それはいつもの昼休み?
テニスの再開。
体づくり。
そして診察。
ここ数年、何事もなく過ごしてきた俺にとって、この1週間はある意味新鮮なものだった。
まぁおかげで色々あったって事も、そう思える要因かもしれないけど……あの3人が正式に家族になった時の様な感覚に似ていた。
安心と嬉しさ。
結局、テニスをまたやろうと思ったキッカケを作ってくれたのは、美耶さんを始め女性陣3人……とりわけ姉妹のおかげだ。
だからこそ、多少2人が変な事をしようとも……俺は怒る気にもならないし、何かがあれば全力で助けたい。そう思っている。
けど……
「あれ? なんで高校の教室に居るの? 美世」
「やっほーお姉ちゃん」
「あっ、初めまして。わっ、私烏真と言います」
どうしてこうなった?
「おっ、おい空。こりゃどういう事だ?」
なんて事無い昼休みの教室。普段は騒がしいであろう教室に、今日に限れば決して大きくない笹本の声が響き渡る。
それだけ、なぜか昼休みだと言うのに教室は静かだ。そして教室の皆の視線は最後列に座る俺の机へと向けられている。
「どういう事って……」
笹本の横には、美世ちゃんと烏真さん。その少し後ろには美由。
ハッキリ言って見慣れない光景であり、普通じゃありえない状況だ。
もちろんこれには、れっきとした理由がある。
まず、午前中は何事もなく普段通りだった。そして食堂へ行き、美由といつも通り昼食を食べ、教室へ戻って来る。そう、ここまでは何らいつもと変わらないものだった。
ところがだ、そんないつもの光景の中に現れたのが……そう! 美世ちゃんだった。
『お兄ちゃんー!』
ハッキリ言って意味が分からなかったよ。同じ敷地内にあるとはいえ、校舎はまるで違う。ましてや中学校の生徒が高校の校舎に来る事自体あり得ない。
聞き慣れない声がしたのか、その一言で教室は少し静かになった。
俺だって焦ったよ。何してんだ? なんて言おうと思ったんだけど……美世ちゃんの後ろに見える人影が目に入った瞬間、更に意味が分からなくなったよ。
『ねっ、ねぇ美世ちゃん! やっぱり高校の校舎に来るのはマズイよ……』
そうだよ。なぜか烏真さんまで一緒に居たんだ。
固まる俺。
ニコニコな美世ちゃん。
困った顔の烏真さん。
そんな間に居た笹本が、何も言わない訳がない。
『ん? お兄ちゃん? もしかして君……美世ちゃん?』
『はいっ! あれ? でも、なんで私の名前知ってるんですか?』
『そしてその後ろの子は、もしかして烏真一華ちゃん?』
『えっ、はっはい。そうです……けど……』
『えっ。なんで……中学生の空の義妹さんと、烏真さんがここにっ!?』
そんな笹本の声が教室に響いた瞬間、まだ若干騒がしかった教室が完全に静まり返った。
そして向けられる視線。
ヤバい……なんか完全にヤバい。
そんな嫌な予感が全身を襲っていると、
『あっ、お兄ちゃん? 放課後は時間ないと思ってさ? 一華ちゃん渡したい物あるって』
『やっ、やっぱりいいよぉ』
『何言ってるの? 借りたジャージ、絶対自分で手渡したいって言ってたじゃない』
『ジャージ? おい空! 一華お嬢様になんでジャージ貸してるんだよ!?』
なぜ笹本が烏真さんをお嬢様呼びしているのかは、後にして……その笹本の一言で、教室内がざわつき始めた。
『天女目君の義妹さんだって』
『それに後ろの子、烏真さんだよ? あの独特の雰囲気、マジモンのお嬢様だって話だよ』
『そんな子と知り合い?』
『大体、中学生が高校の校舎に来るって……凄い行動力じゃない』
おいおいおい。なんか変にざわつき始めたぞ? なんて更にテンパって居た時だ。
『空くーん?』
何とも悪いタイミングでやって来たのが、美由。
こういう経緯があったのち……今に至る。
あぁ……ヤバい。なんかヤバい。
「ちょっと? 美世?」
「私は付き添いだよっ」
「すっ、すいません。私のせいなんです」
「えっと、烏真さんだっけ? 一体どうしたの?」
「じっ、実は……」
「おいっ空!! 一体全体どういう事だよ! ハーレムライフを送ってるのは分かるけど……なにも昼休みに、俺の前で見せびらかさなくても良いじゃないか!!」
ちょっと静かにしろ笹本!
えっと、どうする? とりあえずこのままここに居ちゃダメだ。移動しないと……
「ちょっ、3人とも良いかな? ここじゃ……」
ガラガラ
「えっと、空居るー?」
なっ、次はなんだよ! ……って!
「キャッ、アレって2年の九条先輩じゃない?」
「明るくて優しくて……理想の先輩」
「女の私達から見ても格好良い……」
次の瞬間、教室前方のドアが開いたかと思うと、耳に聞こえて来た自分の名前。
すかざす視線を向けると、そこに居たのは……更にタイミング悪く登場した九条先輩だった。
「あれ? 美由ちゃんに……美世ちゃん? なんでここに……」
「あっ、九条先輩っ―! お久しぶりですっ!」
なっ、なんでだよ! なんでこのタイミングで九条先輩まで!? なんか教室の女性陣が一気に騒がしくなったんですけど? あぁ、こりゃ急いで退散しないと!
「とっ、とりあえず、別な……」
「よっとー! こんにちわ。この教室に空っち居る?」
はい? 今度は誰ですかっ! ……って!
「おっ、おい! あれって去年のミス京南の桐生院先輩じゃねえか?」
「マジで金髪じゃんか! しかも美人過ぎる」
「足細っ! 目でかっ! ヤバい……惚れるっ!」
今度は教室後方のドア付近。美由の後ろから聞こえてきた声。
反射的に目を凝らすと、そこに居たのは……もはや見計らったと言わんばかりに登場した、桐生院先輩だった。
「って、あぁ! 美由ちゃんじゃん! 丁度良かった」
「みっ、三葉先輩!?」
うっ、嘘だろ! なんで更に桐生院先輩まで!? なんか今度は教室の男性陣が一気に騒がしくなったんですけど? あぁ、もう……
「まさか九条先輩と間近で会えるなんて」
「生で見る桐生院先輩美し過ぎる」
「あれが、お清楚烏真嬢か……噂では言いた事あるけど、まじで雰囲気からしてお嬢様感抜群だな」
「あぁ、やっぱ天女目さん可愛いよな」
「いや、俺は妹の美世ちゃんの方が好みだ」
「転校生の天女目姉妹……その見た目も大概だけど、どっちもやっぱりデカイよな」
「それにしても、こんな美人、可愛い、お嬢様な人達が揃いも揃って会いに来た天女目って……何者なんだ?」
やべぇ。なんかさっきよりも視線が……
「くそぉ!!! 空! お前ってやつは先輩・同級生・後輩まで手篭めにしてんのか! 許さんっ!」
あぁ! マジで笹本! お前は黙ってろっ!
でもマジでどうするよ……教室が軽くパニック状態になってるんですけど?
あぁ……あぁ……
とりあえず、場所変えませんか!!!?
「とりあえず、屋上行きましょう!!」
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