村へとやってきた
「村長さんはどちらにいらっしゃいますか?」
村の住人と同数は居るだろう部隊を引き連れてやってきたシュンユウが、髭を蓄えた老人にそう問いかけた。
珍しさと不穏さに、不安そうな顔をした住人たちが集まってくる。
「私が村長ですが……何か御用ですかな?」
鎧姿の者たちに動じること無く、髭を撫でながら村長が応対する。
シュンユウは唇を真一文字に結び、真剣な表情を浮かべて勢いよく頭を下げた。
それに続いて後ろで姿勢を正して待機していた騎士たちも一斉に頭を下げる。
「この度は私の監督不行き届きにより、この村への多大なるご迷惑をお掛け致しました、誠に申し訳ありません」
突然の謝罪に村長が太陽色の眼をぱっちりと開けて停止する。
何度か瞬きをして数秒考えた後、さっぱり分からないと言いたげな表情でシュンユウを見る。
「な、何の話ですかね?……あの、頭を上げてください」
そう言って頭を上げさせようとするが、シュンユウは奇麗なお辞儀の姿からピクリとも動かない。
「以前こちらの村を襲った魔物について調査したところ、我々騎士団の者が意図的に放ったものだと判明いたしました」
頭を下げたままそう言った。
この発言に周りに集まっていた住民たちがざわつく。
無論、村長も驚きを隠せない。
「ううむ、それは……」
村長が戸惑いながら髭を撫でる。
住民のざわつきを聞きながら、シュンユウは申し訳ない気持ちと不甲斐無さに奥歯を噛み締めた。
たとえ罵倒されても仕方が無いのだと、覚悟を決める。
「けれど隠さず、発見して、対処をした、そうですよね」
聞き覚えのある声が聞こえた。
下を向くシュンユウの顔を覗き込むように、怪物の顔が現れる。
「こんにちは、きちんとお仕事をされたようで何よりですね」
突然現れた怪物に、辺りが一斉に静まり返る。
騎士団の者たちも慌てて顔を上げた。
シュンユウやカンライ、村長などの怪物と面識のある者たちが怪訝な表情を浮かべて怪物を見つめている。
「お前か……」
先に動き出したのはシュンユウだった。
頭をぶんぶんと振り、気合を入れるように両頬を叩いて怪物に歩み寄る。
そして、握手を求めて手を伸ばした。
「えぇ、私のことを信用していただけたようですね」
怪物はにっこりと笑みを浮かべて、シュンユウの手を取る。
シュンユウが大きく息を吐きだして、手を離した。
傍から見れば意味の分からない光景だろう。
一連の動作を怪物を知らない者たちは困惑した表情で眺めていた。
「村長さん、魔物による損害は我々が責任を持って復旧いたします、また事件を起こした者につきましてもこちらで捕えています、今後はこういった被害を決して出さないと約束します」
しっかりと村長を見据えて、真剣な表情に戻ったシュンユウがそう誓う。
村長の髭を撫でる手は止まらない。
「うむぅ……そうか……しかし、特に損害は無かったからなぁ」
「へ?」
村長の言葉に、今度はシュンユウが目を大きく開いて驚いた。
間の抜けた返事をして、カンライの方に首を向ける。
カンライも少しだけ驚いたような顔をしながら、首を横に振るばかりだ。
「実は大丈夫だったんです、魔物の相手をできる人が居ましたからね」
怪物が少し得意げな顔をしながらそう答えた。
「お前がやったのか?」
そうシュンユウが聞き返すが、怪物はそれに首を振って答える。
「もうこの村には居ませんよ」
そう答えた怪物をじっと見つめるシュンユウとカンライ。
その視線を受けて、怪物はにっこりと笑った。
「皆さんはどうぞ本拠地へと戻って、今回の事件を片付けた方が良いでしょう、まだ次がありますから」
そう話した後に怪物はくるりと向きを変えて、今度は村長の方を向く。
「村長さんは皆さんに話がありますよね、今が丁度いい時ですよ」
訝しげに怪物を見つめていた村長だが、その言葉で周りの住人たちの方へと移動を始めた。
その様子を満足げに眺める怪物に、シュンユウが近づく。
聞きたいことが整理しきれないほどたくさんある。
質問を投げかけようと口を開きかけるが、それよりも先に怪物が話し始めた。
「私はあなた達では理解できません、行動は私の趣味の為です、私の行動はあなた達の思い通りにはできません、あなた達がするべきことは聖女の指示を仰ぐことです」
質問をしてもいないのに答えだけを怪物に渡されて、口を開けたままシュンユウが固まる。
隣に居たカンライが大きくため息をつく。
「担い手様、嫌ですけどこの怪物の言う通り、一度帰りましょう」
そう言ってシュンユウの首根っこを掴んで、野営地の方へと引き返していく。
その様子を怪物は笑顔を浮かべながら見つめていた。
「危ない転ぶ転ぶって!?」
掴まれたまま後ろ向きに歩くシュンユウ。
危ないと言いながらも特にカンライに抵抗する事無く歩いている。
その様子を見て、騎士団の中からもくすくすと笑い声が上がった。
「あー!?笑ったの誰だー!?」
憤慨したような声を上げるが、シュンユウは笑顔だった。
緊張した空気は既に無く、どこか気の抜けた雰囲気が漂っている。
けれど、シュンユウの胸の内は穏やかではなかった。
昨日まではこうして笑い合っている中に、裏切り者が何食わぬ顔で紛れていたのだ。
何の罪も無い住民を襲わせる算段を立てながら。
「担い手様」
「んうぉっ……っと」
いつの間にかカンライが手を離していて、シュンユウは危うく本当に転びかける。
恥ずかしそうに頭を掻きながら、きちんと進行方向に向き直った。
「……あなたは馬鹿なんですから、難しいことを一人で考えないでください」
そう言い残して一人先を行くカンライ。
置いていかれないように、騎士団とシュンユウがその後ろを走って追いかけていった。
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