第1回 天女目家姉妹会議




 いつも通り部活が終わり、


「お待たせ~お姉ちゃん!」


 いつも通り美世と待ち合わせ。

 私達姉妹は一緒に帰る事が当たり前だった。


 前の鳳瞭学園でも高等部と中等部の練習は合同だったし、ここ京南でも同じ様に過ごせるのは純粋に嬉しい。


 ただ、今日は……


「全然だよ。それより美世? ちょっとラウンジに寄って行かない?」

「えっ? ラウンジ? どうして……」


 いつもとは事情が違う。


「久しぶりの……いえ、京南へ来てから初めての会議をしましょう」

「会議……姉妹会議だね」

「うん」




 ★




「よっと。もうちょっとで使用不可になる時間だけど、会議には十分な時間だよ」

「だね」


 そう言いながら適当な椅子に、私と美世は颯爽と座る。そして、早々に本題を口にした。


「じゃあ、京南に来て第1回目の姉妹会議始めます」

「宜しくお願いします」


 今まで家でも学校でも、明るい表情を絶やさなかった美世の顔が真剣なモノに代わる。それこそ、数年に1度見るか見ないかのその顔に、美世自身にも思う事があるんだと察する。そうなると話は早い。


「正式に天女目家の一員になって数ヶ月。今まで分からなかった事が色々と見えて来た」

「うん。特にお兄ちゃんの事については、新事実が多かったよねっ」


 実の所、この姉妹会議は今まで数回開催してきた。最初は、母さんの幸せを考える為にどうするべきか。

 そんな話からスタートしてきた訳だけど……空と出会い、互いに空を好きだと知ってからは、いつしかどうやって空を振り向かせるかに焦点を当てていた。

 お互いが譲らないのはもちろんだけど、そもそも私達以外に空が靡かない様にって……一種の宣戦協定みたいなものだ。


 つまり、今日話すべき事は……もちろん空の事一択。


「各々がどこまで仲を深めたか……そこはあくまでシークレット。だから、その件については問題ない。昨日のテニスデートの事も詳しくは聞かないよ」

「その件については、ただテニスを楽しんだだけだからねっ。それは事実。それにしても……なんとなくお姉ちゃんが言いたい事は分かる気がする」


「そう? じゃあ一緒に言ってみる?」

「いいよ? せーのっ!」


「空の周りに可愛い・美人な女の人居すぎっ!」

「お兄ちゃん意外とモテ過ぎ!」


 私達の考えは、言葉こそ違うものの……ニュアンスとしては一致していた。

 やっぱり美世もそう思ってたんだね。


「やっぱりそうだよね? 同じ高校通ってみて、改めて思った」

「まぁね。しかも学校始まってまだ2ヶ月くらいでしょ? ペースとしてはなんか怖い」


「だよね。とりあえず、今のところ把握している危険人物達を整理しようか」

「了解っ!」


 まずは危険度大の人からっ!


「じゃあ私から。まずは同学年ではそんな雰囲気を感じる子は……今のところ無し」

「となれば……」


「うん。強力なのは先輩方。まずは、2年生のテニス部所属の九条菜月先輩」

「一緒にプリシル撮った、褐色肌の明るい人だね?」


「そう。小学校からテニスを通じて空と仲が良い。今もその関係は継続中って感じかな。それと、初めてその存在を知った時、空と話している所を見たんだけど……明らかに空に対して好意を抱いてる空気を感じた」

「マジか。プリシル撮ってる時はお友達も居たし、そんな感じはしなかったけど……なるほどね」


「部活を通しての仲の良さは結構強み。それに空がテニスを再開して、テニス部に入部したら……必然的にその距離間が縮まってしまう」

「部活中は美世達も手出しできないもんね。部室とか……」


「女子達からの人気も高いし、性格的にも今のところは悪い部分が見当たらない。そこは要調査だけど、現段階で1番危険度が高いかな?」

「お兄ちゃんのテニスやってる姿って格好良いから、再開するのは良いんだけどねぇ。困ったもんだっ」


「まったくね」

「じゃあまず1人目ね? じゃあ次は私。おそらく好意を向けていそうな雰囲気の子が1人」


「と言う事は、中学の子? まぁ後輩なら何かしらの接点は前から有りそうね?」

「ところがどっこい。そんな感じでもないんだよね?」


 ……後輩なのに接点がない? どういう事?


「どういう事?」

「うん。名前は烏真一華ちゃん。同じクラスなんだけどさ? ある日いきなりお兄ちゃんの事でお礼言われちゃったんだよね」


「お礼?」

「落し物探してる時に、男2人に絡まれて……その時に助けてくれたのがお兄ちゃんなんだって」


 なっ、何それっ! 漫画とかドラマでしか見た事無いシチュエーションだよ?


「嘘でしょ?」

「本当だよ。一華ちゃんってそんな嘘言うタイプじゃないし。それに……私見てたから」


「見てた?」

「部活始まる前にね? 取り置きしてもらってた雑誌取りに行ったんだ。そしたら2人が手繋いで走って来て……」


「手っ!?」

「なんか話して、めちゃくちゃ一華ちゃんがお辞儀してたんだ。そんで次の日その話だよ? ガチでしょ」


 なっ、何それっ! 


「嘘でしょ? なんなの? その烏真って子! そんなシチュエーション、私だって味わいたいよっ! 助けに来てもらって、手を繋いで逃避行なんて最高じゃんっ!」

「だよね? だよね? その話聞いた途端、一瞬一華ちゃんには悪いんだけど殺意と嫉妬で目の前が真っ暗になったよ」


「くっ……まっ、まぁ話の流れは理解したよ。もしかしてそんな経験から、もしかしてら空に好意を抱いているかもしれないと?」

「その通り。一華ちゃんってさ? 見た目も話し方もザ・お嬢様なんだよ? 口数もそこまで多くはないんだけど、お兄ちゃんの話しした途端に早口・若干目が乙女・テンション高いの3点セットなんだよね」


「それは黒だ」

「でしょ? だから危険人物その2。京南中学3年、烏真一華も追加で」


「了解。じゃあ次は私ね? 同じく京南高校2年の桐生院三葉先輩」

「プリシル撮った、金髪の人だよね?」


「正解」

「見た目外国の人っぽくて美人。スタイルもモデル並みだったよね」


「男女問わず、高校では知らない人は居ないと思う」

「さっきの九条先輩とはまた違ったベクトルだよねぇ」


「この人に関しては、空にどんな感情を持ってるのかハッキリしてない。けど、定期的に屋上で会おうよって主旨の言動を確認してる」

「あっ! 前に言ってた逢引する仲って……」


 あっ、逢引きっ!?


「はっ?」

「プリシル取る前にね? 言ってたんだよ。でも、九条先輩が変に言い過ぎって言ってたし気にはしなかったんだけど……けど、実際にそういう話、お姉ちゃん聞いたんだよね?」


「昼休みに空に話しあって、後ついて行ったら……屋上で桐生院先輩と話してたんだよ」

「マジか……」


「とりあえず、現状は好意と言う雰囲気はないけど……そのルックスも相俟って、もしかすれば空が好意を向ける可能性もある。と言う訳で、危険人物3人目」

「おっけぇ」


 ……とりあえず、こんな感じかな?


「とりあえず今はこんな感じかな? あっ、あと前に出掛けた時に遭遇した、空の元同級生の人。距離的には大丈夫だと思うけど、話し方とか色んな意味で空に気がありそうだった。なんかあったら全力で阻止しよ?」

「あの人ねぇ。樫乃さんだっけ? 了解! あっ、それと昨日お兄ちゃん、父さんの知り合いのお医者さんのところ行ったじゃない?」


 お医者さん……言ってた!


「言ってたね」

「父さん達の話を、盗み聞きした感じ……女医さんだって!」


 じょっ、女医!? 診察室……女医と男子高校生……


 ―――先生俺、肘だけじゃなく調子の悪い所があるんです―――

 ―――どこかしら? もしかして……―――

 ―――せっ、先生なんでそこを―――

 ―――分かるに決まってるじゃない。私はあなたの先生よ? ちゃんと見せて?  触らせてちょうだい?―――

 ―――せっ、先生っ!!―――


 あり得る!! 十分に有り得る!!


「お姉ちゃん? 大丈夫……私も同じ事想像したから」

「えっ? 本当? ……良かった。それにしてもその女医さんも要観察ね」


「そうそう」

「とりあえず、今出た人達は今後も調べて行こう?」


「任せて!」

「じゃあ、今日の会議はここまでと言う事で……帰ろっか?」

「そうだね。帰ろっ!」


 よっと……とりあえず要注意人物達は整理できた。本当に、空ってば周りに美人で可愛い人居すぎだよ。


 百歩譲って美世が選ばれるなら良い。でも、私達以外とそう言う関係になるのは我慢できない。


 はぁ……どうしよう。

 既成事実を作れたら一番良いのに……無理矢理にでも迫って、体の関係持っちゃおうかな。

 私の初体験を捧げたら、多少強引でも空は罪悪感を……ってダメ。そういうのはちゃんとそう言う関係になってから、空の合意の上でしないと。


 でも美由? そうも言ってられないかもよ? 既に美世は……って、それはない! それはないと信じたいっ!!


 ……はぁ。こんなにも思ってるんだから、気付いてよ。

 こんなにも積極的になってるんだから応えてよ。空っ……


 うぅん。そうしてもらう為に、頑張るのが女の子でしょ? だから頑張れ私。

 美世に負けずに、他の人達にも負けずに……


 空を振り向かせて見せるっ!



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