今日も各々元気です
「なぁ、空。お前って良いよな」
「ん?」
「ズルイズルイズルイ! ひじょーにずるい! そして羨ましいっ!」
まだ乾いた空気の漂う朝の教室。
そんな中、隣の席に座る
ハッキリ言って、その声はうるさい。しかし慣れというものは恐ろしいもので、個人的には朝のチャイムが鳴る前の合図だと認識している。
ただ、笹本。このクラスには初めましての子も多い。ほら見ろ、未だにお前の朝一サイレンに慣れてない子も居るんだぞ? 大体外部組の子だけどな。
俺の通う京南高校は、いわゆる中高一貫教育だ。いや付け加えるなら、中高大一貫教育といった方が正しいのかもしれない。
同じ敷地内にそれぞれの校舎があり、ここ一帯は京南エリアなんて言われている。
まぁ、同じ敷地内にあるものの……それぞれの入り口は違っている。一応の区切りとかなんとか。
とはいえ、もちろん途中から入学してくる人達も結構多い。外部組というやつだ。
もちろん、そんな人達は初めまして状態。つまりこのテンションの高い笹本の挨拶に慣れていないのも当然だ。
とはいえ……
「くそっ! なんであんな可愛い子が、お前の親族になってんだよ!」
ここ最近の
まぁ、原因は他ならぬ……
「あっ、空くん?」
「うっ、うおっ……」
「ん? どした美由?」
この人だけど。
「朝言い忘れちゃった。あっ、おはよう笹本君」
「おっ、おはようございます」
あぁ、なんか教室がザワザワしてるんですけど? 特に男子がザワザワなんですけど?
あの、美由さんよ? あんた外部組の中でも、結構注目されてるんですよ? 理解してますかね?
ハッキリ言って、美由の容姿は俺が言うのもあれだけど、飛び抜けている。パッチリ二重に、たわわな胸部はグラビアアイドルでも通用しそうなスタイル。
そんな外部組の子が、話題にならない訳もなく……未だ俺のクラスに来るたびに、このザワザワが起こっている。
「言い忘れてた?」
「うん。今日もお昼一緒に食べようね? 学食で待ってるから」
「そんな事、スマホで伝えても……」
「近くに居るんだからいいじゃない。それじゃあまたね?」
そう言い残すと、颯爽と教室を後にする美由。その後の教室の雰囲気は……もはや想像がつく。
何処からともなくザワザワが聞こえ、ザワザワが終わる。
そして、
「おいおい……」
「あぁ。天女目の奴、あんな可愛い子と一つ屋根の下か」
「ずりぃよな」
「あの容姿すごいなぁ」
「そう? 私はちょっと気に入らないなぁ」
「シッ、そんな事言っちゃダメだって」
もっと大きなザワザワが始まる。
それも、なぜか大多数の視線が浴びせられる。
うおっ。未だに慣れないな……良い意味じゃなく視線を集めるのって。
「くぅ……! やっぱズルいぞ空っ!」
いやいや、なんで本気で悔しそうなんだよお前はっ!
「はいはい! 静かにー、朝のホームルーム始まるよ?」
なんて思っていた時だった、ざわつく教室に響く透き通った声。
というより、ここまでが朝の恒例みたいになってるんだけどね。
「席に座って座ってー」
そう言いながら手でジェスチャーをしているのは
通称、委員長だ。
俺の知る限り、ほとんどの学年で委員長を務めている、クイーン・オブ・委員長。
ちなみに、照と同じく小学校からの付き合いでもある。そして……
「けっ、今日もあいつうるさいなー」
「お前そんな事言うと……」
「こらっ、照! さっさと座んなさいよー! あと、朝からうるさいの! あんたの声から1日がスタートするなんて最悪なんだから。静かにしてなっ」
あぁ、始まったよ。
「なんだと? このブス!」
「なっ、なによ! チャラ男」
絶望的に、仲が悪い。
★
「ふぅ」
朝の一悶着というより、恒例行事から時間が経ち、やっとお昼。俺は学食へ向かって廊下を歩いている。
正直、毎朝のスタートがあれだと初めから体力70%スタートと言ってもいい。それに、高校へ入ってからはその熱もなんか大きくなっている気がする。
まぁ、原因は色々とありそうだけど……その一因には美由の存在もあるだろうな。
雰囲気で委員長が美由を意識してるのは分かる。
「けど、これが毎日はきついよな……」
「何がきついのかな?」
「うおっ!」
なんて独り言を呟いた時だった。突如として聞こえてきた声と、曲がり角から現れた人影。
お蔭で、何とも情けない声が口から零れる。
「ふふっ。変な声だなぁ」
そんな俺を見て、クスクス笑う渦中の人物。
くそっ、やってくれるぜ……
「その驚かし方はやめて下さいよ!
2年生の先輩で、俺と同じ進学組でテニス部所属。
ミディアムカットに褐色肌、その整った顔に、丁度良い大きさを持つプロポーションは目を見張るものがある。
ちなみに中学までテニスをしていた俺とは顔見知りで……ちょくちょくこういう悪戯を仕掛けてくる存在だ。
「いやぁ、相変わらず良い反応だねぇ」
「他の人なら心臓麻痺か腰抜かすと思いますよ?」
「そりゃ困った。だったらやっぱり、悪戯は空に限る」
「なっ、なんでですか!」
昔っからこういう明るい性格だからこそ、部活でも私生活でも友達が多いのが良く分かる。
けど、本当にこの悪戯は止めてください?
「大体、マジで心臓に悪いですからね?」
「そうなったら、人工呼吸は任せてよっ」
「そういう問題じゃないですよね!?」
「あっ、なんならAEDも任せてよ? ワイシャツ脱がせちゃうけど仕方ないよね? 」
「嫌な予感するんで止めてください」
「えっ? なになにもしかして、弱点あるの? 乳首とか?」
「なっ、何言ってんですかっ!」
「もーう。冗談だってばぁ」
そう言いながら、にんまりとした笑みを浮かべる九条先輩。
普段の頼りになる先輩とは違った姿に……見た者はギャップ萌えをするんだろう。ただ、こちとら耐性が付いている。
ギャップ萌えどころか体力の減少だよ。やべぇ……昼を目前に50%位だぞ?
先輩が来るって事は、大体は話がある時だ。早急に本題に入って貰わないと色々と困る。
「はぁ。あの先輩? さっさと本題に入りましょう?」
「おっ、なんで私の心の中が!? もしかして空はエス……」
「本題は何ですか? 俺お腹すいたんで行きますよ?」
「ちょいちょい! 分かったって。もう、空ってば最近ずいぶんSっ気が……」
「……先輩?」
「分かったって! じゃあ単刀直入に言おう。そろそろテニス部に戻らない?」
……またその事か。
テニス部への再入部。その誘いは、過去にも何度かあった。そして、今回は……高校入学後1発目。
なぜそこまで俺を誘うのかは分からない。とはいえ、必死に誘ってくれるのは嬉しい。
ただ、俺の答えは決まっている。
「すいません」
「そっか……了解了解。私も無理強いは出来ないしね」
「そう言ってもらえるのは嬉しんですけど、やっぱり……」
「だね。でもさ、気が向いたら言ってよ。私もちょいちょい声掛けるからさっ」
「分かりました」
「うん。じゃあまたねっ、空っ!」
そう言い残し、颯爽と居なくなる九条先輩。
去り際も変わんないなぁ。
正直、小学校から一緒にテニスをしていた先輩に、気に掛けてもらえるのは嬉しい事だ。
それでも今の俺は……テニスをする気はない。
「いやぁ……毎回先輩に誘ってもらうのも、断るのも申し訳ないなぁ」
「何が申し訳ないの?」
「うおっ!」
なんてまたしても独り言を呟いた瞬間、今度は背後から聞こえてきた声。
そしてその声には……聞き覚えがある。
「……あっ、ああ。美由か」
思わず振り返ると、そこに立っていたのは美由だった。けど、その様子は何かがおかしい。口元は笑ってるけど、目が笑って……ない?
「ねぇ空くん? さっきの女の人は誰かな?」
さっきの? もしかして九条先輩と話してるところ見られてたのか? ここはちゃんと説明……
「さっ、さっきのって……2年の九条先輩だけど」
「2年? 九条先輩……あぁテニス部の九条菜月先輩……」
……っ! なんでテニス部だって事を? しかも名前まで!?
「そっ、そうだよ」
「へぇー。すごく楽しそうに話してたねぇ?」
なんか、ものすごく嫌な雰囲気するんですけど? 大丈夫ですよね?
「楽しそうってか、普通に話してただけだよ」
「普通ねぇ……」
「まぁ……今はいいや。うんっ! それじゃあ空くん、ご飯行こう?」
「おっ、おう……」
本当に大丈夫ですよね?!?
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