既成事実を作ろうとする、美人義姉妹が今日も可愛い

北森青乃

朝の一幕

 



 ピピピピピ


 何処からともなく聞こえてくる電子音。

 それが目覚ましのアラームだと気付いた俺は、重たい瞼をこじ開けた。


 するとぼやけた視界が、徐々に鮮明になっていく。

 いつもと変わらない自分の部屋。カーテンの隙間から零れる光。


 まさに朝がやってきた。そう理解するのに時間はかからない。

 そう。自分の右側に違和感を感じる事も。


 ん? なんか妙にあったかいな? それに肘辺りになんか柔らかい感触が……


「んっ……んん……」


 はっ?


 その時だった。明らかに近くで聞こえてきた誰かの声に、思わず視線を向ける。

 するとどうだろう。1人用の布団の中には、俺以外の誰かが居た。


 すやすやと寝息を立てている、見覚えのある黒髪。

 しかも体を密着させ、右手をがっちり抱き抱えている。

 更には、はだけたパジャマから見える壮大な谷間。


「うおっ!」


 反射的に声が零れ、鼓動が一気に早くなる。

 なんとかしなければ……そうは思うがどうすれば良いのか分からない。


 とっ、とりあえず腕を何とかしないと。そぉーっと……


「んっ」


 腕を引き抜こうとした途端、今度は妙に色っぽい声が耳に突き刺さる。

 ヤバい。そのたわわな胸に押し付けられてるから、下手に動かすとその……こすれてしまう。

 身動きが……


「うぅん……ん?」


 あっ、ナイスタイミングで起きてくれたっ!


「あっ……おはよう? あ・な・た」


 ガチャ


 その瞬間、勢いよく開く部屋のドア。


「おはよー! お兄……あぁ!」

「あっ、バレちゃった」


 交差する2人の声は、どんな目覚ましも効果がある気がする。けど、


「何してるのっ! お姉ちゃん! ずっ、ずるいよぉ!!」

「早いモノ勝ちだよぉ」


 あの……早く起きません?




 ★




「おはよー」


 朝の一悶着が落ち着き、俺は1階リビングへと足を運ぶ。

 すると、そこにはすっかり見慣れた2人の姿があった。


「おはよう」

「おはよー。なんだか2人の声が聞こえてきたけど……もしかしてまた迷惑かけてない?」


 新聞を読みながら、いつもの席に座る父さん。

 そして少し心配そうな表情で、ご飯の支度をしている美耶みやさん。


「ははっ、全然ですよ」


 俺はそう答えると、自分の席に腰を下ろす……と同時に、何とも手早く美耶さんがご飯とみそ汁と目の前に置いてくれる。


「でもね? ここの所、毎朝でしょ? ストレスとか感じてない?」

「おはようー」

「おっはよー」


 なんて、母親の心配をよそに続々とリビングへとなだれ込む女の子2人。

 まぁ、なんというか……驚く事ばかりではあるけど、こういうのは正直嫌いじゃない。


「「いっただっきまーす」」


 テーブルを囲み、和気藹々を朝食を食べる。それは当たり前の様で、俺にとっては当たり前じゃなかった。

 そして、心の中で常に望んでいたもの。


 だからこそ、心底嬉し……


「じゃあお姉ちゃん? 今日は私がお兄ちゃんと寝る番だからね?」

「ん? なんの事かなぁ?」


 ……また始まった。


 俺の名前は天女目なのめそら

 ごく普通の高校生だ。いや、正確には普通ではないのかもしれない。

 その理由は勿論、食卓をにぎやかに彩る女性3人の存在。


 父さんが再婚し、俺達は晴れて家族となった。

 つまり必然的に……俺にも母親、そして姉妹が出来たという訳。


「だって、抜け駆けしてたじゃんかっ」


 対面に座る、少し茶髪がかったショートヘア。

 彼女の名前は天女目美世みよ

 俺の1個下で義妹だ。


「そもそも、交代制なんて決めてないでしょー?」


 そして対面に座るもう1人。黒髪ロングの女の子。

 彼女の名前は天女目美由みゆ

 俺と同い年だけど、誕生日が早いという事で一応義姉(本人談)らしい。


「こら2人ともっ! ご飯中は大きな声出さないのっ!」


 そして、横に座るのが天女目美耶みやさん。

 美由と美世のお母さんで、父さんの再婚の相手。

 お淑やかで、料理も家事も完璧。大人の魅力たっぷりな人だ。


 そんなこんなで、男2人の家庭が一気に晴れやかになった天女目家。

 俺だって、父さんから再婚の話を聞いた時は驚いたよ。けど、なんとなくこの3人とは上手くやっていけそうな気がした。


 性格はもちろんだけど……


「ごちそうさまー。じゃあ、朝の挨拶しなきゃっ!」

「だね?」


 チーン


「「お母さん、今日も1日元気に過ごせますように」」


 俺の母さんの事も、大事に思ってくれるからだ。

 最初はびっくりしたよ。けど、


『空くんのお母さんって事は、私達にとってもう1人のお母さんでしょ?』

『お母さんに挨拶しないなんて変でしょ?』


 その言葉を聞いて、安心してしまった。

 それに美耶さんも、


『だったら私にとっては、同じ人を愛した妻同士であり……友達よ?』


 なんて言ってくれてさ?

 流石に、父さんの選球眼は恐ろしいと思ったよ。


 まぁ、そんなこんなでスタートした新しい日常。

 3人共明るくて、もはや打ち解けていると言っても過言ではない。


 俺も小さい頃から1人だったし、姉妹が出来るのは嬉しかったよ。

 ただ1つ、問題が……




 ★





「じゃあ行ってくるよ」

「あっ、待ってよ」

「私もー!」


 さて、今日も元気に……っ!!


「一緒に行こう? 空くん」

「私もー! お兄ちゃん」


 いや、だからなんで両側に? しかも、腕掴んで……くっ! 両腕が両方の谷間に挟まれてるんですけで?


「ちょっ……密着し過ぎじゃ……」


 新しい家族。新しい生活。

 そして出来た、美人で可愛い義姉妹。


 それは良いんだけど、


「いいんだよ? もっと近づいて良いんだよ? お兄ちゃん?」

「ほらっ。道路側は危ないんだから、もっと近づいて?」

「ちょっ……」


 なんだか俺に対する行動が……


「「もっとこっち~!」」



 結構、積極的なんですけど!?



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