2人の義姉妹

 



「ねぇお姉ちゃん。高校は良い感じ?」

「うん。良い感じだよ? 美世は中学校良い感じ?」

「皆良い人だらけで良い感じだよぉ」


 2人挟まれながらの登校。

 これはもはや、毎朝の日課のようなものになっていた。


 それにしても、


「変な人とか先生居ない?」

「お姉ちゃんは心配性だなぁ。大丈夫だよ? それこそ高校にはそういう人居ない?」


 俺を挟んで話をするのは良いんだけど、俺の腕をここぞとばかりに挟むのは止めてもらえないですかね?


 傍から見れば、両手に花束状態だろう。

 しかしながら、この状態を初めて経験した時は、あまりの衝撃に固まってしまった。言葉も出ず、体は2人に抱えられ半ば引きずられて学校まで行ったっけ。


 しかしながら、今思えば初手でのその反応が命取りになったんだ。

 拒否しない=大丈夫!


 双方の頭の中では、そう判断したんだろう。結果がこれだ。


 美由と美世。

 髪型と髪色こそ違いはあれど、その顔は殆どそっくり。もちろん、その豊満なスタイルも。


 それに、姉妹間の仲も抜群に良いと思う。

 こうして会話が途切れないのは、それ相応の信頼関係と仲の良さがないと有り得ない。


 ただ、なぜか俺の事になると話は別だ。

 正直、その理由は全く分からない。俺自身、顔なんて良く見積もっても中の下の下。身長が高いわけでもなく、特段コミュ力がある訳じゃない。


 にも関らず、なぜか2人は……妙に積極的である。

 部屋に突撃されたり、今朝の様に布団に居たり……その他諸々。


 嬉しい反面、どうしたらいいのか戸惑いもある。



『私、空くんのお嫁さんになる』

『だめ。お兄ちゃんとは美世が結婚するのっ!』



 正式な再婚と同居が決まった場での、声高らかな宣言。


 あの時は、俺も父さんも美耶さんも冗談だと思っていたけど……日に日にエスカレートしていったんだよな。


 別に、2人共美人で可愛い。そんな女の子にチヤホヤされるのもまんざらではない。

 それでも、長年1人っ子だった俺からすると……純粋に姉妹が出来た事が嬉しくて、どうしても今はまだそれ以上の存在としては見られない。


 いや、いくら義が付いても姉妹だぞ? そんな関係は世間的にもご法度じゃね?

 そう世間的……ただ、その辺りについては2人共きっちり線引きが出来ている。


「あっ、そろそろだね?」

「うん」


 ある程度歩き進めると、不意に2人が俺の腕を離す。この光景も、もはや日課の行動の1つだ。


『流石に学校の人達に見られるのはマズいでしょ?』


 そんな俺の一言。家での様子を知る限り、どうせ聞き入れてはくれないんだろうなぁ……そう思っていたけど、2人の返事は意外なものだった。


『空くんがそう言うなら、迷惑は掛けれないね?』

『うん。その分家ではくっつくからね?』


 家と学校。

 2人はその区別をハッキリ付けている気がする。だからこそ、自分も2人の行動を許せているんじゃないだろうか。


「じゃあ、中学校行ってくるねぇ」


 そんなこんなで、目の前には美世が通う京南けいなん中学校の正門が見えてくる。

 俺達が通う高校も、直ぐ近くという事もあって、ここが毎朝の通学路になっている。


「じゃあねぇ、美世」

「気を付けてね? 美世ちゃん」

「行って来まーす。っと、誰も居ない……ちゅっ」


 いつもの様に挨拶をした瞬間だった、頬に感じる柔らかい感触。


「なっ!」

「あっ! 美世?」

「へっへへー! じゃあねぇ」


 唖然とする俺と美由なんてお構いなしに……颯爽と美世ちゃんは行ってしまった。


 マジかよ……だっ、誰も居ないよな? ホッ……


「ズルい」

「えっ?」

「美世だけズルい」


 あれ? ちょっと美由? なんか雰囲気が……


「私にもチューしてっ!」


 視線を向けると、そこには膨れっ面の美由。

 さっ、流石にここだとマズいだろう? とっ、とりあえず高校行こう。


「美由? ここじゃ騒いでもあれだし、とりあえず高校行こう」

「じゃあ着いたらしてくれる?」


「あっ、あぁ」

「やった!」


 これが、俺達の朝の登校風景。今日は少しイレギュラーな事もあったけど、大体はこんな感じで明るく、楽しく……過ごしている。



「空くん? 私には唇にしてね?」

「えっ?」


「お姉ちゃんの言う事は……聞かなきゃだよ?」

「お姉ちゃんって……」


 とりあえず美由も、ほっぺで我慢してもらいました。



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