第3話 2階のあの部屋!

朝が来た。ケビンとハンスは寝ぼけまなこで談話室の時計を見た。朝8時30分を少し回っている。空腹を覚えていた少年達は冷蔵庫からテーブルへ、おむすびやハンバーガーやサンドイッチを並んべて適当に食べる。

外はやや薄曇うずぐもりだが、薄日が針葉樹林の森と湖面を照らしている。

「今日は夕方、パパが迎えに来るまで、昨日の続きで、庭の草刈りと掃除だよ!」

ハンスは弾んだ声で言ったが、ケビンは乗りきれない。もともと草刈りとかは苦手だし、昨夜の恐怖体験で寝不足だったからだ。

ケビンは憂鬱ゆううつな表情をしながら庭へ出た。少し動いただけでも汗ばむし、寝不足で気分がすぐれない。

「つらい!」

ケビンはとりあえずかまを持って手近な草を刈って1ヶ所に集めた。空の雲がだんだん少なくなって夏の太陽がケビンやハンスの体を火照ほてらせ、動きをにぶらせる。

刈り取った草木は、自然へかえす。針葉樹林が並ぶ所まで運ぶ。ときどき湖をながめながら、針葉樹林から発するマイナスイオンを浴びると心がなごんでくる。

なんとか体を動かして庭の草木を整えているうちに昼になったので、洋館の談話室の冷蔵庫に入った食べ物をテーブルに乗せて食事をしたが、もっと食べたいと思えるほど、少ない量になっていた。

「動いて働いたからね。もっと食べたいところだけど、昼からもがんばろうよ!」

ハンスの前向きな発言で、ケビンもがんばる意欲を見せ、昼からも汗だくで動いた。

「もう、これくらいで良いだろうね。だいぶ片づいたし。パパもなっとくしてくれるだろう!」

ハンスがそう言うころには日はだいぶ西へ傾いていた。

「ハンスのパパはボクらに庭の掃除をさせるためにボクらを洋館へ誘ったのかな?」

「そうかもね!」

ケビンの問いにハンスは、いたずらっぽく笑いながら答える。ちょっと少女っぽい。


疲れた体で洋館へ戻って身支度みじたくをしていると、談話室の電話が鳴る。ハンスのパパからだ。

「木材加工の仕事が長引きそうなので、そっちに迎えに行くのが遅くなりそうだ。仕事が終わりしだい向かうから、それまで談話室で待ってて!」

忙しそうな口調。製材所の所長として、生産した木材加工品を期限までにお得意先まで搬送する責任をけ負っているので何かと大変なのは息子であるハンスもなんとなくわかる年ごろだ。

「いつ迎えに来るのかはわからないね。それまでこの部屋でくつろごうよ!」

ハンスはそう言うと静かに目をつむる。けっこう疲れているみたいな表情だ。

ケビンも同じく目をつむっていたが、ふと、洋館のある場所が気になってきた。

この洋館の2階に湖に面した部屋。そこからだと、湖の絶景ぜっけい堪能たんのうできそう。

夕方だけど、まだいくらかは明るい。

「ちょっと2階へ行ってみたいな!」

ケビンがそう言うと、ハンスは少しあわてたような表情をしたが、結局はうなづいた。

昨夜、トイレへ行く途中にあった階段が見えた。幽霊っぽい何かを見た階段だ。

ケビンは一瞬、体がすくんだが、あの部屋がどうゆう部屋なのか興味あったし、湖の絶景ぜっけい堪能たんのうするチャンスは今しかないと思い、勇気を振りしぼって階段を登りつめて、少し廊下を歩いてあの部屋へたどり着いた。

ケビンがおそるおそるドアを少しずつ開くとホコリっぽくてむせてしまった。

けっこう広い部屋。2階で唯一の部屋らしい。室内にはベッド、古めかしい木の机、本棚、そして奥には、黒くつやめいたピアノがあった。

「あれっ、ハンスくん、なぜ懐中電灯を持ってきてるの?」

ケビンがそう尋ねると、ハンスは天井を指差す。

「2階は電気のスイッチと照明が外されて、電気が使えない。暗くなると真っ暗で見えないから、念のため持ってきたよ!」

天井には、かつて小さなシャンデリアでもついてあったっぽいようなあとがあって、長い間誰も出入りしていないみたいだ。

ケビンは、ベッドの上掛けシーツに茶色いシミがいくつかあるのが視界に入ったが、さほど気にせず、ホコリっぽい本棚のヘ目を移す。そして、一冊の本を手に取ると、ベッドのはしに座って本を読み始めた。

その本は、少年少女達が海の向こうの大きな島を冒険する、ファンタジー小説。

大きな島を奥へ奥へ進む少年少女達の活躍を食い入るように読んでいくうちに、だんだんと部屋が暗闇が支配していく。

「ハンスくん、懐中電灯を!」

ここで懐中電灯は命のつなと化す。

小説の少年少女達は、誰も居ないさびれたお城に入ると、どこからか、ピアノの鳴る音を聞く。

「ポロン!!!」

そこまで読んだところで突然、この部屋の隅にあるピアノが突然鳴った!

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