28:黒い噂
商売の基本は時と場所で得た差額。
だったらその二つを掛け合わせたらさらに効果があるのでは?
わたしがポロっと漏らしたその疑問に、フリードリヒが肉付けしたのが今回の案。上手く行ったようで何よりだわ。
ただしこれは一度きりしか使えない手だ。
今後もザロモンに対抗するには、組合に属さない船を借りなければならない。
だがその船もオストワルト子爵の口添えで何とかなったそうだ。
「本当に良かったです。
それにしてもオストワルト子爵閣下には感謝しかありませんね」
「ああオストワルト子爵はもちろんそうだが、俺はきみにこそ感謝しているよ」
「あらどうしてですか?」
「あの夜会の日、俺が子爵を話している間、きみはオストワルト夫人に大層気を使ってくれたそうじゃないか。子爵夫人はそれがとても嬉しかったそうで、年齢を超えた友人としてきみを扱った。
その後も子爵夫人に呼ばれて頼みごとを解決したんだろう?」
「解決と言うか、乞われて案を出しました。
でも上手く行ったのはお孫さんのニコラウスの努力の成果ですわ」
「こういうのはリューディアがどう思ったかではなくて、夫人がどう思われたかだよ」
「確かにそうですね。
あっそうだわ。ねえフリードリヒ様、今回のお礼がてらに一緒に子爵のお屋敷にいきませんか?」
「なるほどな。そう言う所か……」
「いったい何の話ですか?」
「俺は船の契約を纏めて終わりだと思っていたが、リューディアにまた大切な事を気づかされたと言うことさ」
「むぅ~仰っている意味が解りませんわ」
「はははっいつまでもそのままでいてくれってことさ」
結局何を言っているのか解らずじまいで、煙に巻かれて終わった。
多大な損害をだしたザロモンの商会。
しかし僅か半年ほどでザロモンは商会の損失を埋めたそうだ。
果たしてどうやったのか?
それは彼と共に聞こえてきた黒い噂で概ね把握できた。
穀物を仕入れに向かう時に織物を持っていく、そして積み荷を降ろした船に穀物を積んで帰るのが一般的の流れだが、ザロモンはそこで奴隷や阿片を積んでさらに遠方の国へ運んでいるそうだ。
この国ではそのどちらも違法。
ザロモンは罰を受けてしかるべきなのだが、そこは異国でのこと、彼が直接関与していない風を装うことでいくらでも逃げ道があるそうだ。
「そんなことがまかり通るなんて……、間違ってますね」
「まあそう言うな。
目端が利く奴はとっくにザロモンから手を引いているようだから、遅かれ早かれ奴は孤立するだろうよ」
「孤立とは?」
「夜会で会った通り、俺とあいつの爵位は同じだ。
だが最近はめっきり呼ばれなくなったそうでな、そろそろ売りに出すのではと、専ら酒の席で笑い話になっている」
そうなればもう二度と夜会で会う事が無いのだと、思わずホッと息を吐いた。
「そんなに心配しなくとも俺が二度と君には近づけさせんよ」
「あ、ありがとうございます」
護ってくれないとは思っていないけど、そんなに真っ直ぐに言われると流石に気恥ずかしくなり赤面なしで返すことは出来なかった。
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