと思ったけど、それだと早いの意味が分からないな?
「美世ちゃん?」
「美世?」
「美世も分からないよ~」
そんな俺達の小声のやり取りなんて何のその。烏真さんに連れられ、ついにはチケット売り場まで来てしまった。
おっ、おい……チケット売り場まで来たけど……
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「はい。カラス4名で」
えっ? カラス? 何言ってんの烏真さん。
「……」
ほら! 売り場のお姉さん、笑顔のまま固まってんじゃん!
「……何名様ですか?」
「カラス4名で」
大丈夫? 警備員呼ばれたりしない?
「……かしこまりました。こちらから中にお入りください」
「ありがとうございます。3人共、こっちですよ」
えっ、良いの? てか、色々と疑問がありまくりなんですけど……まず、そっち本来の入り口とは違う所じゃない? このロープまたいでいいの? てか、烏真さん早いって行くのが!
「なっ、なぁ……ここって普通の入り口とは違うよな?」
「なんか、関係者専用って感じ」
「鋭いですね、美由さん」
えっ? そうなの? なるほど……って! ちょい待ち! そんな場所に俺達は行っても良いの!?
「よいしょっと、じゃあこの壁に背を向けて立ってくださーい」
「かっ、壁?」
「一華ちゃん?
「これは……もしかして」
忍者村、壁ときたら……考えつくのは1つなんですけど?
「そんなに勢いはないですけど……回るので気を付けて下さいね?」
「「「えっ?」」」」
その瞬間、一気に視線が回り出したかと思うと……一瞬にして目の前の光景が変わった。
やっぱ……りー! 回ったぁ! 隠し扉じゃねえか。
「オッケーです」
「びっくりしたぁ」
「すっ、すごい! これが本物の隠し扉!」
「マジであるのかよ」
本当に有るんだな……隠し扉って。すげぇや。
「ふふっ。楽しんでもらえて良かったです。ここからが、私の家がある村なんですよ?」
ん? ここが村? いや、どう見ても忍者村の隣じゃない?
「まぁ何もないですけど、一生懸命ご案内しますので、ゆっくりして行って下さいね?」
えっと、あの烏真さん? 言いたい事も聞きたい事も知りたい事もあるんですけど、とりあえず……
「ようこそっ! 烏山村へ」
やっぱ只者じゃないでしょ! あなたっ!!
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