屋上デスマッチ
「まさか空っちに屋上へ連れてかれるなんて。積極的な後輩に戸惑う先輩。そして行き先は誰も居ない屋上……う~ん! 有りっ」
「三葉、妄想し過ぎじゃない? 不細工な顔になってるよ」
「屋上だって! 中学では立ち入り禁止だからわくわくっ」
「いっ、いいのかな?」
「それより空くん? わざわざ屋上行く事無いんじゃないの?」
後ろから何やら女性陣達の騒ぐ声が聞こえて来る。しかしながら、今は黙ってもらいたい。
教室におけるまさかの集合劇。
偶然とはいえ、あの教室の雰囲気には耐えられる気がしない。
そもそも、当の本人達が何も気にしていないというのが一番厄介だ。
となれば、誰の目にも付きにくい屋上がベスト。それが俺なりに考えた末の答えだった。
ガチャ
少し急ぎ足になりながらも、俺は屋上へのドアを力強く空ける。そして真ん中辺りにまで足を進めると、意を決して振り返った。
ふぅ。とりあえず、ここまで来たら一安心だ。とりあえず各々の要件から聞いて行こう。色々言いたい事はあるけど、それは後からでもいい。
「ふぅ。屋上まで来てもらってごめん。けど、あのままだと教室が大変になりそうだったからさ。ここなら大丈夫だと思う。まず誰の……」
こうして思い切って、言葉を発した時だった。俺の目の前に広がった光景は……
「それにしても久しぶりー! 美世ちゃん。あれ? 隣の子って……烏真さん?」
「お久しぶりです! 九条先輩。そうですよ? 親友の一華ちゃんです」
「はっ、初めまして! って、私の事知ってるんですか?」
「この前のヨガどうだった? 美由ちゃん」
「なんか前より体が柔らかくなった気がします!」
180℃、自分の想像したものではなかった。
……はっ?
まさに……女子会。
「後輩にお嬢様っぽい子が居るって噂になってたんだよね。だから名前だけは知ってたんだよ? けど……実際見たら本当にお嬢様って感じだね」
「そっ、そんな事ないです。私も、九条先輩の事は存じてました。テニス大会など新聞で拝見してましたし、校内でも特に女子生徒から人気ですし」
「マジ? なんか嬉しいな」
「いやいや、九条先輩の人気は中学まで浸透してますからね。あと、やっぱり一華ちゃんは清楚ですよね。逆に、なんでもっと男子達が群がらならいの不思議です」
「ちょっと美世ちゃん?」
えっと、九条先輩? 美世ちゃん? 烏真さん?
「逆にお清楚お嬢様オーラが出過ぎて、近付き辛いんじゃないかな?」
「そっ、そんなオーラ出してませんよぉ」
「あぁ! それ分かる気しますっ!」
「でしょでしょ。 それで? 可愛い美世ちゃんと一華お嬢様は、なんで高校の校舎に?」
「おっ、お嬢様じゃ……あの、天女目先輩に借りたジャージを返したいと思ってたんですけど……」
「ほら、お兄ちゃん今自主練してるじゃないですか。その話したら邪魔出来ない~って一華ちゃん気を遣っちゃって。じゃあいっその事昼休みに届けに行こうって思って」
俺に用事あったんだよな? なんか目的の人が蚊帳の外なんですけど……
「それでわざわざ、しかも高校の校舎に? 見た目とは裏腹になかなかの行動力! そしてそれに着いてくる勇気。なんかますます気に入っちゃったよ」
「そっ、そんな私勇気なんて……でも、九条先輩にそう仰っていただいて嬉しいです」
「へへっ、ありがとうございまーす」
「あれ? そう言えば九条先輩はどうして教室に?」
「確かに、私達の様に何かご用事があったのでは……」
「えっ? あぁ、空がテニスの練習再開したって聞いてさ? グリップテープとか余ってるから使うかなって持って来たんだよ」
「そうなんですね! 先輩優しいぃ」
「気さくで気遣いも出来る……慕われている理由が分かります」
「なっ……なんて可愛いの? ねぇ2人共、本当に可愛いっ!
いやその……まぁ、うん。先輩後輩の交流を深めて下さい。
じゃあ美由達だ。教室来たって事は、俺に何か用事があったんだろ?
「それにしても、三葉先輩足長すぎません? 本当に羨ましいんですけど」
「何言ってんの? 私は美由ちゃんの体の柔らかさが羨ましいよ」
「それは努力でなんとでもなりますよ? けど、足の長さまでは努力じゃ無理ですよー」
「そんな事言ったら、私のペチャパイだって努力じゃどうにもならないよっ!」
「何言ってるんですか! ハリ、形全てが黄金比じゃないですか!」
「ほっ、本当? ふふっ。けど、美由ちゃんのには負けるよ? マシュマロの様な柔らかさに、ピン……」
「せっ、先輩!? あの先輩だって綺麗な桜色でしたよ?」
「なっ……はは。なんか言われると恥ずかしいね」
美由? 桐生院先輩?
「それにしても、あ八曲がりのポーズ難しくないですか?」
「分かる! 最初は全然できなかったな」
「いや、流石経験者は違いますね」
「あれも慣れみたいなところがあるからね? 元が体柔らかいし、こなしていけば簡単にできると思うよ?」
「本当ですか? なんかやる気出てきました!」
「その意気その意気~!」
用事……あったんですよね? なんかヨガの話で盛り上がってますけど……
「あっ、そういえば三葉先輩はどうして空くんの教室に? 何か用事があったんじゃ……」
「えっ? あぁ、空っちと言うか美由ちゃんに用事あったんだよね」
えっ? 俺に用があったんじゃないんですか? 桐生院先輩。
「私ですか?」
「うん! 空っちのクラスは前に話してて分かってたんだけど、美由ちゃんのクラス分からなくてさ? 教えてもらおうと思って」
「そうだったんですか? それで、私に用って……」
「そうそう。ヨガ仲間って事で……はいっ、これ!」
「えっ? なんですか……って、これ! ヨガマットとかヨガウェアじゃないですか!?」
「同年代でヨガ仲間が出来たのが嬉しくてさ。可愛い後輩ちゃんにプレゼント」
「うっ、嬉しいです! しかも何でサイズまで知ってるんですか!?」
「この前ご褒美がてらいっぱい揉ませてもらったからね? サイズはインプット済みよっ」
「どんな特技ですかっ! けど、良いんですか? 本当に嬉しいです。ありがとうございます」
「どういたしまして。あれ? でも、美由ちゃんも空っちの教室いたよね? 何か用事あったんじゃないの?」
「いや、私も……先輩のクラス知りたくて。空くんなら知ってるかなって思ったんですよ」
「えっ? 私のクラス?」
えっ? 美由まで? ……この2人に関してはもはや目的は俺じゃない感じですか?
「はいっ。あの、正式に月城さんのヨガ教室通う事になりました! ですので、これからもよろしくお願いします!」
「えっ? 本当? 本当に? めちゃくちゃ嬉しいんだけど! ギューッ」
「せっ、先輩! いきなり抱き着くと驚いちゃいますよ。もう……ふふっ」
「ごめんごめん。でも、本当に嬉しい。これからもよろしくね? 美由ちゃん」
「はい! よろしくおねがいします……って、いけないあと少しで昼休み終わっちゃいますよ」
「げっ! 本当だ!」
いや、その……
「美世? 一華ちゃん? もうすぐ昼休み終わっちゃうよ? 中学校の校舎までダッシュで行かないとギリギリじゃない?」
「えっ、確かに……マズいっ!!」
「いっ、急がないとですね!」
「菜月も! 一旦話切り上げないと、後輩ちゃん達が遅れるよ?」
「私のせいで後輩ちゃん達が怒られるのは勘弁っ。って、三葉! 私達次の授業体育だよっ!」
あの……
「急げ急げ! じゃあねお兄ちゃん! あっ、一華ちゃんジャージ、ジャージ」
「あっ、天女目さん! ジャージありがとうございました! 袋ここに置かせていただきます」
「空、グリップテープも中に入れるね? 2人共急いでー!」
「じゃあ美由ちゃん? またゆっくり話しましょ?」
「はいっ! とりあえず急ぎましょう!」
…………その一瞬で、一気に静寂が訪れる屋上。
そして、取り残された男が1人。
あれ? なんだこれ……修羅場とかは? 女同士の戦いは?
その他色々な事を危惧した俺の心遣いは!?
えっと、その……なんだろう。
めちゃくちゃ虚しくなってきたんですけど……
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