06
それくらいならいいかと思った
なんでも朝一で食材が補充される仕組みになっているようで、後でなくなったものは注文するらしい。
「さあ、いざ尋常に勝負! 今回こそわたしが勝つッ!」
張丘が疲れていても目を輝かせていた理由はこれか。
思い出せば大学ではつきまとってくるわ。
アルバイト先の定食屋にまでくるわ(次の日には働いているし)。
夏休みに実家に行くことになるわと、たかがサークルで作った料理の評判がよかったくらいで、ここまでずっと一緒にいるようになるとは思いもしなかった。
でもまあ、勝負自体はどうでもいいが、お世話になる皆さんに夕食を作るのは良いことだ。
あまり意識しないようにやろうと思い、早速厨房を借りることにする。
「フフン、わたしの料理の腕が上がったのを、みんなに味わってもらうんだからね!」
隣では自信に満ち溢れた張丘の声と共に、トントントンという包丁を使う音が聞こえてきていた。
すでに何を作るかは決めているようで、さすがに早い。
というかズルい。
「あ、ちなみに制限時間は60分だから」
開始してから言うなよと思ったが、それにしても短すぎる。
自分ひとりなら適当なものでいいが、この店全員分の
さすがにそうもいかない。
何よりも手足が重い。
時間も体力もないので凝った料理は難しそうだ。
だが張丘のほうへ目をやると、彼女は凄まじい勢いでこの料亭でも出せそうな料理を作っていた。
そんな張丘の見事な手際に、彼女の祖父も他の料理人たちも舌を巻いていた。
一方で俺のほうはいうと、料理をする張丘に見とれてしまっていた。
いろいろと面倒をかけられているというのに、笑顔で包丁やお
「余裕ね。いつまで見物しているつもり?」
張丘に注意され、ようやく我に返った俺は、何を作ろうか考えながら冷蔵庫を開けた。
肉に魚、野菜に果物と、午前中に比べれば減っていたが、材料の品ぞろえは豊富だ。
調味料の種類も雑用をしているときに確認しているので、和洋中となんでも作れそう。
ここは慣れている定食屋のメニューを出そうと思って、食材に手を伸ばそうとしたとき、突然ガクッと足が曲がった。
やはりかなり疲れている。
うん?
疲れている?
そうか、なら作るものは決まっているじゃないか。
「やっと料理が決まったみたいね。でも大丈夫? なんかしんどそうに見えるけど」
鍋を見ながらこちらの心配をしてくる張丘。
勝つためにこの舞台をセッティングしただけに余裕な態度だったが、本気で心配しているように見える。
そのときの張丘は、きっとただ純粋に俺と料理勝負をしたかったのが伝わるような表情をしていた。
彼女は計算高いタイプではないのを知っているだけに、なんとも複雑な心境だ。
状況は不利だが、別に俺は勝つために料理を作るわけじゃない。
疲れている皆にただ美味しい料理を食べてほしいだけで、この厨房に立っている。
「両者それまで」
そして時間となり、張丘の祖父が調理時間終了の合図を出した。
張丘の作った料理はすでにわかっていたが、やはり懐石料理のフルコース。
もちろん盛り付けにもこだわっており、まさに豪華絢爛な料理だった。
コース料理をよく一時間で、しかもちゃんと人数分完成させたものだと、感心するよりも驚きのほうが大きい。
対する俺が作った料理は、きゅうりの梅肉和え、レンコンのキムチ炒め、ほうれん草とにんじんのアーモンド和え、山芋マグロのとろろご飯と、彼女に比べるとかなり見劣りするものだった。
しかし、これでいい。
これが俺なりに考えて皆に食べてほしい料理だ。
「じゃあ、みんなで食事にしましょう。さあ、運んでちょうだい」
張丘の声と共に、厨房の外で待機していたと思われる仲居さんたちが入ってきた。
仲居さんたちが無駄のない動きで料理を運び始めると、俺たちもそれに続いた。
着いた場所は宴会場――どこかの旅館かと思うような掘りごたつ席だった。
20人はいる従業員や仲居さん、料理人全員が座ることができる部屋がここくらいなのだろう。
それにしても、料亭にもこんな宴会場なんかあるんだな。
なんか料亭というと、少人数で顔を突き合わせて商談やら交渉やらやっているイメージだったが、どうやらドラマの見すぎだったらしい。
「全員席に着いたな。では、実食」
俺がそんなくだらないことを考えていると、張丘の祖父が食事の挨拶をし、皆も
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