予想外




「うわぁ~たくさんコートがありますね」


 そんなこんなで、来てしまった舞松公園。

 ただ、


「凄く大きい~」


 行きつけとは言わないけれど、見慣れた場所に見慣れない人。

 そんなアンバランスさが、そういう風に感じさせてしまうのだろうか。


 まぁ、言ってしまえば完全に俺の主観なんだけど……


「ふふっ。楽しみです」


 どうしてもこの場所に似合わないんだよな。そしてテニスをしている姿も想像できないんだよなぁ。

 とはいえ、本人がやりたいと言っているのを無理に否定する事も出来ない。とりあえず……


「そうだね。じゃあ、俺達が借りたのはこのコートだから……入ろうか?」

「はいっ」


 成り行きに任せようかな?

 こうしてコートに入った俺達。とりあえず荷物を置く為にコート脇のベンチへ向かった。


「俺の汚いラケットでも大丈夫?」

「とんでもない。これってセカンドラケットですよね? それでも丁寧に手入れされてるのが分かります」


「手入れって、最近までほこり被ってたけどね」

「そうとは思えないですよ」


「ははっ、ありがとう」

「じゃあ、天女目さん。ボール借りても良いですか?」


 そして烏真さんにそう言われた俺は、テニスボールを手渡した。すると、慣れた手つきでラケットの上でボールを弾ませ始めた。


 あっ、確かに手慣れてるな。


「簡単なラリーで良いんでしたっけ?」

「あぁ。最初から飛ばし過ぎるなって、忠告があったからね」


「了解です。私は必死に頑張りますね? それでは、あっちのセンターマークに行きますね」

「いやいや、烏丸さんは制服なんだから。いくら今日はブレザー来てないからって、怪我しない程度で良いからね」


 そんな会話を言い合いながら、俺達は各々のセンターマークへと歩みを進める。


 よっと。

 前は美世ちゃんと来たけど、今度は烏真さんか。偶然とはいえ……やっぱりコートに立つ気分は最高だな。


「じゃあ行きますよ~」

「はーい」


 いくら嗜んだ事があるって言っても女の子。手加減しないとな? そうだ、フォームを確認する様に打ってみよう。

 そうじゃないと、怪我でも……えっ?


 それは……圧倒的な油断だった。


 女の子。しかもお清楚お嬢様。

 その人物の口から零れた嗜む程度という言葉。

 ぎこちないながらも、ラリーを続けられる程度だと想像していた。


 すなわち、始まりの合図とも言えるサーブに関しても同様。てっきりアンダーサーブでも繰り出してくるのかと思っていた。

 ところが、目の前の烏真さんは違った。


 まるで教科書の様に、高く斜め前にトスを上げると同時に、弓を引く様にラケットを振り被る。

 その光景を見た瞬間、俺の体は反射的に反応してしまう。


 これは紛れもない……本物のサーブだ!


「えいっ!」


 速いっ!


 その読みは見事に当たる。

 想像を越えたスピードと共に、サービスラインギリギリにバウンドしたサーブ。

 恐らく、ちゃんと構えていなければ反応出来なかっただろう。

 これだけで、烏真さんの嗜むレベルが想像以上だと確信した。


 やっ、やるなぁ。とりあえず、普通に返そう。サーブだけ異常にって事もあるしな。

 じゃあ、深めに……っと!!


「よっと!」


 フォアの動きもスムーズ。じゃあ次はバックハンド!


「そりゃっ!」


 普通に経験者並みじゃないか。これは凄い。


「烏真さんっ! 絶対経験者でしょ? 上手すぎだよ?」

「本当ですかっ!? ありがとうございます」


 予想以上の腕前に、驚きはした。ただ、それ以上に生きているボールを打ち返せる事に喜びを感じる。


「じゃあ、次からちょっと動かす感じで打っても良いかな? 烏真さんも打てたら打ってー?」

「はーい」


「よっ!」

「えぃ~やっ!」

「はいっ!」


 ちゃんとボールに付いて行ってるし、返球だって対角線上に打ってる。凄いな……


 なんて感心しながらも、ラリーを続ける俺と烏真さん。

 もうちょっと動かしてみようかな?


「これは大丈夫? 烏真さん」

「大丈夫ーですっ!」


 うおっ。これ追い付くか……って!

 最初はその場から動かないラリーだったからか、そこまで意識が向かなかった。ただ、お互い動くになった瞬間……俺はある事に気が付いてしまった。


 そう。烏真さんは学校帰り。つまりスカートを履いている。

 横の移動、捻じる動き。徐々に激しさを増すにつれて、それはスカートへも伝染する。その結果!


 チラッ


 やばっ!! スカートじゃん! それなのに烏真さん上手いし、ボール拾うから……その……パパッ、パンツがチラチラ見えてる!


 しかもレースの付いた純白の白か……ってバカ野郎! どこ見てんだよ! 普通にラリーしろよ! でも……


「まだまだ行きますよ~!」


 めちゃくちゃ楽しそう! むしろ激しくするたびに笑顔になってるじゃん。

 お嬢様のあんな笑顔見たら……


「それっ! 天女目さんっ!」


 無理でしょっ!!




 ★




 気が気じゃないラリー状態が、何分続いただろうか。その間、見てはいけないとは思いながらも、何度も烏真さんの白いパンツが目に焼きついた。

 すると、


 パサッ


「あっ、ごめんなさいー! ミスしちゃいました」


 やっとの事でプレーが中断。この機会を逃す訳にはいかなかった。


「烏真さーん。結構ぶっ通しだったから、とりあえず今日は終わろうか? 汗ダラダラだし」

「えっ? あっ、そうですねー」


 ボールを拾いに来た烏真さんにそう告げると、とりあえず荷物のある場所へ。

 それにしても、かなり上手かったな?


「よっと。上手すぎじゃない? 烏真さん」

「そんな事無いですよー」


 そう言いながらも、額に汗をにじませる烏真さん。もう、何度も言うけどその顔に汗は似合わないでしょう。

 とはいえ、流石にこのままはマズイ。確か替えのタオルあったよな。


「えっと、このタオル使って……あっ」


 鞄に入っていた替えのタオルを手に取り、烏真さんに渡そうとした時だった。

 またしても俺は気が付いてはいけない所に気が付いてしまった。


 制服の……スクールシャツは白。そして汗が結構。胸は特に……すなわち……


 がっ、がっつりシャツが濡れてて白いブラジャーが浮き出てるっ!!! しかも、なんか見た目より大きい?


「えっ? どうしたんですか?」


 って、何考えてるんだ俺。そっと視線を外して……


「とっ、とりあえず汗拭いて! あとせっ、制服!」

「制服……はっ!!! すすっ、すいません」


 焦った顔も声もなんか可愛らしいよな。にしても、とりあえず汗を拭いてもらったけど……流石に乾くまで時間掛かるよな?


 なんか羽織るもの……来る途中まで着て来たジャージしかないな。臭くはないと思うし、聞いてみるか。烏真さんの方は見ない様にして……


「あの烏真さん? 流石にその格好じゃ乾くまで時間掛かると思うし、タオルだけじゃ隠せないと思うんだ。だから、もしよかったらこのジャージ着てって? 来る時に着て来た奴だから、臭くはないと思う」

「えっ? そんなぁ……良いんですか?」


「こっちこそ烏真さんが良ければっ!」

「あっ、ありがとうございます………………着させていただきました!」


 その言葉に、さっと烏真さんの方へ視線を向けると、見事にジャージを着こんだ姿があった。

 自分のジャージとはいえ烏真さんにとっては大きいのか、自然と袖の部分が余っている。


 ぐっ!!! 萌え袖だと!?


「本当にありがとうございます。何から何までご迷惑おかけして」


 その格好でその顔はヤバいぞっ? なんだこれは……清楚+萌え袖がこんなにも破壊力抜群だとはっ!!


「ぜっ、全然だよ」

「あの、必ず洗濯してお返ししますね?」


「あっ、あぁ。じゃあそろそろ時間もあれだし、帰ろうか?」

「えっ……あっ、もうこんな時間なんですね?」


「いや、こっちこそ練習付き合ってくれてありがとう」

「とんでもないです。あの、天女目さん?」


「ん?」

「ちゃんと……お礼になりましたでしょうか?」


 だっ、だからその顔で萌え袖で上目遣いは……


「もっ、もちろんだよ」

「本当ですか!? 嬉しいです」


 反則だってぇぇ!!



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