27:船の契約②

 翌日、俺がオストワルト子爵邸を訪ねると約束通り子爵と子爵夫人が待っていた。夫人に誘われるままリューディアは別室でお茶会へ、俺は子爵と共に応接室に入った。

「昨日は失礼しました。改めてお話をお願いします」

「さてフリードリヒはショルツ伯爵を知っているだろうか?」

「ええもちろん。ショルツ伯爵は私用の船を五隻ほど持っていらっしゃいますね」

「そのショルツだが、実はうちの嫁の弟でな。まあそう言う訳で融通が利くのだ。

 さてショルツ伯爵の持つ船のうち、三ヶ月後に契約が終わる船が二隻ある。もちろん今の相手が身を退けば~だがね」

「急な話です、ならば身を退いて貰うのは難しいのではないでしょうか?」

「いいやそうでも無い。

 いいかね、ひと月時期がズレはするが、君が借りている組合の船が開くだろう。ならば多少の融通は利くと言うことだよ」

 つまりとっくにオストワルト子爵夫人たってのお願いと言うことで、身を退いて貰う手筈が整っているらしい。

「その様な口利きまでして頂けるとは感謝以外に言葉が有りません。

 後は料金の方ですが……」

 言いたくはないがこれが一番大事な所だから確認しない訳には行かなかった。

「それなら安心してくれ。組合の契約料と同じで良いと義弟から確約を貰っているよ」

「有難い! ぜひお願いします」


「ふふっ骨を折った甲斐があったな。

 まあ問題は三ヶ月後と言う話だが……

 確か君の契約が切れるのは二ヶ月後だっただろう。開いた一ヶ月を君はいったいどう乗り切るつもりかね?」

「月に一度きりですが知人から一隻だけ船を借りれることになっています。

 それを使って少しばかり悪巧みをしてみようと思っていますよ」

「ほぉ詳しく聞いても?」

「もちろん構いませんよ」







 フリードリヒは一隻だけ融通が利いた船を使って穀物をいつもより多く仕入れた。しかし市場に出すのはいつも通り。それどころか契約終了の月はいつもの半分しか出荷しなかった。

 そしていよいよ迎えた契約更新の時、フリードリヒは契約を打ち切った。

 フリードリヒの船の賃料が上がることを知るのは、これを仕掛けてきたザロモンだけだ。契約更新の月が終わり、組合員からフリードリヒが契約を更新しなかったと聞いてザロモンは歓喜した。

 フリードリヒの船が出ないことは、きっと来月になれば誰もが知る情報となるだろう。だが今月これを知るのは俺だけだ。

 仕入れれば仕入れただけ売れるぞ!

 欲をだしたザロモンは、フリードリヒが供給するはずの穀物を余分に仕入れるようにと指示をだした。


 さてフリードリヒは先月の分を少なく調整して出したから、今月の船が入る前、市場は一時的な穀物不足に陥った。

 明らかな供給不足により穀物の値段は高騰する。

 待ってましたとばかりにフリードリヒは倉庫を開けて、二ヶ月の間余分に買っておいた穀物を一斉に市場に放った。

 高値のまま余剰分を売り抜き、フリードリヒの商店はかなりの売上を出した。


 穀物の値段がすっかり落ち着いた頃、今月の船が戻って来た。

 さてフリードリヒが売ったのは、二ヶ月の間余分に買っておいた分と先月出し渋った半分で締めて等倍。

 つまり今月の穀物はいつも通りで足りている。

 従ってザロモンが追加で仕入れたフリードリヒの分は完全に余分だ。

 穀物の値段は、過度な供給と月初めの高騰の煽りを受けて一気に下落した。もしもザロモンが余剰分の穀物を保管する倉庫を持っていたなら、フリードリヒと同じように時期を見合わせることが出来ただろう。

 だが彼が買ったのは市場で五本指に入るだろうフリードリヒの不足分。そのような過剰な量を保管できる倉庫がすぐに確保できるはずが無かった。

 これによりザロモンの商店は多大の損害を出した。

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